第26話 奪われた商売道具

 1789年12月9日。右手の複雑骨折が完治した僕は、黄金の鏡へと向かって歩いていた。


 あいつらと会うのは久々だなぁ。1か月ちょいぶりぐらいかな。楽しみだなぁ。今日は一体何をするんだろう。


 最近の世の中はピリピリにピリついている。各地では反乱や一揆が頻発し、革命軍はそれらの援助やらなんやらで大忙しだ。


 そういうこととかがあったせいで中々予定が合わなかったのだが、今日、遂に3人の予定が合致した。超楽しみである。


「フフン~~フフフン~~フフッフフッフフ~~~」


 鼻歌を歌いながら歩いていると、店に着くのはあっという間だった。

 店に着き、扉を開けようとしたその時、中から絶叫に近い大声が聞こえてきた。


「なんだってぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」


 おいおいどうしたってんだよ。

 僕は、急いで中に入ると、そこには頭を押さえるヴィーム、フェルン、ニュイルさんがいた。


「どうしたよ3人とも。外まで聞こえているぞ」


「カルターナさん……実はですね……その、盗られちゃったんですよ……」


「え? 盗られたって、何が盗られたんですか?」


 僕のその発言に、ニュイルさんが重々しく答える。


「……うちの商売道具である巨大な水晶玉を盗られてしまいました……」


「そ、それは本当なんです……か?」


 僕は思わず聞き返してしまった。あまりにも唐突すぎることに目ん玉が飛び出るほど驚いた。


「一体どこのどいつなんですか。水晶玉を盗っていったのは」


「おそらくメルネイ盗賊団の仕業だと思います。うちの水晶玉、実は世界に1つしかない巨大な水晶玉で、値段は最低でも20億ユーロはすると言われているんです。

 そのせいで、前々から盗賊団には狙われていたんです。もちろん、対策はしてきました。ですが今回は……効かなかったようです……」


 なるほど。状況はだいたいわかった。犯人はおそらく屋根から入ってきたのだろう。天井に1か所、円形の穴が空いている。これは相当な手練れがやったのだろう。形跡が全く見つからない。


 いやしかし、これは困ったなぁ。水晶玉って、僕達を占ってもらったときに使ってたあれだろ? 

 このままだと、この店は潰れてしまう。そうなると、フェルンの日常が大変なことになる。何とかしなくっちゃ。


 頭を抱える3人に対して、僕は1つ提案をする。


「なぁみんな。奪われたもの取り返しにいこうぜ」


 その時、みんな一斉に驚愕し表情に急変した。


「え、えぇとそれはつまり……アジトを襲撃する……ということですか?」


「そのとおーり。その方が確実で、手っ取り早いでしょ?」


「確かにそのやり方は確実で、手っ取り早い。でも、現実的に考えて無理だろ!! 俺とお前とフェルンしかいないのに。それに、アジトの場所だって探さないといけないのに!!」


「おいおいおい。誰が真正面からガチンコ勝負するって言ったぁ? それに、アジトはきっと見つかる。なんたって実在するんだから」


 僕には、なぜか見つかるという確信があった。理由はわからない。でも、自信を持って言うことができた。

 ヴィームは、やれやれ顔で返答をしてきた。


「……まぁでも、それ以外方法はないわな。盗んだ奴は、おそらく幹部クラスの人間だろうしな」


「私も賛成だわ。今まで嫌がらせをしてきたあいつらには、いつか仕返しをしようと思ってたところだし。どうせやるなら、盗賊団を壊滅させましょ」


「私も参加いたします。本来、この事件の責任は私にありますから、皆様に任せっぱなしのわけにはいきません!」


「決定だね。それじゃ早速準備に入ろう。まずはアジト探しからだ!!」




 水晶玉事件が起きてから13日後の12月22日。この日、僕達は黄金の鏡に集まっていた。

 店は今、建物の改修を口実に、25日まで店を閉めている。もちろん本当に改修を行っているのだが、本題は水晶玉を奪い返すことだ。

 あれから僕達は、血眼になってアジトを探った。結果、ついにアジトを発見することに成功し、今こうして襲撃の作戦会議をしている。


 僕達は今、地図を広げた机の周りを取り囲んでいた。


「決行日は12月24日はどう? ちょうどクリスマスイブで、警備が薄いはずだから」


「僕は賛成だ。みんなはどう?」


「俺も賛成だ」


「私もです」


「決まりね。それじゃん今度は、作戦を決めましょう。何か意見はある?」


 うーんどうしようか。

 アジトは山のふもとにある横穴かあらアリの巣のような構造となっている。つまり、入り口が1つしかないのだ。

 最初の門番ぐらいは倒すことができるだろう。でも、中に入ってしまうと倒して進んでいくわけにもいかなくなる。相手は数千人規模の盗賊団だからな。なるべく隠密に行動したい。


 沈黙が場を支配していたとき、ヴィームが口を開いた。


「こんなのはどうだ? まず、4人のうちの1人が、陽動の意味もかねて入り口から潜入する。そのあと、残りの3人が、必ずあるであろう非常口から中へと潜入する。というのは」


「なるほど……僕はその作戦に賛成だ」


「私も賛成です。守りの堅いアジトを攻略するには、現状それが一番だと考えます」


「満場一致で決まりね。集合時間はどうする?」


「それじゃ昼の1時はどうだ? 大半の奴が酔いつぶれているだろうしな」


「オーケー、それでいこう。確認するね。決行日は明後日の12月24日のクリスマスイブ。時間は昼の1時ちょうど。作戦は、4人のうち1人が正面から突入して、残りの人は非常口から突入する」


「「「了解」」」


「それじゃ行くわよ!!!」


「「「おぉぉぉ!!!」」」


 非常口はおそらく入り口から離れた場所にあるだろう。警備があるから事前に下調べはできないが、当日は真っ先に調べることにしよう。


 その日から2日後。僕達は決行の日を迎えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る