第19話 火の玉を潜り抜けた先に

 カルターナとヴィームが敵を倒す十数分前のこと。フェルンは、松明の明かりを頼りに、螺旋階段を上っていた。


「はぁ……はぁ……」


 あ、危なかった。あと1秒遅かったら爆発に巻き込まれていた。早く仕掛けを見つけて解かないと、外が持たない!

 計画では表の人達が1階から、裏の人達が3階から順に探すようになっている。

 本来なら数十人で探す予定だったけど、中に入れたのは私だけだ。1人で探さなければならない。そう、頑張るしかないんだ!!


 今出せる限界の速度で階段を駆け上がる。2階に到達したところで私は足を止めた。3階に上がるための螺旋階段が壊されていたのだ。

 階段は今にも崩壊しそうで、中央の柱と円形状の壁のおかげでなんとかぶら下がっている状態だ。

 その柱と壁も、いたるところに亀裂があって、形を保っているのが奇跡だと言える。


 仕方ない、2階から探すかぁ。


 そう思い、2階に通じる扉を開いた時、近くでピシピシという音がした。上を見てみると、壁全体に細かく亀裂が出来ていた。


 あ~マズイやつだぁ。


 次の瞬間、螺旋階段の崩落が始まった。ドンガラガッシャァァァァァンンン!!!!!!!! という轟音とともに、足元がどんどん崩落していく!


 なんてぇこったぁ。扉を開いた時のかすかな衝撃で、階段が崩落し始めてしまった。やばいやばいやばい!

 早くしないと押しつぶされてしまう! とにかく早く! 足の回転率を上げるんだぁぁぁぁぁ!!


「ひぃはぁ! ひぃはぁ! ひぃはぁ! ひぃはぁ! げふぉっ! がふぉ! はぁ……はぁ……あとちょっと……あとちょっと……!!」


 走るの……苦手なのにぃぃ……生存本能が私の体を突き動かしていく……あとどのくらい走れば……わっ!!

 し、しまった。つまずいて転んでしまった! マズイ、崩落が迫ってきている! 早く走り出せ、もっと早く走り出せぇぇぇ!!


 ズンダラガラシャァァァァンン!!!!!!!!


 建物の約4分の1が崩れ落ちたところで、崩壊は収まった。

 私は、崩壊に一度は飲まれたものの、なんとか剝き出しになった床に捕まることで落下は免れた。

 よじ登って下の様子を確認すると、とんでもない惨状が広がっていた。

 敵味方問わず大量の血が流れており、私は思わず吐きそうになった。

 そして、火の玉の数が減っているのを見るに、屋上にいた魔法言語使い、もとい魔法使いも落ちていったのだろう。


 それはそうと、仕掛けを探しに行かなきゃ。


 私は、立ち上がると、奥の方へと歩き出した。一番最初に見つけた部屋に入ってみると、そこには本や本棚があちらこちらに散乱していた。本棚は倒れているものが半分以上だった。


 多分ここは図書室ね。本の山をかき分けるのが大変そうだけど、やるしかない。


 そう意気込んで、本が積みあがっている場所まで歩を進める。すると、私以外の足音が聞こえた。


「だ、誰!!」


 周りを見回すと、部屋の壁によりかかっている男性を発見した。髪ははじ色で、目は橙色。身長は167センチといったところだろうか。

 男は、私と目が合った瞬間に歩き出す。


「ようこそ死の図書室へ。反逆者さん。私の名はウドラヌ。この監獄の看守をやっている者です。そして、これからあなたを地獄に送る者でもあります」


 次の瞬間、奴は眼前から姿を消した。あまりにも早かった。まるで動物が獲物を狩る瞬間を見ているようだった。

 そして実感した。これは殺し合いなんだと。街で店構えて商売するのとは訳が違うのだと。

 ほしい何かがあるのなら、自分で掴み取りに行くしかない。不安定な世の中を逆らって泳ぐには覚悟が必要だと。強く実感した。

 私は、家から持ってきたダガーを鞘から抜いて構える。


 どこからでもかかってこい!


 すると、右にある本棚から奴が攻撃してきた。


「はぁぁぁぁぁ!!」


「なぁぁぁぁぁ!! なんて……重い……」


 その一太刀は、とてつもなく重かった。まるで大岩を複数個相手にしているような気分だった。

 私はなんとか後ろに受け流すと、下にあった辞書を奴目掛けてぶん投げる。

 辞書の角がちょうど額に当たり、奴は流血部を押さえながらその場にしゃがみこむ。

 やった! 攻撃が当たった! 角の衝撃が脳に響いてすぐには立てないはずだ! このまま倒す!!


 短剣片手に走り出した時、奴は私を猛獣の目で睨んできた。明らかに雰囲気が違っていた。私は突然、何かに掴まれたように感覚に陥り、動けなくなった。

 今まで味わったことのないような感覚に、混乱していると、奴が再び立ち上がった。だが、立ち上がった時には、全く違う人だった。

 眼光は鋭くなり、構えはより隙のないものになっている。何よりも、口がとても荒くなっていた。


「お前ぇぇぇぇぇツケ……よぉくも俺様の顔面に傷をつけてくれたなぁぁぁぁぁ……このツケはぁきっっっっっちりと……払ってもらうぜぇぇぇぇぇ!!!」


 こいつ……狂人になりやがった!!

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