第6話 強盗の叫び
盗賊に襲われつつも、薬草の採取に成功した僕達は、来た道を戻っていた。
「無事採取できたな。カルターナ」
「そうだねヴィーム。結構な量が採れたよ。早速これを使って調合をし……」
僕が話している最中だった。
「きゃぁぁぁぁ!!!」
「ご、強盗だぁぁぁ!!!」
突然後ろから叫び声が聞こえてきた。と思ったのも束の間。今度は叫び声の方向から男が突進してきたのだ。
「どけどけどけぇぇ!!」
「おわぁ!」
男は、猛烈な勢いで突進しながら僕の肩に当たってきた。僕はその場に倒れ込む。
「大丈夫か!? カルターナ!」
「あぁ。なんとか……て!! 鞄が盗まれてる!!」
「なんだとぉ!!」
なんてこった。鞄の中には大事なスギナが入っているのに!
「追いかけるぞヴィーム!」
「おう!」
僕達は、全速力で泥棒を追いかけた。
「待てやお前ぇぇぇ!!」
「鞄返せぇぇぇ!!」
はぁ……はぁ……あの男、意外と速い。まるで馬みたいだ。でも、少しずつだが距離は縮まってきている。
「はぁ……はぁ……なんだあの二人はぁ! このままじゃ追いつかれる」
男は路地裏に入っていく。
「な! おいヴィーム! 僕があいつを追いかける。お前は衛兵隊を呼んできてくれ!」
「りょーかい!」
風の冷たさが肌を伝って伝わってくる。同時に、焦燥感が心の底から湧き出てくる。
僕達は、疾風の如き疾さで二手に分かれた。
「待てぇぇ!!」
あの泥棒、蛇みたいにクネクネと路地裏を進んで行きやがる。走り辛いったらありゃしない。
「くそ! まだ来るか。このままだと追いつかれてしまう……!! ベフフフフ。運がいい。俺は運がいい!」
「待てって言ってるだろがぁぁい!!」
足だけは速ぇなあの野郎は。あいも変わらず馬みたいなやつだ。今度は右に曲がりやがった。
男が右に曲がった直後だった。
「キャァァァァァ!!!」
「!!」
あの野郎、今度はなにを!
泥棒が曲がった場所を急いで曲がると、そこには
「ベフフフフ。ち、近寄るんじゃんないぞ! さもなくばこの女は死ぬ!」
「こ、こいつぅ……」
澄んだ海のような青さをした髪の女性の首にナイフをあてた泥棒が立っていた。興奮しているのか、細かく震えている。
こいつ、なんてクズ野郎だ。人を盾にしやがってぇ。
「おい! その女性を今すぐ離せ!」
「離すかバカ野郎! こ、こっちはなぁ……生きるために必死なんだよぉぉ!!」
「だからと言って、女性を盾にするなんて外道のすることだ! 今すぐ離せ! 鞄も返せ!」
「黙れボケナス! ゴキブリを食べたことのないようなやつが綺麗事言ってんじゃんねぇぇ! そんなこと! 腐りきったこの国で通じると思うなよぉぉ!」
「だからって!」
「うるせぇ!! いいか!? この国は今、国王と上流階級のせいで悪政続きだ! 増税、国際問題! こんなにも問題が起きているのに上のもんはなんにもしねぇ! 俺達負け組はぁ泥棒をするか野垂れ死ぬかしか選択肢がないんだよぉぉ!!」
…………
「お、おん前に社会の理不尽さを教えてやる! 理不尽ってのはなぁぁ! こういうことだぁぁ!!」
こ、こいつ! ナイフを首に向けて走らせてきやがった!
「やめろぉぉぉ!!」
僕は、さっき転んだ時に手に入れた石を、思っきりぶん投げる。手から解き放たれた石は、泥棒めがけて突進していく。
行けぇぇえ!!
「な、なんだとぉ!!」
「よし来た!」
やった! 石がナイフと首の間に入った!
「く、くそぉぉ!」
「もういっちょ!」
僕は、さっきよりも二回り大きい石を、泥棒の手に向けてぶん投げる。
「ぐぁぁぁぁぁ!!!」
今度は泥棒の手の甲に直撃した。
「よし! お姉さん、大丈夫ですか!? 早く逃げてください!」
「え、えぇ……」
お姉さんはうなずいた後、ものすごい速さで奥の方へと逃げていった。
僕は、お姉さんが逃げていくのを確認すると、すぐに泥棒の方を向く。
「て、てんめぇぇ」
「泥棒さんよぉ。そろそろお縄についた方がいいぜ?」
「ッ! このボケナスがぁぁぁ!!」
こいつ、顔真っ赤っ赤にして凸って来やがった。まぁ当然っちゃ当然か。でも、そんな顔をしてたら、馬は馬でも赤馬だ。
僕は殴りかかってくる泥棒の足を刈った後、両手を背中で拘束したまま、馬乗りになる。
「ぐ、ぐぁ、このやろぉ……!」
「大人しくしな」
そうこうしていると僕がきた道から
「大丈夫かぁぁカルターナァァ!」
「おぉヴィーム。こっちは大丈夫だ」
ヴィームが衛兵隊を連れてやってきた。僕は泥棒の身柄を衛兵隊に引き渡すと共に、泥棒から鞄を取り戻す。
一息ついていると、ヴィームが話しかけてきた。
「お疲れカルターナ」
「あぁ……なあヴィーム」
僕は少々重い声で話しかける。
「ん? どうしたカルターナ」
「僕さ。今回の事で思ったんだけどさ。今、この国には大きな変革が必要だと思ったんだ」
「と、言うと?」
「つまりは……革命だ」
「!!」
ヴィームはたいそう驚いている。当然だ。なんせ「僕は国を打倒します」って言っているようなもんだからな。でも……それでも……やらなきゃならないと、心の底から思ったんだ。
この瞬間、僕の中に……革命の火が生まれたような気がした……
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