第16話 門を潜り抜けろ!

 さぁてと。どうやって中に入ろうかねぇ。今、僕達の前にはゴツい男がいる。戦わずして中に入りたいんだが……無理そうだ。入り口まで残り三メートル弱。空に雲はない。

 僕は、短剣を胸元に構える。

 相手も剣を構える。


「さぁ。早く終わらせようか」


 また来た!! 次は大丈夫だ。微かだが移動する姿が見える。神経を研ぎ澄ますんだ!


「そこだぁぁぁ!!」


 短剣を右方向に高速移動させる。次の瞬間に聞こえた音は、刃と刃がぶつかり合う音ではなく、短剣が空を切る音だった。

 しまった! 太陽で目がくらんだせいで遅れた! あいつはどこだ!


「カルターナ! 左だ!」


「!!」


 な、なぜだ! こいつは確かに右に動いた! 今、僕の右側にいないとおかしいはずなんだ!! なのに左にいる。どういうことだ!!


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」


「ザリバリィィァァァァァァァ!!!!!!!」


 後方からは、火の玉による悲鳴が聞こえてくる。左からは死への直行便が向かってくる! ヴィームが走ってきているが間に合わない! 伸びきった右腕が戻らねぇぇぇぇぇ!!


「さらばだ」


 相手の刃が、今度は心臓めがけてやってくる。その時だった。


「ちょっと待てぇぇぇい!!」


「なっ!」


 副団長が、相手を突き飛ばしてやってきた。相手は数メートル先まで吹っ飛んでいく。


「ふ、副団……」


「早く行きなさい!! ここは私がなんとかするわ!!」


 僕達を背にしながら彼女はそう言った。拳は血まみれで、息はそれほど絶え絶えにはなっていなかった。

 やっぱりこの人には逆らわないでおこう。


「「は、はい!!」」


 僕達は全速力で建物内部へと入っていった。入った瞬間、入り口を支えていた石が崩れ落ちていく轟音が耳に入ってきた。一瞬転びそうになったが、何とか持ちこたえて先へと進んでいく。

 副団長、あの人は任せました!



「よくも邪魔してくれましたねぇ」


「邪魔なんか一切してませんよ。そこに落ちていた石を蹴ったまでよ」


 ハイブト監獄監獄長、アイジス。いきなり敵の大将と鉢合わせするなんて……二人は運が悪いわねぇ。

 ……張り切って行きましょうか!!



「これが内部か……」


 中の明かりは壁に掛けられた松明だけで、窓は一切なかった。全体的に薄暗く気味が悪い。

 僕達の目的地である武器庫に行くには、この監獄に点在する三つの仕掛けを解かなくてはならない。副団長によると、仕掛けは各階にそれぞれ一個ずつあるらしい。

 僕達は武器を構えて慎重に進む。すると、隣にいるヴィームが話しかけてきた。


「なぁカルターナ。お前、かかと踏んでるぞ?」


「まじで?」


 確認してみると、確かに、かかとを踏んでいた。だがしかし、それはほんの少しだけだ。よく気付いたなあいつ。普通だったらこういうの気にしないのに。


「あぁほんとだ。ありがとう」


 僕は一度しゃがんでかかとの折りを元に戻すと、再び歩き始めた。




「バギガラビビビ。来客だぁ……」




 数分前。監獄二つ目の入り口前。


「行けぇぇぇぇぇ!!!!!!!」


「うおぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」


 吊り橋が下りた途端に、人が中へとなだれ込んでいった。私もそれに従う。

 中に入って数秒後、目の前から数十人ほどの兵士がやってきた。この程度はある程度予想はしていた。だが、仲間のあまりの素人すぎる戦い方は予想できなかった。そのせいで、数ではこちらが有利なのに戦況は均衡してしまっていた。


「よし、このまま中に……!?」


 夢だと思った。だが、現実だった。建物の屋上から大量の火の玉が飛んできたのだ。火の玉は、着弾すると同時に爆破してく。気付けば、周りの地面には複数のクレーターができていた。

 あれは確か……魔法言語! マズイ。均衡が一気に崩れる!


「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!」


「わぁぁぁぁぁ!!!」


 そこら中から悲鳴が上がる。耳を切り裂く轟音も聞こえてくる。私は、うまく避けながら入り口へと一直線に進む。


「いける!!」


 このままいけ! 全速力だぁぁ!!

 その時、火の玉が私の後を追ってきた。中に入ろうとする私を拒絶するように攻撃してくる。しかも火の玉の追ってくる速度は、想像以上に速い。このままでは追いつかれてしまう。もっと早く、もっともっと早く!! あとちょっと、あと数十センチ!!


「届いた!!」


 やった! 門の敷居を踏んだ! このまま中へ!! 上から仕掛けを探すん……。


 ボゴガラドガァァァァァァァァァンンンンンンン!!!!!!!!!!!!!!!

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