第24話 最後の鍵

「はぁ……はぁ……倒し……た……」


「副団長!!!」


 これは酷い。体中ボロボロだ。生きているのがやっとのように見える。今すぐ治療をしなければ!


 戦闘は、今、終わろうとしていた。魔法使いたちは廃兵舎組によって倒され、外の敵はほとんどが倒されている。

 しかし、被害は尋常ではなかった。建物の4分の1以上が崩壊し、同志も、最初の頃よりも明らかに少なくなっている。地面は真っ赤に染まっている。


 僕達は、近くにいた救護班に運ぶよう頼むと、副団長がゆっくりとしゃべりだした。


「3人とも……生きてたか……よかったよかった」


「副団長は大丈夫なんですか?! 僕より傷がひどいですよ!!」


「ははは……そうですね……ねぇカルターナさん。あなたには……はぁ……はぁ……あの死体を漁って……めぼしいものを見つけて……きてください……」


 そう言って副団長は、プルプルと左人差し指を上にあげると、前方斜め前を指さした。

 そこには、胴体右斜め下にぶった切られた男の死体があった。


 あいつは、建物に入る前の……。


「わかりました。副団長」


 僕は、副団長が担架で運ばれていくのを見送った後、死体の元へと向かった。


 鞄、衣服の裏側、靴の中と、隅々まで探していると、指先に何か硬いものが当たった。

 何かと思って引っ張り出してみると、それは石だった。


 ただの石じゃんない。形が普通じゃんないんだ! 上に円形の石が、下に長方形の石が合体しているこの石は、まさしく僕達が求めていたそれだった。

 そりゃぁ建物中どこを探してもないわけだ。まさかこんなところにあったとは。


「ヴィーム!! フェルン!! 最後の鍵が見つかったぞぉぉ!!」


 それを聞いた瞬間、2人は風のようにやってきた。


「本当か?!」


「あぁ本当だぜ。ほれ」


 僕は、2人の目の前まで鍵を持ち上げる。


「本当だ。やったわ! これで武器庫の扉を開くことができる!!」


「そういうこったぁ。早く行こう!!」



 ドデカい扉の前に再び来ると、僕は右の壁に鍵をはめていく。


 すると、全方面の壁が青く光りだす。同時にゴゴゴゴという音が轟く。

 光が収まり、ゆっくりとまぶたを上げる。目の前には、全開に空いた石の扉が、僕達の行く道を照らしだしてくれていた。


 僕達は、中へと進んでいく。中には松明が等間隔に置かれており、じめじめとした雰囲気が、しばらくの間続いた。


 カツゥゥゥンン……カツゥゥゥンン……。


 靴の音や水の音、話をする音などが混ざり合った音が、辺りに響き渡る。


 目の前が急に開けると、そこには広大な部屋の中に、大量の武器が保管されていた。

 銃に玉、剣に槍、短剣、鎧、盾と、全ての武器や防具が置かれてあった。


 僕達は数秒ほど口が開きっぱだった。想像以上だったのだ。誰しもがこんな量の武器や防具があるなんて思っていなかったのだ。

 そして、誰かが口を開いた。


「や……やったぞぉぉぉぉぉ!!!!!」


「武器だぁぁぁぁぁ!!! 防具だぁぁぁぁぁ!!!」


「「「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」」」


 一言が、水面上を広がっていく波紋のように人から人へと伝わっていき、やがて大きな歓声を結成した。

 当然、僕達もその輪に混じる。


「行くぞぉぉぉぉぉ!!!」


「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」」」


 興奮冷めやらぬ中、1人の男の号令がかかる。

 かかった瞬間、皆が一斉に武具目掛けて走り出していく。雪崩となった人の流れは、次第に物資の流れとなり、リレー形式で荷物が外へと運び出されていく。

 川そのものになれたような気がした。僕は今、革命軍の一員としてここにいるんだな、という思いも感じることができたような気がした。


 今ここに、命をかけた意味があったんだ!! という思いが、重みが……体全体を駆け巡っていった。


 中にあった武器や防具をあらかた外の運び込んだころ、2人が僕に話しかけてきた。


「なぁカルターナ。俺達、本当に踏み出したんだな。一歩を」


「あぁ、踏み出したな。確実に」


「最初は怖かった。恐ろしかった。でも、踏み出せた。足跡を残すことができたんだ!!」


 フェルンの言葉に、僕達は力強くうなずく。


 今日は……本当に……生きててよかった……。


 最初の一歩を踏み出せたことへの余韻に浸っていると、ヴィームが驚いたような顔をしてきた。


「お、おい……カルターナ。お前のブレスレット、どうしたんだよ」


「え? ブレスレットがどうかして…………!!!???」


 ヴィームが指差す方向を見てみると、そこには、


「ぼ、僕のブレスレットが……ない!!」


 左腕にあるはずの僕のブレスレットが……なくなっていたのだ!!


「え?! ど、どうしてないんだよ!!」


 マジな僕は、ヴィームの両肩に飛びつく。


「俺が知るかよぉ! 一体どこにいったんだ? フェルン、お前は何か知らないか?」


「わ、私は知らないよ! そのブレスレットやらがどうしたっていうんだよぉ」


「あのブレスレットは、僕の母の唯一の形見なんだ!! 四六時中肌身離さずに持っているとても大切なものなんだ!!」


「!!! それは一大事ねぇ。特徴とかはわかる?」


「あぁもちろんだ。色は銀色で、長さは5センチ程度。不規則に丸い錆が2つある」


「なるほどぅ。よしわかった。一度水晶で占ってみよう」


 するとフェルンは、鞄から小型の水晶玉を取り出してきた。


「え? その小さな水晶玉でどうやって探すっていうだよぉ」


「おいおい。これでも私の本業は占い師だぞぉ? 忘れもの占いなんて朝飯前さ! じゃ、いくよ」


 フェルンは、その場で目を閉じ、占いをし始めた。手には黄金のもやのようなものがかかっている。

 はやる気持ちを抑えて待っていると、フェルンがゆっくりとまぶたを上げた。


「なぁフェルン。その靄はなんだ?」


「これは黄金血殻っていうんだけど、説明はまた今度。占いの結果がでたよ」


 彼女の言葉に、僕は思わず固唾を呑みこむ。


「来たる12月まで待て。さすれば道は開かれる。だそうです」


「はぁぁぁ?!」


 12月ぅぅぅ??? 5か月もあるじゃんないか!! そんなに待っていられるかぁ!!


「何でそんなに待たなきゃいけないんだよ!! そんなに待っていたら、ブレスレットがどうなることか知ったこっちゃねぇ!!」


「で、でも、これが結果なんだよ」


「まぁ落ち着けってカルターナ。ここは大人しく占いにしたがっとこうぜ。ブレスレットも大事だが、その前におん前の右手を治すことが最優先だ。お前、このままだと、一生右手が使えなくなるぞ」


 確かに、僕の右手は大惨事になっている。複雑骨折だから治るまでに、最低でも3か月はかかるだろう。それほどの怪我だ。でもだ!!


「それでも僕は!!」


「い・い・か・ら!! ごたごた言わずに怪我を治せ!! これは決定事項だ!! いいな!!」


「……わかったよ。君の言う通りにするよ。ただし!! 怪我が治り次第、すぐに捜索を開始する。いい?!!」


「あぁいいぜ。もちろんだ」


「私ももちろん参加するよ!!」


 こうして僕達は帰路についていった。


 この戦いで、僕は多くのことを学んだ。得たもの、失ったものもある。でも、僕は進み続ける。進み続ける義務があるんだ!!


 ハイブト監獄襲撃作戦、成功。

 襲撃参加人数、1152名。うち、死亡者数171名。重症者数、367名。中傷者、523名。軽傷者、80名。その他、11名。

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