第20話 黄金の血

 こ、こいつ。狂人になりやがった!!


 動け! 私の体ぁぁ!! ぬあぁぁぁぁぁぁ!!!


 私は、奴の喉笛目掛けて突き進む。あいつはまだしゃがんでいる。今がチャンスなんだ!

 奴の首に切りかかったその時、眼前から奴が消えた。

 先程に比べて断然速い! これはマズイ。切られてしまう! 落ち着くんだ、私。神経を研ぎ澄ますんだ。五感全てを使って感知するんだ!


「ふぅぅぅぅぅ……」


 右、右下、左、前、左上、左下、右上、後ろ……来た!!


「そこぉぉ!!」


 私は思いっきり後ろに向かって短剣を振り回した。私の勘は当たり、振った先で、ガキィィィンンンンン!! という音が辺りに響き渡る。だが、奴の力は先程とは比較にならない程に強くなっていた。

 前回は……受け流すのに精いっぱいだったってのにィィィ!!


 次の瞬間、私の短剣が弾かれた。短剣自体は手の中にある。だが、左腕が宙を舞っていた。胴体がガラ空きになっていた。

 私は、すぐに後ろにジャンプした。しかし、間に合わなかった。


「ギャラハミミミィィィ!! くたばれぇぇぇこのカスハチがぁぁぁ!!!」


 奴の振り抜いた剣が、私の腹をぶった切った。一閃だった。見えなかった。私は、その場に倒れこんだ。体から、血が流れ出ていく。


「ガファッ!! ゼフォッ……ゼフォッ……」


 痛い……悲しい……苦しい……このまま死ぬの? 嫌だ……それだけは絶対に嫌!! 両親を殺したあいつらに、復讐するまで……私……は……。



 ……ここは……どこだろうか。

 目が覚めるとそこは、一帯全てが黄金で包まれた空間だった。

 右を見ても、左を見ても、下を見ても、上を見ても、何もなかった。そう、私の体でさえなかったのだ。

 私は考えた。脳みそフル回転させて考えた。だが、記憶の片鱗さえ出てきはしなかった。


 そうしていると、目の前に突然人が現れた。髪は長髪で金髪。目は青色で、身長は150センチぐらいだった。外見が……私にそっくりだった。


「あなたは……誰?」


「私の名はシュリン。黄金の血に住む者です」


 何なんだそれは。黄金の血なんて聞いたことがないぞ。だいたい、今目の前にいるシュリンという人。一体何者なのだろうか。雰囲気は神秘的だし、姿は私にそっくりだし。

 すると彼女は、ゆっくりと話し始めた。


「単刀直入に言います。あなたはこのままでは死にます」


「!!!」


 そうだ、思い出した。私、あいつに腹切られて……だんだん意識が遠のいて、気がついたらここにいたんだった。


「今、何もしなければ、あなたはこのままぽっくりと逝くでしょう」


「死ぬなんて嫌です! 私は生きなくちゃんダメなんです!!」


「何もしなければ、です。私も、あなたに死なれてもらっては困りますからね。あなたは私。私はあなた」


 何を言っているのだろう。それじゃまるで、私とあなたは一心共同体みたいじゃんないか。あっちは、私に死なれては困ると言っている。何か思惑でもあるのだろうか。あったとしても、今は関係ない。生きることができるんだったら関係ない!


「なにか方法があるの?」


「えぇ、もちろん。それは、あなたの血の力。黄金の血を発動させるのです」


「黄金の血? 何よそれ。聞いたこともないんだけど」


「聞いたことがなくても、あなたの体、魂は知っているはずです。無意識ではありますが、あなたはすでに、黄金の血を使えるようになっています」


 無意識だって? 私がいつ使ったって……そういえば、毎回占いをする際、水晶玉に触れるたびに手が黄金に光っていたわ。お母さんもそうだった。

 幼い頃からそうだったから気にしたことがなかったけれど……あれが……黄金の血。


「どうやら思い出したようね。さあ、今こそ黄金の血を使うのです。大切なのは、意識をすることです」


 意識をすること……。

 私は、目を閉じ、ただひたすらに集中した。時間は止まり、何の音も聞こえない。砂の中に潜っているような気分だった。

 潜りに潜ると、一筋の黄金が見えた。私をそれを掴んだ状態で目を開ける。すると、私の体が復活し、両手には黄金のもやが渦巻いていた。


「そうです。それが、黄金の血を可視化した状態です。可視化した状態のことを黄金血殻こがねけっかくといいます。

 黄金血殻を使っている最中は、自身の能力が向上します。そして、水晶玉に触れると、対象の未来が見えるようになります。

 今はまだ断片的な未来しか見ることができないと思います。ですが、回を重ねれば重ねるほどに、見える範囲が広がっていきます。焦らず、ゆっくりと進んでいってください」


 黄金血殻。確かに、いつもよりもかなり調子がいい。今なら奴を倒すことができる!


「黄金の血は、今、あなたの手により覚醒を果たしました。お行きなさい。元の世界へ。

 腹部の流血は、私の力で止血しておきました。すぐに立ち上がれるはずです」


「あ、ありがとう。シュリン。私、行ってくる!」


「えぇ。行ってらっしゃい」





「!!!」


 バチィィィっと目が覚めた私は、飛び跳ねるように起き上がった。短剣を構えると、目の前には驚愕した顔をしている奴がいた。


「お、お前……なぜ生きて……」


「さぁ? なぜでしょうねぇ」


「ッ……こんのカスハチがぁぁぁ!! もういっぺん殺したらぁぁぁ!!」


「もう二度と殺されるもんですか! 黄金血殻!!!!!」

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