第17話 鍵は鋼鉄
「だ、誰だ!!」
何なんだこいつは。突然現れたと思ったら右指五本で天井にぶら下がっていやがる。なんちゅう馬鹿力だ。
全身筋肉だらけの男は、握力で天井を破壊した後、そのまま地面に降りてきた。髪は薄紫、目の色は灰色、身長は見た感じ百七十センチぐらい。かなり大きい。
「ようようようようようよう侵入者さんよぉう! お前らあれだろ、武器奪いに来ただろ」
「そうだが何か」
「それなら、当然仕掛けが三つあることも知ってるだろぉぉん?」
こいつは一体なんなんだ。筋骨隆々な見た目に反して随分おちゃらけていやがる。あったまに来るしゃべり方だ。
「でよでよ。仕掛けの内の一つを教えるってん言ったらどうするよ」
「なんだと!」
こいつは何を言っているんだ。ギミックを一つ教えるだぁ? 本気で言ってんのか。理由は一体何なんだ。ここは一度様子を見るんだ。
「本気で言っているのか? お前」
「あぁ本気だとも。俺は親切だからなぁ。教えてやるぜぇ」
やつに主導権を握られている今は、何もしないのが得策だ。下手に刺激してせっかくのチャンスが無駄になってしまう。
「なら教えてくれ。仕掛けを」
「あぁいいぜぇ。そこの壁にパルソン川が描かれた絵画が飾ってあるだろう? そこの裏の壁に鋼鉄を二秒以上当てると、仕掛けは解かれるぜぇ」
相手は、袋から鋼鉄を取り出しながら言った。鋼鉄は松明の光で、銀色に輝いていた。
鋼鉄と言えば、製鉄の際にごくまれにできるとされる超貴重な代物だ。最低でも二億ユーロはする高貴なものだ。どうしてそんなものを壁に当てたら仕掛けが解けるのかは知らないが、とにかくだ。
「どうしてそんな重要なことを教えてくれるんだ?」
「そうだなぁ。今日の俺が上機嫌っつうのもあるが、やっぱり一番は……死にゆくお前に情が沸いた……かな!!」
「「なっ!!」」
こいつ、さっき降りてくる時に掴んだ天井の瓦礫をぶん投げてきやがった! 尋常じゃない速度だ。人間石投器だ!!
細かい石が大量に迫ってくる。この部屋は四つの通路が交差した地点にある広い部屋だ。本棚や無数の机に椅子、応接用の机があることから、おそらくここは看守の事務室だと予測できる。事務室は上述した通り、物がたくさんある。その物陰に隠れるんだ!
僕は近くにあった倒れている机に。ヴィームは傍にあった縦に長い机を地面に垂直に立てる。
「ちょ……」
ほんとこいつは何なんだ! 投げてきた石が、あとちょっとで木を貫通するところだったぞ!!
「よく防いだねぇ。拍手だよ拍手ぅ~」
腹立つわぁ~こいつぅぅ。一言一言が癪に障る。さっさとこいつから鋼鉄ぶんどって二個目を探しに行かなければ!
「行くぞ! ヴィーム!!」
「応よ!!」
僕達はやつに向かって走った。ヴィームは左、僕は右から行く。
「お前らなんかがぁぁ! 絶好調の俺にぃぃぃ! 勝てるもんかよぉぉぉ!!」
「「なっ!!」」
こ、こいつ、俺達の刃を両手の平で受け止めようと両手を伸ばしてきやがった! いくら絶好調と言っても、無理なもんは無理だ。このまま腕を真っ二つにしてやる!!
ものすごい勢いで刃を振りぬくと、衝撃的な光景が広がった。
僕の短剣を手の平で受け止めやがった! 何なんだこいつは! 人間か? どういうことだ、訳が分からない!!
「バギガラビビビィィィ!! どうしてだって顔してんなぁ! 教えてやんねぇよ! 大まぬけどもがぁぁぁ!!」
「「ウラビヤァァァァァ!!!」」
く、くそ……壁まで吹っ飛ばされた。体中に激痛が走る。口から血が飛び出ていく。咳も出る。下を見ると壁の瓦礫と砂埃が舞っていた。いくら何でも力が強すぎる。このままじゃ鋼鉄を奪い取るどころか勝つことすらできねぇ。何かないか。何か突破口があるはずだ!
僕はよろよろと立ち上がる。一方やつは、僕達を見て、笑いながら優雅に体を小刻みに震えさしている。
「随分と余裕ぶってるじゃんないか……はぁ……はぁ……」
「そうかい~? 俺は普通に立ってるだけだぞぉ~? バギガラビビビィィ」
くそ! つくづく癇に障るやろうだ。笑いながら体を小刻みに震えさせといて何が普通だ! こんちきしょうめが!! ……ん? ちょっと待てよ? あいつの反応を見るに、体が小刻みに震えているのは本当に気付いていないようだ。ということは……貧乏ゆすり持ちかこいつ!! なら勝機はある!!
僕は、ゆっくりとやつに向かって歩き出す。
「はぁ……はぁ……突破口が……はぁ……はぁ……見えたぜぇぇ……!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます