第13話 親睦会
7月11日の朝、僕達は黄金の鏡前に集合していた。
「皆、集まったか。よし、行くぞ!」
「「おぉぉ!」」
まず最初に僕達は、サンクトル商店街に向かった。ここは、立ち食いはできるわぁ服は買えるわぁ換金もできるわぁと、本当になんでもできる場所だ。いつも人で賑わっている。ここで僕達は、昼まで遊びまくった。
昼になり、僕達は街中でよさげな飲食店を探していた。
「二人とも。スパゲッティにしない? 安いし」
「お、いいじゃんねいか。デザートはモンブランでどうだ?」
「それもいいわねぇ。あとロールキャベツも追加でお願い」
案外お店は早くに決まりそうだ。でも、店探しが大変だぁ。どこかにいい店は……。
辺りをキョロキョロしていると、突然目の前で少年が倒れた。
「お、おい! 大丈夫か!」
「なんて量の汗なの……」
「広場に運ぶぞ!」
僕達は、その少年を近くにあるカルガラ広場に運んでいった。
「うぅ……ここ……は?」
「お、目が覚めたか。ここはカルガラ広場だ。目の前で倒れたもんだからビックリしたぜ」
「……ありがとう……ございます……」
「おぉいヴィームゥ! きれいな水持って来たぞぉ!」
「おぉ、二人ともありがとな。今、この子が目覚めたぞ」
「ほんとか!?」
それはよかった。無事に目が覚めて。それにしても、この子大丈夫なのだろうか。アバラは数本浮きでているし、足は靴を履いていないからボロボロだし。
水を少しずつ飲ませると、徐々に顔に血色が戻ってきた。そして、会話ができるほどまでに回復した。
「僕の名前はウリンって言います。助けてくれてありがとうございます」
「いいってことよぉ。俺の名はヴィーム。んで、後ろにいるのが、左からカルターナ、フェルンだ」
「よろしく」
「よろしくね」
「は、はい……は! い、今すぐ買い物して帰らないと! ……わっ」
「おっとぅ。大丈夫か?」
僕は、ウリンの体を受けとめた。
危ない危ない。この子、顔面から飛び込むところだったよぉ。
「あ、ありがとうございます。早く帰らないと」
「まあ落ち着け。一体急いで何をしようとしているんだ?」
「い、今すぐ、この……この五百ユーロを使って……今日の命を繫なきゃならないんです。母のためにも!」
「でもその体じゃ……」
酷だ。この選択は僕にとってあまりにも酷だ。事情が事情なだけに、行くなと簡単に言えないじゃんないか! どーしよ。あぁもうどーしましょ。
自分の中で悪戦苦闘していると、フェルンが涙をボロボロとこぼしながらウリンに近づいてきた。
そういえばこいつ、商店街をブラブラしていた時に、子供が好きとかいってたな。今の話を聞いてそこんところの何かが刺激されちゃったんだろう。にしてもこぼれすぎだろ。
「うん、うん。辛かったねぇ……お母さんのためとか……二人とも!! 私、この子を安全に家まで送り届けるわよ!!」
もう止まらない。フェルンはこうなったらもう止まらない。さっきの商店街の時もそうだった。僕達に残された選択肢はただ一つ。それは、ついていくこと。四の五の言わずについていくこと。
「「りょ、了解です」」
こうして僕達は、五百ユーロ分の買い物をした後、隣町の平原にある彼の家へと向かった。
ウリンの家は、お世辞にも立派とは言えない作りだった。何も考えずに一言でいうのならば、ボロボロだ。家としての役割をギリギリ果たしている感じだ。
「ようこそおいでくださいました。本日はウリンを助けていただき、ありがとうございます。どうぞ中へ」
「「「お、お邪魔しまぁす」」」
中には必要最低限の設備と、必要最低限の生活必需品が置かれてあるだけで、それ以上でもそれ以下でもなかった。
僕とヴィームはウリンのお母さんと一緒に机を囲み、フェルンはウリンと一緒に外で遊ぶこととなった。
「改めまして。私の名前はシャリムと言います。本日は息子を助けていただいてありがとうございました」
「いえいえ。大したことはしていませんよ。しかしぃどうして息子さんを一人であそこまで行かせたのですか?」
「はい。それは、私の代わりに買い物をしてもらうためです。もちろん、危険なことだということはわかっています。でも、この足では遠出することもままなりません……夫が亡くなった今、こうするしかなかったのです!!」
足をさすりながら、シャリムさんは悲痛な叫びをあげた。
……選択肢がなかったのだろう。言葉一つひとつが心に響く。この親子の気持ちはよくわかる。自分も昔そうだったからだ。五歳の時、何かから逃げていた両親は、ストレスが原因で流行り病にかかってしまった。僕は奔走した。生きるために奔走した。生きるためならどんなことだってした。
一年後、両親は死んだ。
六歳になって叔母さんに助けてもらうまでは、野良猫みたいな生活をしていたっけな。まあでも、文字が読めてただけましか。
ウリンの事情を知った時、思わず昔の自分と重ねてしまった。経験しているからわかる。これは、避けられない選択だったということが。
「この家も、昔夫と協力して建てたんですよ。ここ以外にも実は家が何件か建っていたんです。数年前まではその方たちの協力のおかげでなんとかやっていけていました」
「え? でも今はなんもない更地じゃねぇか。一体どうしたっていうんだよ」
「それは、王妃様の命令のせいです。ある日、この辺りに散歩に来ていた国王一家が、家並みのせいで景色が台無しと言われたことがきっかけでした。ほかの住民は素直に退去したのですが、私達は反論して退去しませんでした。部下の人がなだめてくれたおかげでその場はなんとかなりましたが、次は……」
国王一家は、国王、王妃、王子、王妃の四人で構成されている。国王であるザリム・タリアンは優柔不断なことで、サントハ・タリアン王妃は我がままで、王子と王妃はそんな両親の言葉を、ただイエスと答えるだけのイエスマンとして有名だ。特にサントハ王妃は、数多の無理難題を押し付けてくるくそったれだそうだ。
どんな意見だろうと、権力者である限り、それが通ってしまうのが今の世の中だ。
シャリムさんの話が終わってからというものの、場の雰囲気は大変重苦しいものになってしまった。
何かしなくては。何かしなくては……。
その時、突然血相を変えたフェルンが家に入ってきた。
「皆さん大変です! 今すぐ外へ!」
外に出てみると、そこには馬に乗った人四人、兵士が十数人いた。あいつらは……。
ウリンはシャリムさんに引っ付いている。当のシャリムさんは、血相を変えて手を口に当てていた。
「こ、国王一家……」
そうだ。国王一家だこいつらは。左から順に国王、王子、王妃、王女。四人とも、模様替えをしたばかりの部屋みたいに着飾っている。その金はどこからきてるってんだよ! この鼻ったれどもが!
すると、王妃が口を開いた。
「あらぁぁ。まだこんなところに家がありましたのぉ。この前、退去しろと命令したはずなのですがぁあ? あなた達も聞いていたわよねぇえ?」
「う、うん。聞いた聞いた。覚えているよ」
「僕も」
「
「だ、そうですわよぉ。この前のような反論は許しませんわよぉ。ゲベラゲベラゲベラァァァ!!」
汚ぇ。本当に王妃なのか? 笑い方が下品すぎる……ん? てかその笑い方……。
「王妃様、質問をしてもよろしいでしょうか」
「ん? 貴様は誰ですの? まあいいですわ。質問を許しましょう」
「ありがとうございます。ではお聞きします。王妃様は、どなたか一番印象に残っているご兄弟はいらっしゃいますか?」
「なんですのその質問は。まあいいですわ。そうですわねぇ。印象に残っているのはやはり元長男のルウマですわぁ。なんせこの私のために、自分のすべてを失ってくださったのですからぁぁ!」
「そ、そうでございますか……お答えいただきありがとうございます。我が家の一生の誇りでございます」
「よいよい」
王妃は自慢げに首を縦に振っている。
というか、一生の誇りなわけがないだろうが! 一生の汚点だ! お・て・ん!!
しかし、今ので納得がいった。この前出会った盗賊は、元王妃の家系の長男だ。大方、サントハによって地位も名誉も、全て奪われたのだろう。こいつぁくそだ。大糞だ。
「それはそれとして。そこの子連れの女よ! 今一度命ずる。今すぐここから立ち去るのですわぁぁ!!」
「いやです! 意地でもここから離れるつもりはありません!!」
シャリムさんは必死に叫ぶ。負けるものかという気持ちがとてつもなく伝わってくる。すさまじいものを感じたのか、王妃が一歩引いた。
僕は一瞬、いけると思った。追い返すことができると思った。だがしかし、現実とは、あまりにも無慈悲なものであった。
「そうですか……なら仕方がありませんわね」
すると王妃は、突然右腕を上にあげると、指を鳴らした。その次の瞬間だった。
バガブフリボラガラジャベダシャァァン!!!!!!!!!!!!!!!
ものすごい轟音とともに、僕達は軽く吹き飛ばされた。耳が引きちぎれるかと思った。僕達はすぐさま後ろを向く。そこには……。
「な、なんてこったぁ……」
爆弾で吹き飛ばされ、炎上していたシャリムさんの家があった。
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