第18話 一つ目の仕掛け
「見つけたぜぇ……はぁ……はぁ……突破口を……」
昔、ペイダス王国の北にある島国の、翻訳された医学書を読んだ時に見たことがある。貧乏ゆすりは、ふくらはぎの筋肉の収縮と弛緩を絶えず繰り返している状態のことをいう、と。
これをする理由は複数あるが、最も多い事例はレストレスレッグス症候群である。とも書かれてあった。
だが、僕の突破口はそこじゃんない。僕が希望を見出したのは、奴が変形性股関節症である可能性があるということだ。
変形性股関節症は、股関節の軟骨が擦り減ってしまい、骨が変形する病気だ。その本には、痛みを和らげる方法の一つとして貧乏ゆすりを上げていた。
もし本当にそうだとした場合、やつの上半身ではなく下半身、特に股の関節部分を攻撃すれば、勝機はあるはずだ。やるしかない!
「ヴィーム! いけるか?」
「あぁ……はぁ……はぁ……もちろんだぜぇ……」
「今からあいつの弱点を攻撃する。攻撃を合わせてくれ」
「!? ……了解だ。急所は任せたぜ!!」
ヴィームは頷いたその時、いきなり大きな揺れが僕達を襲った。完全に棒立ちだった奴は、よろめいて一度膝をつく。
「今だ!!」
膝をついた瞬間に、僕達は奴に向かって一目散に飛び出していった。
「おうおうおうおうおう! 会議しても何も変わりゃぁせんぞい! 絶好調の俺に敵なし!!」
奴はすぐに立ち上がると、両手をバッと広げた。広げた時、一瞬何かが奴の体を巡った。僕は悟った。こいつは、無意識に魔法言語を発動して体の能力を大幅に上げているのだと。おそらく、集中していると勝手になるのだろう。このままでは先刻と同じ結果となる。だが、同じ轍は踏まない。もし、発動条件が集中することなのなら、集中を切らせばいいだけの話だ!
「らぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ヴィームがラッシュを叩き込んでいく。弾かれながらもラッシュを叩き込んでいく。そこに僕の短剣がやつの股関節めがけて突き進む!
「ここだぁぁぁ!!」
ガキィィィィィィィィィィィィィィ……。
無情にもその音は辺りに響き渡り、僕の短剣は宙を舞った。
「バギガラビビビィィ!! 残念だったなぁ! 胴体真っ二つにしよう思ってんだったら甘いぜぇ! ボケナスどもがぁぁぁ!!」
「ギャベルフゥゥゥゥゥ!!」
奴は右腕一本でヴィームをぶっ飛ばした。直後に、右腕と左腕が僕の顔面を襲ってくる。
両腕攻撃をもろに食らうのはさすがにマズイ! 内臓が飛び出てしまう!
僕はとっさに半歩下がった。下がったおかげでもろに食らうことはなかったものの、それでももの凄い勢いで傍にあった机群まで吹き飛ばされた。ガシャバラァァァァァン!! という音とともに、机の角や椅子の先端などが僕の体を攻撃していく。
ものすごく痛い。脇腹からは血も出ている。激痛ですぐには立つことができなかった。
そんな状態の僕に、奴は歩いて近づいてきた。
「避けたかぁ。でも、立つことができないだろぉう? 勝負ありだなぁ。死ねぇぇぇい!!」
やつは拳を真上に振り上げると、とてつもない速さで振り下ろしてきた。僕はとっさに体を転がしてよける。だがしかし、拳の衝撃波で一メートルほど吹き飛ばされてしまった。
辛うじて頭を上げると、やつの拳の周りには小規模のクレーターがあった。
「また避けたなぁぁぁこのゴキブリがぁぁ! さっさと死……!?」
やつは拳を地面に叩きつけたまま動きを止めた。そして、反対の手で股関節を押さえ始めた。
「どうゆうことだ……き、急に激痛が……」
「やっと……来たか……」
ようやく気付いたか。さっき、短剣を吹き飛ばされた時に投げた壁の瓦礫のダメージに!! こいつは油断したんだ。僕の短剣が吹き飛んだ時に油断して魔法言語を解いたんだ!!
僕は、ふらふらしながら立ち上がる。ヴィームもふらふらしながら立ち上がる。
「こんのボケナスどもぉ……」
「はんっ! 諦めが悪いことで有名なんだよぉ人間はぁ!!」
僕は瓦礫でやつの目ん玉を。ヴィームは剣で胴体を狙う。攻撃がやっと通る! そう思った時、やつの体に何かが巡った。次の瞬間、ヴィームの剣の先端が砕けた。そして、僕が掴んでいた瓦礫は粉々に砕け、右手はバキボギ!! と、音を鳴らした。
「うがぁぁぁぁぁ!!」
こ、こいつ! 土壇場で魔法言語を発動させやがった!! なんてやつだ!! マズイぞ。せっかくのこのチャンスを逃したら、次のチャンスはもうないぞ! どうする……どうする……このままだと奴から離れていってしまう!!
「やはり勝者は俺の方だったなぁ!! 死んねぇぇぇぇぇ!!!」
体中の魔法言語を一極集中させた拳が、顔面目掛けて飛んでくる。せっかくのチャンスが目の前で弾けていく。やばいやばいやばい!! このままだと死んでしまう!!
拳が当たる直前だった。
「俺がいるぜぇぇ!! カルターナァァァァァ!!!」
ヴィームが折れた剣の剣先を奴の心臓部に突き刺した! 十センチほどある刃が、末端まで突き刺さる! 奴の拳は地面に落ちていく!
「うヴぉぉぉぉぉ!!! お前ぇぇぇぇぇ!!!」
今度はその拳がヴィーム目掛けて飛んでいく! だがしかし、それは悪手だ!! こいつは、興奮して僕のことを忘れている!! 数秒前の僕のことを忘れている!!
僕は左腕で奴の後頭部をぶん殴る!!
「がはっ……」
後頭部を殴られ、地面に伏すと、そのままこと切れた。やつの体を中心に、血の池が領域をどんどん拡大していく。
ようやく……終わった……早くこいつから鋼鉄を取り上げて、絵画の裏に二秒以上当てなければ!
やつの袋を漁っていると、僕は驚愕した。なんと鋼鉄が粉々に砕かれていたのだ!! やつは最初っから、仕掛けを解かせる気がなかったんだ!!
「こいつ、俺達が吹き飛ばされてる間にぶっ壊していやがった!!」
ヴィームは地団太を踏んでいる。粉々だと、細かすぎて仕掛けが反応しないだろう。でも、僕は希望を捨てはしない!
「取り合えず当ててみるかぁ」
僕は左手で粉々になった鋼鉄を掴むと、絵画のところまで歩いた。そして、ヴィームに絵画をのけてもらった後、壁に左手を近づけてみる。だが、ビクともしなかった。
「やっぱりだめかぁ……いやまて! こ、これは!!」
僕のブレスレットが反応している! 銀色に光って反応している!! なんてこったぁ。このブレスレットの素材は鋼鉄だったのか!!
二秒すると、突如壁に、不規則に乱れた円形の模様が出てきた。その模様は、壁からブレスレットを離しても消えることはなかった。一つ目の仕掛けは、無事解くことができたのだ!!
「よし、一つ目は終了した。次に行くぞ!!」
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