第8話 妨げる者
カルターナと店先で別れた後、俺は教会に来て瞑想をしていた。差し込んでくる光は、ステンドグラスでその色をより一層美しくする。前から聞こえてくる神父の声は、透き通っていて思わず寝てしまいそうになる。
瞑想は俺の習慣の一つだ。瞑想をしていると、自分の中にある何かが整っていくような感覚がして気持ちがいいのだ。なにより、集中力を高めることができる。
……
俺は、いつものように木でできた長椅子に座って瞑想をしていると、後ろから扉が開く音が聞こえてきた。
「ブラベララガ! 神父よぉ、邪魔をしに来たぞぉぉ!!」
建物中に汚らしい声が響き渡る。いったいどこのどいつなのだろうか。邪魔だけはしないでもらいたいものだ。
俺は気にせず、そのまま瞑想を続けた。
「……い!」
叫ばれながら背中をつつかれたような気がした。でも、気にせず瞑想を続ける。
「おぉい!!」
「!!」
今度は耳元で叫ばれながら背中をたたかれた。あまりにもうるさかったので、瞑想を解いて後ろを振り返った。するとそこには茶色い髪をした肥満の男と、部下らしき人達が立っていた。
「なんだよ! 人が集中しているときに!」
瞑想を邪魔された俺は、不機嫌な状態でそう言った。この言葉を聞いた肥満男は、不気味な笑みを浮かべた。
「ギャラグジバラララ! いいぞいいぞその顔ぉぉ! 私はそういう顔を待っていたぁ! やはりその顔は最高だぁぁラララァ!」
うるさい・汚い・腹ただしい。最悪な三拍子が見事にそろった人物だ。発言からして、人が集中しているのを邪魔するのが大好きらしい。俺が最も嫌いなタイプの人だ。そして、貴族の証であるオオワシが描かれた金のブローチを胸付近につけている。なんということだ……いやほんと。
「貴族であるお前が、なぜここにいるんだ?」
俺は若干切れていた。さすがの俺でも上流階級に対しては敬語を使うが、今日はそれがなぜかできなかった。
俺の発言後、部下が猿のように叫んだ。
「お、お前! 今! サラモニューク様にため口をきいたなぁぁぁん!?」
「「そうだそうだぁ!! 粛清だぁぁ!!」」
「まあまあ落ち着けお前たち。なにも粛清しないなんて一言も言っていないだろう。私に無礼を働いたこやつにはしかるべき罰を受けてもらうよぉ」
昔カルターナに聞いたことがある。サラモニューク・クラグリムという貴族は、貴族一権力を持つやつだ、と。そして、自己中心の最低野郎だとも聞いた。当時は聞き流していたが、今実際に対峙すると分かる。こいつはクズだということが。なんてこった。そんなやつと関わっちまったのか、俺は。
「さて、粛清のことだが。まずはこれをしよう」
サラモニュークはそう言うと、指を鳴らした。すると、サラモニュークの前に後ろにいた部下がわらわらと前に集まってきた。
「私を楽しませてくれた礼だ。特別に処刑からタコ殴りの刑にしてやろう。もっとも、痛みに耐えられるか、だがね。いけ!」
「「はっ!!」」
「な!!」
それから俺は、ひたすらに殴られた。数人がかりで殴り掛かられると、さすがの俺も防御しきれず、もろに食らうことが大半だった。防御した腕はぼろぼろになり、体中にあざというあざができた。
数十分が経った頃だろうか。サラモニュークが引き上げのサインをすると、部下は殴るのを止め、その場から去っていった。俺は、神父に話しかけられるまで、意識がはっきりとせず、ただ朦朧に教会の天井を見つめていた。
なぜ俺は、こんな目にあわなければならなかったのだろうか。全身に痛みが走っているせいで起き上がれないし、目が腫れているせいで視界が狭い。見えるものとすれば、派手に壊された長椅子ぐらいだ。
ちっきしょぉぉ……ああああああ!!!
「こんちきしょうめがぁぁ……」
気づいたら勝手に口から言葉が出てきていた。その声はあまりにも小さく、少しでも物音がたてば、瞬く間にかき消されるであろう程に。
この時、俺の中に、革命の火が生まれたような気がした。
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