第4話 解熱剤を求めて
僕達は占いの途中に突然倒れたフェルンさんを部屋の奥にある居間に運んだ。ベッドの上に寝かせ、彼女の額に冷水に漬けたタオルを乗せた後、僕達は様子を見ていた。
「はぁ……はぁ……」
息が荒れている。冷えたタオルが額に乗せただけで温かくなるほどの高熱だ。なんとかしなくては。
顎に手をあてて考え事をしていると、フェルンさんの隣にいる女性から話しかけられた。
「カルターナさん。フェルンをここまで運んできてくださりありがとうございます」
「どういたしまして。急に倒れたものだからビックリしましたよ」
フェルンさんのことを、フェルンと呼んでいるこの人の名はニゥイル。黄金の鏡でただ一人の従業員だ。居間へと僕達を案内してくれた人でもあり、タオルと冷水が入った桶を持ってきてくれたのもこの人である。
「本当にありがとうございました。おそらく彼女は精神的に参っていたのだと思います。ここ一週間、お客さんが全員貴族や聖職者だったもので」
「そうなんですか。フェルンさん、貴族のことが……」
貴族。それは聖職者の次に位が高い人達のことを指す。やつらはその高い位をいいことに、好き勝手暴れたり、難癖付けて国庫から金を搾り取ったりしている。貴族の中でも位の優劣があるらしいが正直どうでもいい。一部例外はいるが、この国のほとんどの一般市民は、彼らのことが大嫌いだ。
ニゥイルさんは静かに首を縦に振る。
「……はい。実はフェルンのご両親は共に宮廷占い師なんです。フェルンは幼い頃、両親と共によく宮殿や邸宅に行っていたそうです。おそろくその時になにかしらのことがあったのでしょう」
占い師の占い結果は、時に国の指針を決定づけることがあるほど重要なものだ。だから国は、数ある一般職の中で唯一読み書きをすることを認めるほどに手厚い扱いをしている。その一方で、上流階級による横暴に耐え続けなければならない過酷な環境だそうだ。
僕とヴィームはそんな上流階級をあまり好ましく思っていない。
「なにかしら……ですか……そうですか。人の過去とはデリケートなものです。悲しい過去なら尚更です。これ以上触れないでおきましょう。彼女のためにも……」
僕はそのまま静かに椅子から立ち上がった。目に入った窓からはそれなりに降っている雨の景色が見えた。
「それはそれとして、薬を作らないとね」
「そうですね……薬を作らなければなりま……え!? く、薬を作る!? 宝石を買ったり、ひきがえるの肝臓を使ったりするのではないのですか!?」
彼女は目を丸くして僕を凝視している。驚くのも無理はない。現在、この国では宝石に薬効があると広く信じられている。宝石を買えない一般市民は、代用としてひきがえるの肝臓などを使っている。これが今の医学の現状だ。
だがしかし、僕には長年積み重ねてきた本の知識がある。簡単だが、しっかりと薬効のある薬を作る方法は何個か頭の中にある。
「宝石を買うことはしませんよ。肝臓を使うことはあるかもしれませんが……と、とにかく材料を取りに行かねば」
「あ、ありがとうございます。一つお聞きしてもいいですか?」
「はい、何でしょう」
「お客様であるあなた方がどうしてここまでしてくださるのですか?」
……確かにそうだ。なぜ僕達はこのような行動をしているのだろうか。もちろん、理由がないわけじゃんない。ない訳じゃないんだけんども、軽薄すぎて言えねぇぇぇ。
腕を組んでどうしようかと悩んでいると、僕の隣にいたヴィームが代わりに答えてくれた。
「目の前に困っている人がいたら助ける! 理由はこれただ一つだ」
「……そう、ですか。今の時代、珍しいですね……あなた方のような人達は……わかりました。薬のこと、よろしくお願いします」
ニュイムは、深々とお辞儀をした。
「おう、任しとけ! いくぞカルターナ!」
「ああ」
そうして僕達は黄金の鏡を後にした。先ほどまで降っていた雨は見事に止んでいる。
目的地はカルガラの外れにある
「よし! 行こうか」
道のくぼみにできた水たまりは、太陽の光によってキラキラと輝いている。
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