第5話 質の悪い通せん坊

 僕達は、意気揚々と山へと通じる道を進んでいた。


「なあカルターナ。どうしてわざわざ山まで行くんだ? スギナなら山に行かなくても生えてるぜ?」


「いや、その辺に生えているスギナじゃ効果が薄い。ここら辺は土壌が悪いからな」


「なるほどぅ。理解したぜ」


 それにしても湿気が凄い。さっきの雨のせいか……


 僕はなるべく湿気がたまらないように、左手首につけているブレスレットを外そうとしたその時だった。


「ゲベラゲベラゲベラァァ!! そこの小童どもぉぉ! 金目のものよこしなぁぁ!!」


 突然、僕達の目の前に灰色の服を着た男が複数人現れた。それにしても、なんて恰好が悪いのだろうか。それにゲベラゲベラって……笑い方が下品すぎる。


 それにこいつらの服装……確かメルネイ団のものだった気がする。シュリールいわく、強奪、強姦、人殺し、何でもやる極悪集団だそうだ。しかし、なんて間が悪いんだ。


「おい! 早く金目の物をよこせ! 特にそのブレスレット! 薄汚え見た目してるが金にはなりそうだ」


 僕はその台詞を聞いた瞬間、はらわたが煮えくり返った。このブレスレットは、死んだ母の唯一の形見だ。命と同等の価値があるといっても過言ではない。それを侮辱された。なんなら薄汚いとまで言われた。


「おぉんまえぇぇ……」


 反射的にうなり声が出る。視界がどんどん狭まっていく。体中の血管が浮き出てくるのを感じる。


 今すぐにでもこいつらを……


 我を忘れ、くそったれどもに殴りかかろうとした時、突然肩をつかまれ、グイっと引っ張られた。


「おい! カルターナ! しっかりしろ!」


「!!」


 声の主はヴィームだった。


「深呼吸をしろ! そしたら周りを見ろ! 冷静になれ!」


「あ、ああ……」


 危なかった。あとちょっとで完全に周りが見えなくなるところだった。そうだ。冷静になれ、僕。


 落ち着くため、深呼吸をした後、周りを見渡した僕は、すぐに現状を把握した。


「四人に囲まれてるなぁ」


「そういうこった」


 賊どもが、僕とヴィームの周りを囲んでいた。敵は鉄製の剣を抜き、お粗末な構えをしている。


「おい、お前ら! さっさと金目のものをよこしなぁ!」


「嫌だね」


 はっきりと断ってやった。お前にやるものなんて何一つあるもんかってんだ。

 すると、賊どもの体が細かく震えだした。


「そうかそうかそうかそうか……理解したぜ。つまりお前らは俺達の手で身ぐるみはがされたいってぇことだなぁ!!」


 賊が一人、剣を掲げて走ってきた。残りの三人もそれに続いていく。なかなかにひどい顔だ。人面犬といい勝負ができそうなほどに。


「こいつらどうする? ヴィーム」


「どうするって、そりゃぁ反撃するにきまってるだろぅ?」


「そうだな。叩きのめすか」


 僕達は戦闘態勢に入った。僕は体を丸め、ヴィームは木刀を抜く。


「ゲベラゲベラゲベラァァ!! 身ぐるみはぎやがれぇぇ!!」


「さっきからゲベラゲベラうるさいんだよ! この下っ端がぁぁ!」


 ヴィームは、賊の攻撃をいともたやすくはじき返す。


「な、なんだとぉぉ! こいつ、俺の攻撃をはじきやがった!」


「たいそうな驚きようじゃんねい……かっ!」


 ヴィームは、ゲベラ野郎の頭に強烈な一発を叩き込んだ。ゲベラ野郎はそのまま地面に倒れこむ。


「「「やろぉぉぉ!!!」」」


「ヴィーム! 危ない!」


 ゲベラ野郎以外の賊が、ヴィームの背後を一斉に襲ってきた。品のかけらもない連中だ。僕はとっさに助けに動く。


「大丈夫だカルターナ。こんなやつらの行動なんざぁ見え見えだ!」


 ヴィームは体を振り向かせるのと同時に剣を振る。


「そんなもんこっちもわかっとるわぁ! くらえ!」


「な! 目が!」


 賊の一人が、手に持っていた砂をヴィームの顔面にぶちまけた。目をやられたヴィームに鉄剣三本が襲いかかる。


「ギャバラギャバラギャバラァァ! 死ねぇぇぇ!!」


 やばい、本当にやばい! ヴィームの顔が三枚おろしにされてしまう!


「目を潰したぐらいで喜ぶとは、やはりお前らは下っ端だ!」


 直後、ヴィームは木剣を賊共に向けてぶん投げた。


「な!」


 木剣は、一人に命中した後、隣のやつに向かって跳ね返る。だがしかし


「ギャバラァァ! そんなものが当たると思うなよぉぉ!!」


 難なく返されてしまう。


「目をやられたお前にぃ、勝ちなんてものはなぁい!」


 残った一人がそのままヴィームの顔に突進していく。


「おっとぉ? てめぇ、前が見えてないんじゃないか?」


「!?」


 賊の目の前にヴィームの姿はなかった。振り下ろされた鉄剣はそのまま地面に着地する。


「ど、どこに……は!」


「今気づいたか。お前達が木剣に気を取られている間に移動したのさ」


 横に振り向いた先には目を半開きにしたヴィームが立っていた。


「ッ……! こしゃくなぁぁ!!」


「クソったれがぁぁぁ!!!」


 ヴィームに、ギラリと光る二本の鉄剣が襲いかかる。


「またそれか。同じ攻撃は効かん!」


 ここからがすごかった。ヴィームは一本目の鉄剣を軽々と躱すと、腹部に強烈な拳を叩き込んだ。相手は膝から崩れ落ちた。

 もう一方も軽々と躱すと、今度は頭に回し蹴りを叩き込んだ。相手はそのままバタンキューである。


「へっ! どんなもんよ!」


 ヴィームが僕の方を向いてドヤ顔をしてきた瞬間だった。なんと、今まで伸びていたゲベラ野郎が、短剣を持って起きやがったのだ。


「心臓を串刺しだぁ! ゲベラゲベラゲベラァァ!!」


「!?」


 完全に油断していたヴィームはすぐさま構えようとするが、ゲベラ野郎の方が一足早かった。構えるよりも先に刃が胸に向かって激走する。


「青ざめたなぁ!? 今更もう遅い! 死んねぇぇクソガキがぁぁぁ!!」


 胸元に触れる直前だった。


「クソはお前だぁぁ!!」


 僕の蹴りがゲベラ野郎の手首に入った。全力で叩き込んでやった。短剣が音を立てて落ちていく。


「ぐぁぁぁ! て、てめぇ……!」


「うるさい、このゲベラ野郎! くたばってろ!!」


 僕は、ゲベラ野郎の顔面をボールを蹴るように蹴った。相当な力で蹴ったので、ゲベラ野郎はすぐに伸びた。

 その後、僕が深呼吸をしていると、ヴィームが話しかけてきた。


「助けてくれてありがとな、カルターナ」


「こちらこそありがとうヴィーム。今回、僕はほとんど活躍してなかったし……」


「そんなことはないさ。お前が近くにいてくれるだけで俺は安心して戦えるからな」


「そ、そうか……よ、よぉし! 気を取り直して先に進むぞぉ!」


「おう!」


 盗賊団を無事迎撃した僕達は、山に生えているスギナを手に入れるため、再び道を歩き始めた。

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