第11話 革命軍のいろは
部屋の扉をゆっくりと開くと、目の前には大きな机やクッションなどが置かれてあった。そして、机の前には麗しい女性が立っていた。
「初めまして。私の名はカルパラ・バラリフォン。革命軍団長補佐兼副団長をしているものです」
「は、初めまして。僕の名前はカルターナ・プラルトと言います。よろしくお願いします」
「俺の名はヴィーム・カリティア。よろしくな」
「こちらこそよろしくお願いしますね。カルターナ、ヴィーム。あなた達のことはすでにミューマから聞いています。ようこそ革命軍へ」
カルパラさんは右手を広げてそう言った。
この人、一見優しそうな人に見えるけど、裏は怖いタイプの人だなこりゃぁ。
根拠はある。それは、机の横に置かれているクッションだ。あれはとてつもない量の攻撃を浴びせられたのか、糸で縫い直した跡が見られる。
クッションは、犬に食われたり刃物で切られたりしないかぎり、中身が出てくることはないはずだ。それなのにあれだ。この部屋に刃物らしきものは見当たらないから、おそらく拳だろう。
……できるだけ怒らせないようにしよう。
「それでは、お二人に革命軍のメンバーであることの証明をお渡しします。ミューマ、持ってきてちょうだい」
「わかりました」
カルパラさんに命令されると、ミューマさんは奥の方へと消えていった。数分ほど待っていると、奥からミューマさんが鮮やかな布を持ってきた。
ミューマさんは戻ってくるなり、僕達にヒエンソウとオオカミが描かれた布を手渡してきた。
「その布はいつ使うかわかりませんので大切に持ち歩いてください」
「わかりました」
「うん、いい返事。じゃぁ次は革命軍についての説明に移りますね。革命軍は上から順に団長、副団長、軍隊長、隊長、一般兵と続き、一部の下級貴族と一般市民からの協力者という風に構成されています。団長に関しては、いつも反乱の前線にいますので、ほとんど本部にいません。空気だと思ってください」
なんだろう。最後辺りのカルパラさん、すごく怒ってる。それに、めっちゃ悔しがってる。というか団長、なにもんだ? 副団長に仕事全て任せるとか強者でしかないんだが。やっぱり怖いわ。この人。逆らわんとこ。
「まぁ軍についてはこのぐらいでいいでしょう……それではお二人とも。最初の任務を言い渡します」
僕は瞬間的につばを飲み込んだ。なんてったって軍に入ってから初の任務だ。一体どんなことを命令されるのだろうか。
「どんな身分、職種でも構いません。一人以上、革命軍に勧誘をしてきてください。革命軍は常に人材を求めています。信頼できる人を革命軍に勧誘して来てください」
こ、これが初任務。いかにも下っ端らしい仕事だ。でも、任されたからには仕事はきっちりとこなす。
「わかりました!」
返事をした後、僕達は部屋を後にした。
信頼できる人物かぁ……そういえば一人いるなぁ、信頼できる人。この坑道をでたらすぐに勧誘しに行こう。ちょうどあっちは昼休憩だろうし。
「はぁぁ……」
昼休憩の時間、私は一人部屋でため息をついていた。さっきから客のほとんどが貴族や聖職者。話しているだけで最悪な気分になる。いつもはポジティブな私だが、この時ばかりはネガティブになる。最近はこういうことばかり続いて嫌になっちゃう。息抜きが欲しいなぁ。
その時、ふと私はカルターナとヴィームのことを思い出した。彼らと一緒にいると、沈んだ太陽もたちまち昇ってくる。
「また来ないかなぁ」
再びため息を漏らした時だ。ニュイルが部屋に静かに入ってきたのだ。
「フェルン。カルターナさんとヴィームさんが訪ねてきましたよ」
「え、ほんと!? すぐに上がってもらって!」
「ごめんな急に」
「いいよ。全然。大丈夫。それで、今日は何をしに来たの?」
なんてベストタイミングで来るんだろうか、この二人は。ちょっと話しただけなのに、溜まってた精神的な疲労が、たちまち消えていく。なにか楽しいことが起こりそうだ。
「単刀直入に言う。革命軍に入らないか?」
「え?」
「実は俺達、革命軍に入ったんだ。ほら、これが証拠の布だよ」
そう言うと、二人はヒエンソウとオオカミが描かれた布を見せてきた。確かに本物だ。革命軍という組織は、私のあこがれの組織でもある。なぜなら、私たち平民の希望だからだ。
入りたい。今すぐにでもオーケーの言葉を言いたい。けど……
「えぇと……ごめん、返事はちょっと待ってくれないかな。お店のこともあるし」
「あぁ、もちろんだ。俺たちは毎日大体、迷奇森林にいるから。答えが決まったら来てほしい」
「うん、わかった」
私がこくりと頷いた後、二人はお店を後にした。
二人が帰った後、私は一人部屋の中で葛藤していた。
私の予想通り、確かに楽しそうなことが起こった。革命軍に入団なんて、またとないベリービッグチャンスだ。私が、皆の希望の一端になることができるチャンスなんだ。入りたい。でも、もし、今のこの状態が続くのであれば……入れない。
両親が一か月前、仕事で国王のいる宮殿に行ったっきり帰ってこなくなったあの日から。私は、ニュイルに支えられながらもなんとか頑張ってきた。辛い接客も耐えてきた。お店を守ってきた! 自分を護ってきた!! 心の叫びを押し殺してきた!!!
……きたんだ……私は……
一人部屋で髪をくしゃくしゃにしていた時だ。部屋に誰かが入ってくる音がした。
「……フェルン……先ほど、お手紙と荷物が届きました」
「手紙? 荷物? 一体誰から……」
「……宮殿からです」
「!!!」
ニュイルの発言を聞いた瞬間、私は一瞬頭が真っ白になった。悪い妄想をしてしまった。決して起こることがないと信じていることを。つい……考えてしまった……。
私は、ニュイルに手渡された横に細長い手紙を、ゆっくりと開けた。中にはこのようなことが書かれてあった。
「拝啓。貴店のますますのご発展お喜び申し上げます。さて、本日手紙をお送りさせていただいたのには理由がございます。それは、あなたのご両親のことです。以下罪人と呼ばせていただきます。
単刀直入に申し上げます。三日前、罪人達は、反王国組織と関わっていたことが一通の報告にて発覚いたしました。よって、国家反逆取締法に基づき、国王様の前で処刑に処されました。遺体におきましては、同送した荷物の中に……」
私はその時点で読むのを止め、隣にあった大きな箱を、狼が飯を食すかのようにがむしゃらに開けていった。
箱の開け口を封じていたものを取っ払うと、ゆっくりと箱を開いていく。するとそこには、
サイコロステーキのように細かく、バラバラにされた無惨な両親がいた。
細かく部位分けにされた四肢や指。内蔵までもが、まるで福袋に詰められた商品のように、ごちゃ混ぜに入っていた。極めつけは、ぐっちゃになった身体の上に置かれた、目玉のない両親の頭だった。
「あぁ……あぁ……」
私は、折れそうだった。精神という名の一本のぶっとい何かに次々と亀裂が入っていく感覚がした。頭が再び真っ白になっていく。何も考えられなくなっていく。私が……私でなくなりかけていく。いつの間にか、体の感覚がなくなっていた。唯一感じるのは、体が固まっているのと、頬を伝う冷たい何かだった。
どうすればいいの? どうしたらこんな状況を変えることができるの? ねえ? ねえ? ねえ……誰か……教えて……よ……。
「嗚呼呼呼呼呼呼呼呼呼呼呼呼呼呼呼呼呼呼呼呼呼!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
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