第21話 二つ目の仕掛け
私の両手に、黄金の
「て、てめぇ、一体何なんだそりゃぁ!!」
奴は、眼光をより鋭くして私を見てくる。だが、全く怖くなかった。先程の恐怖が噓のようだった。体も心も、人生で一番身軽だ。
「何でもいい!! 死にやがれぇぇぇ!!」
奴は、とてつもない速さで動き始めた。
私は、奴が一歩踏み出す前に、バックに手を突っ込んで小型の水晶玉に触れる。
触った瞬間、目の前に青色の世界が広がった。私以外のものは全て青色の膜で覆われており、かつゆっくりと動いて見えた。それは、奴も同様だった。
斜め右後ろから、剣を持って切りかかってくるものが見えた。その瞬間、水晶玉から手を離し、目の前の世界を元通りにする。
奴が一歩を踏み出し、姿をくらます。前までの私ならここでやられていただろう。短剣を振る時の癖や、呼吸の律動、歩幅の間隔等見破られているだろうからね。
だが、今は違う。私は、もう負けない。勝って勝って勝ちまくって、ペイダス王国を革えるんだ!!
2秒後、奴は斜め右後ろから攻撃を仕掛けてきた。
「ギャラハミミミィィィ!! 今度こそ終わりだぁぁ!! 首はねやがれぇぇぇ!!!」
「……うるさい」
私は後ろを向き、短剣を奴の顔面に向かって振り抜く。奴は、滑空しながら再び驚愕していた。
なんせ、今まで防戦一方だった女が、急に攻撃を予測し始めたのだから。だが、何回見ても、奴の顔は気持ち悪くて嫌だ。だから、もう終わらせる。
「生意気なゴミカスハチがぁぁぁ!!!」
奴は、剣で私の短剣を攻撃してきた。おそらく、受け流すことしかできないと踏んで、さっきみたいに私の腕を弾きに来たのだろう。
しかし、奴の思惑が叶うことは一生ない。黄金血殻で強化された今の私は、こんな攻撃なんて屁でもないからだ!
私は、奴の剣を逆に弾き返してやる。ガキィィィンンン!!! という音が、辺りに響き渡る。
先程まで絶望を私に与えていたこの音は、今、この瞬間は、祝福の鐘の音に聞こえた。
もう何も……恐怖することはなかった。
「な、なんだとぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!」
「あなたには、刹那さえ生きる時間を与えない」
「なにを言いやがラギファラガビィィィィィィ!!!!!!!」
奴の喉笛に刃を入れると、ズブズブと中に潜りこんでいく。食卓に出された柔らかいパンを、ナイフで切るような感覚だった。
奴の本体は首と胴体に分かれ、辺りには血が”ドバシャァァンン”と広がっていた。
私はその光景がシュールに思え、なぜか突然笑いだしてしまった。自分でも頭おかしくなったんじゃんないかと思った。
今まで溜めていたものが、一気にあふれ出るような感覚だ。復讐が始まったことへの喜びなのかもしれないし、戦いの最中に沸き起こった恐怖の感情をごまかすものなのかもしれない。
よくわからない感情だ。こんなにも笑ったのはいつ以来だろうか。親に変顔をされた時か? それとも、初めてプレゼントをもらった時か? あるいは、外ではしゃぎまわっていた時か?
自分の中にあるどデカい一本の何か以外のすべてが崩れていく音がする。ホールケーキの周りの部分だけが、どんどんと溶けていくような感覚がする。
果たして……私には何が残るのだろうか……。
気づけば私は……その場で……ただ無言で……泣いていた。
「…………よし!!」
涙を拭った私は、2階の仕掛けを探し始めた。
崩れた本棚を持ち上げたり、本の中身を全部確認してみたり。しかし、どこにもそれらしいものはなかった。
私は焦った。早くしないと、またこの建物が崩壊するかもしれないし、何よりも下で戦っている人たちが持たない。
急げ! 急げぇぇ!!
ふと視線を向けると、そこには壊れた机があり、机上には石があった。あやしがりて寄りてみるに、その石はひし形をしていた。
明らかにおかしい。そう思った私は、ひし形の石を手に持ってみる。すると、石は突然”ピカァァァン”と光りだした。
次の瞬間、1メートル離れた床に、不規則に乱れた光るひし形が出てきた。しかし、中央だけは全く光っていなかった。
私は直感した。この石は、あそこにはめるのだと。
私は、乱れたひし形まで来ると、その場にしゃがんだ。そして、ゆぅぅぅっくりと、中央に光る石を正確に置く。
石はこれまたゆぅぅぅっくりと床に沈んでいき、やがては乱れるひし形と同化した。
「よし、成功!!」
その場に立ち上がると、私は、3階に行くための階段を探すため、部屋を後にした。
フェルンが仕掛けを解く数分前。
「はぁ……はぁ……」
僕達は、2階に上がるための螺旋階段を上っていた。複雑骨折している右手を、木と布を使って固定して走っている。だが、やはり辛い。
2階着いて、扉を開けようとした時、勝手に扉が開いた。中からは、フェルンが出てきた。
「フェルンじゃんないか。仕掛けは見つかったか?」
「もちろん。見つけて解いたわ。そっちは?」
「こっちも解き終わったよ。残りはあと1つだね」
「そうね。早く行きましょ!」
「「応!!」」
3階に続く螺旋階段を、僕、ヴィーム、フェルンの順に上っていく。フェルンに、向こう側の螺旋階段とその周辺が崩壊したという話を聞いた辺りで、僕達は無事に3階に到着した。
3階は全て囚人部屋となっており、奥まで全部同じような光景が広がっていた。
これはきついなぁ。
「さぁ、行くわよ!」
左はヴィーム、右はフェルン、真ん中は僕の3手で探すことにした。囚人部屋には、基本的に何もなかった。強いて言うならば、地面よりも数センチ高い長方形の塊に、藁が敷いてあるぐらいだ。
そんな部屋を、僕達は隅々まで探していく。丁寧かつ迅速に見ていくと、気付けば建物の端っこまで来てしまっていた。
正確には、崩落後の建物の端っこである。実際には、まだ4分の1もある。
今にも崩落しそうな場所なので、先程の倍以上の注意を払って中に入っていく。
部屋の3分の1以上が崩落しており、一歩踏み外せば奈落の底へまっしぐらな状況だった。
ここは特別な部屋だったのか、中には家具らしきものがちらほらあり、残骸ではあるが、寝具や椅子などがある。
中でも机は原型をとどめている方であり、欠けた3本の脚と天板が半分ほどない状態だった。
「ここのどこにあるってんだよ! もう最後の部屋だぞ!」
「慌てるな、ヴィーム。まだその時じゃない」
とは言いつつも、実のところ焦っている。もう部屋の過半数は調べた。細かな瓦礫だって調べた。でも出てこない。あと1つ残った机に何もなければ、振出しに戻ってしまう……。
そんな雰囲気をぶち壊す一言が、フェルンの口から発せられた。
「あったよ! 仕掛けが!!」
「!! ど、どこにあった?!!」
「ここ、ここ! 机の裏!!」
フェルンの指差す方向を見てみると、確かにあった。机の裏に、円柱の物体が飛び出していた。
おそらく、この物体を上方向に押し上げてやると仕掛けは解けるのだろう。だがしかし、
「きついなぁ……」
足場がすこぶる悪い。その物体は、空中にある。手を伸ばしてギリギリといったところだ。一歩でも踏み外したら終わりだし、かといって挑まないわけにもいかない。
一体どうすれば……。
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