第10話 本部へゴー

 僕達は、革命軍の本部に行くため、ミューマと共に岩土山を歩いていた。

 道はデコボコ。地面はぐちゃぐちゃ。おまけに植物は生え放題。あまりにも道が悪すぎる。


「ミューマさん。なんで道の悪い岩土山を歩くんですか? ここ以外にも道はあるじゃんないですか」


「確かに他にも道はありますね。ですが、革命軍に入るに当たって、あなた達には有事の時のこの山の安全な道を覚えておいてもらいたいのです」


 なるほどぅ。おそらくその有事ってのは敵が攻めてきた時のことだろう。岩土山は、水分の多い山だ。一度雨が降ると、そこら中に底なし沼が発生する。それに加えて道々にある大岩。歩きづらいったらありゃしない。

 そういう時に革命軍が岩土山の安全な道を知らなかったら……話にならんわなぁ。


「なるほど。わかりました」


 舗装度合最悪のこの道を歩く理由はわかったが、まだ疑問が残る。


「ところでミューマさん。僕達のことを革命軍の入団に薦めたという言う人は、一体誰なんですか?」


「そういえば話す約束でしたね。その人物の名はスリキルキャッシュ。革命軍の数少ない協力者の一人であり、素性を全く明かさない謎多き人物です」


「へぇぇ」


 誰だそいつ。全く心辺りがない。とりあえず、ここは変なことを言わずに相槌を打ってやり過ごそう。


 話しながら道を進んでいると、比較的開けた場所に出てきた。そこには、緑豊かな木々や草花と、古びた小屋があった。


「お二人とも、着きましたよ。ここが革命軍本部、名を埊匡抗ちおうこうと言います」


「え、ちょ、ちょっと待ってください。どっからどう見てもボロ屋じゃないですか!」


「そうだぜ。どこが本部なんだよ!」


 ……いや待てよ。冷静に考えてみたら、なんで本部という重要な施設を表に建てなきゃんならないのだろうか。普通に考えたらおかしいよな。うん、そうだ。

 疲れと焦燥感のせいで思考がぐちゃぐちゃになっていたようだ。だとしても、こんなボロ屋が本部だとは到底思えない。まさか地下にあるとか言いだすんじゃんないだろうなぁ。


「それでは参りましょう。本部がある地下へ」


 ま、まじかぁぁぁぁぁ!!




「し、失礼しまぁぁすぅ……」


 木の扉を前方にゆっくりと開けていく。錆びて劣化しているのか、蝶番が茶色い粉をパラパラと落としながら、甲高い音をたてていく。

 中に入ってみると、特に何かがあるわけでもなく、ただ古びた暖炉があるだけであった。


「こちらです」


 ミューマが示した場所は、玄関から見て向かって右にある床だった。


「えぇと……ここ、ですか?」


「えぇ。少々お待ちください」


 そう言うとミューマは床を二回叩いた後、拳で床を一回叩いた。すると今度は、何か合言葉らしきものを唱え始めていく。


「リ・テンプス・イストベニュウ。ラバーレサング・アベクドゥサングポーテ。コウラゲウス」


 ミューマさんが唱えると、直後に床下から木と木がぶつかり合う音が三回鳴った。なんだなんだと思った瞬間、今度は床が開き始めたのだ。

 少しずつ上方向に開いていくと、人一人分が通れる程の穴ができた。


「あ、穴が……」


「お二人とも、行きますよ」


 直後、ミューマさんは穴の中に吸い込まれていった。

 嘘でしょ。なんのためらいもなく行ったぞ。そりゃここは本部だから、なんの心配もせず行けると思うけど……それにしても落ちる速度速くね?


 そう思った僕は、恐る恐る穴の中を覗いてみる。僕は驚愕した。穴の奥が真っ暗で先が見えなかったのだ。どのぐらい高さがあるのか検討がつかない。

 正直に言うと、降りるのが怖い。でも、行くしかない。

 僕は、覚悟を決めて穴の中に飛び込んだ。



「……ん? あれ?」


 飛び込んで二秒程たった時、何かに着地した感覚が僕の足に伝わった。それはやがて全身を覆い被さる。得体のしれない何かに埋もれ、ジタバタしていると、誰かに体を引っ張られた。引っ張られるのと同時に僕の視界に赤い明りが入ってきた。


「ぶへぉ! げへ! げほ! ……はぁ……はぁ……あれ? ここは?」


「落ちてきましたか。立てますか?」


「は、はい。なんとか」


 僕の体を引っ張り上げた人は、どうやらミューマさんだったらしい。左手には、皿に乗せたロウソクを持っているため、周辺が明るい。


「それはよかったです」


 すると、向こうから革の防具を着た男性がやってきた。しかし、それは防具と呼ぶにはあまりにも心もとないように見えた。


「おいミューマ。そいつは誰だ? 新入りか?」


「はい、そうです。門番さん」


「そうか。ミューマ、ちゃんと道案内しろよ?」


「わかってますよ。迷われたらこちらも困りますからね」


「そうだな。まあそれはお前に任せるとして、早くここを退いてくれ。そこの藁の整備をしないといけないんでな」


 なるほど。先ほどの感触は藁だったのか。フカフカだったなぁ……。


「それは失礼しました。それでは皆さん、行きますよ」


「「はい」」


 僕達は、親鳥についていく雛のようにミューマさんについて行った。



 ……もう数十分は歩いただろうか。未だに部屋らしきものが見当たらない。この坑道は予想以上に複雑かつ長くて、右、左、下、上、分岐、が永遠と繰り返されていく。こりゃ迷路だ。

 うげぇという気持ちになっていると、だんだんと視界が明るくなってきた。するとミューマさんが後ろを向いてきた。


「お二人とも、ここまでお疲れさまです。騎士団長のお部屋に着きましたよ」


 や、やっときたぁぁぁ!!!

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