第23話 最後の砦
3人が扉を見つける十数分前。建物、表口前。
監獄長VS副団長。
「はぁぁぁぁぁぁ!!!」
ガキィィィンン!!! という音が、私の耳を貫いていく。辺りは建物の崩落のせいで大惨事だ。
瓦礫は広範囲に飛び散り、多くのものが下敷きになっている。監獄の敷地の多くが血で埋まってしまっている。
そこに加えて、屋上の魔法使い。相も変わらず、火の玉を豪雨のように連射してくる。辺り一帯はすでにクレーターだらけになっている。
魔法使いもなんとかしなければならないが、今、私の目の前にいるこいつもなんとかしなくてはならない!
男の名はアイジス。大柄の監獄長だ。アイジスは……とんでもなく強い。
「はぁぁぁぁぁ!!!」
「ねりゃぁぁぁ!!!」
奴の剣と私の拳がぶつかり合う。
あいつが鎧を装備していないっていうのが、不幸中の幸いだ。いくら四肢に鉄の補助装備付けているとはいえ、鎧に穴をあけることのできる自信はない。
さっきからずっと攻撃しているのに、何一つ本体に届いていない。全部受け流されている。
アイジスとは、互角もしくは……劣勢。
「……ここらで一発……」
「!!!」
マズイ、あれが来る!! とにかく奴から目をそらすな! 微細な動きまで見極めるんだ!!
奴の右足が10度右にずれた瞬間、あいつの体が何重にもブレた。その状態で私に近づいてくる。
この技はさっきから何度も食らっている。だから、発動前の癖も判明している。なのに避けることができない。この私をもってしても避けることができない!
団長ならもしかしたら避けることができたかもしれない。でも、私にはできない。
動きが速すぎる!!
「我、斬るもの友にあらず。我、斬るもの朋あらず。我、その
く、来る!! 左だ!!
「
左方向に防御態勢をとった瞬間、刃が右方向からやってきた!
まただ。また、予期した方向と真逆の方向だ! 奴が剣を振る瞬間、刃が無数に分裂して襲い掛かってきたように見えた。
人間は、超人じゃんない限り、一度に複数のことを同時に処理することは困難を超えた困難だ。
私はこの技を受けるたびに脳に猛烈な負荷がかかる。そうさせられているのだと、わかっていても止めることが出来ない斬撃は、不可避の一撃となっていた。
「ナマガビィィィィィ!!!」
私はとっさに右手を移動させ、攻撃を受けた。だがしかし、刃は鉄を貫通し、肉を切り裂いた。鉄は真っ赤になり、斬られたところは骨が見えかけている。
斬風で体が2メートルほど吹っ飛ばされ、地面に叩きつけられた。
「どうだい、リーダーさん。血の味は実に美味だろぉう?」
「おかげさんでねぇ……」
参ったなぁ。このままじゃ勝てない。両足はすでに熱しすぎたソーセージみたいになってるし、右腕はあと一発ってところだし。まともに動かせるのは左腕一本と言ったところだろう。
奴は勝ち誇った顔でどんどん近づいてくる。一方の私は、着地時の衝撃で数秒動けそうにない。
本格的にヤバい。
「さあてと。嬢ちゃん、ここまでよく頑張ったねぇ。褒めてあげるよ」
「ああそうですか。そりゃどうも」
「本当によく頑張ったよ君は。ご褒美として、監獄長である私自らが……君の心臓と脳を串刺しにしてあげよう」
そう言うと、左手に持っていた剣を、右手に持ち直す。すると、さっきと技を繰り出す時とはまた違った構えをとってきた。
「我、斬るもの友にあらず。我、斬るもの朋あらず。我、その
マズい。これは本当にマズい。あれは……人を串刺しにするときに使うような技じゃんない! あれは、人を細切れにするときに使うような技だ!!
「
どうするぅどうするぅ。このままじゃ犬の餌になってしまう!! なんとか、なんとかして避けるんだぁ!!
「
来る! ……!! この音は!! 間に合ったのか、あいつらが!!! なら可能性はある。この攻撃はなんとしても避けるんだ!!!
「
ついに振り下ろされた。これを、見て避けるのは不可能! だから……未来を信じて闇雲に転がる!!
私はとっさに右方向に転がる。目に砂が入ってまぶたが上がらない。それでも、私は転がる! 先は見えずとも、”今”は見ることができるのだから!!!
ドバラガラシャァァァンン!!!!!!
剣が地面に叩きつけられる音がすると同時に、私の体が宙に浮く。
「転がったぐらいでぇ、逃げられると思うなぁぁ!!!」
「いや、逃げられるさ。あんたには聞こえないのかい? 遠くから鳴り響く福音が!!」
「なにをいいグラバァァァァァァ!!!!!」
奴の右手に、鉛が音速で通過していく。突然の痛みに、左手で右手を押さえると同時に、地面に剣を落とす。
「どうやら間に合ったようだね。ミューマ」
「はい! 廃兵舎組、ただいま合流いたしました!!」
「よく合流してくれました。緊急命令です。あの魔法使いたちを倒してきなさい」
「了解です!!!」
その返事とともに、私は奴に向かって一直線に進む。
「このやろぉぉぉ……ふざけやがってぇ!!」
「激昂している余裕なんて、あなたには存在しない」
私は、落ちている奴の剣を拾うと同時に切りかかる。
「ぬぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「こいつぅ!!!」
奴は左腕を使って防御壁を作ってきた。もちろんのこと、腕に鉄の補助装備はつけていない。このまま腕ごとぶった切ってやる!!!
「ぬぁぁぁらぁぁぁぁぁ!!!!!」
ズブズブと剣が走るように腕を斬っていく。あと少しだ。あと少しなんだ!!
どんどん入っていく。奥へ奥へと入っていく。その時だ、骨に当たって一瞬流れが止まってしまったのだ。
奴は、この瞬間を逃しはしなかった。
「舐めるなぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
「ガファルヴァァァァァァァァ!!!!!」
巨大な拳が、私の腹部にのめりこんでいく。大量の血が体外に放出されていく。内臓が飛び出していきそうだ。
でも、こんな攻撃で……私の信念は……止まりはしない!!
私はとっさに体を上に浮かせ、拳のダメージを少しでも軽減すると、そのまま剣をスライドさせていく。
「ぬあらぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
ザバシュバァァァン。
うつ伏せ状態で着地した私が上を向いたとき、そこには右から斜めに切り降ろされた奴の姿があった。
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