第3話 占い店の看板娘
僕は家を出た後を、親友のヴィームの家に向かって走り出した。我が家から彼の家までの数キロメートルの道のりを強風に近い速度で進んでいく。
途中にあるサンクトル商店街という国で一、二を争うほどの規模を持つ商店街を抜けると、大通りに出た。この大通りはスリが多発している場所である。そのため住人からは「スリ通り」と呼ばれている。
「……よし!」
僕は荷物をスられないよう、細心の注意を払いながら大通りを進んでいった。
大通りの途中で人混みを抜け、住宅街を進んでいくと、ようやくヴィームの家に辿り着いた。この家は教会の外観によく似た外観となっている。なにを隠そう、ヴィームが暮らしているこの家は孤児院なのだ。
ヴィームを呼ぶため、さっそく僕は玄関の扉を手の甲で三回叩いた。
「シスターさーん。カルターナでーす。ヴィームはいますかー?」
すると扉が開いて中からシスターさんが明るい顔で出てきた。
「こんにちは。シスターさん」
「こんにちは〜カルターナくん。ヴィームから話は聞いていますよ。今呼んできますね」
「はい。ありがとうございます」
シスターさんはヴィームを呼びに建物の中へと戻っていった。僕はシスターさんにお礼を言った後、暫くの間扉から少し離れた場所で再び扉が開くのを待った。
十分ほど経過した辺りだろうか。子供の元気いっぱいな声と共にヴィームが孤児院から姿を表した。
若緑色のパーカーと焦げ茶色のズボンで出てきたヴィームは、どこか疲れているように見える。
「いや〜すまんすまん。子供達の遊び相手をしていたら遅れてしまった」
ボサボサの髪の毛をポリポリとかきながらそう言った後、底なしの笑顔を浮かべた。
「で、カルターナ。今日はなにをするんだ?」
「今日はな。お前の成人祝いに、あの超人気占い店
黄金の鏡とは、僕達が住んでいる街カルガラにある占い店のことである。その人気は凄まじく、その高すぎる的中率を目当てにお客さんが後を絶たない。数カ月先まで予約がぎっしりなのだ。
「なんだって! お前、あの占い店の予約を勝ち取ったのか!?」
「うん。五ヶ月前に予約してようやく番が回ってきたんだ。でも、そのせいでお前に成人祝いを送るのが遅くなってしまった。すまない」
僕は頭を下げて心から謝った。
「謝らなくていいって。俺はむしろ、そんな前から準備をしてくれていたことに感謝しているんだぜ。だから頭を上げてくれ」
ヴィームは気さくな声で話しかけてくれた。僕はそれを受けてゆっくりと頭を上げる。
「ありがとう。ヴィーム」
「だから気にすんなっての。早く行こうぜ黄金の鏡へ」
そこから僕達は黄金の鏡に向かって歩き出した。
普通の開けた道を歩いている際に、僕は背中におぞましい視線を感じ、すぐに後ろを振り返る。
振り返るとそこには黒猫以外には誰もいなかった。
「どうしたカルターナ? 急に後ろを見てぇ」
「いや、背中におぞましい視線を感じたからすぐに後ろを見たんだ」
僕は道を横断しながらゆっくりと歩く黒猫を目で追いながら話す。
「そうか……カルターナ。急ぐか?」
ヴィームの真剣な声を聞き、僕は
「ああ……そうしよう」
と、返した。早歩きで道を進んでいくといつの間にかおぞましい視線はなくなっていた。一体あれはなんだったのだろうか…
歩いている間僕達は、とても重苦しい十数分を味わうこととなった。
「おぉぉ。ここがそうか、カルターナ?」
「うん、そうだよ。ここが超人気占い店『黄金の鏡』だ」
僕達の目の前には一戸建ての建物が視界全体に広がっている。明らかに漂うオーラが隣接している家と違う。扉は太陽の光でテカテカと光っていて、ちゃんとした丸窓がついている。今の世の中、ちゃんとした窓なんて高級品だと言うのに。
家全体をじっくりと眺めていると、ヴィームが話しかけてきた。
「なあカルターナ。ここ超人気店なんだろ? なんで行列ができてないんだ?」
「え? なんでってそりゃぁこの店が予約制だからだよ。昔、我儘な貴族が店先で暴れたのをきっかけに予約制になったんだってさ」
「なるほどぅ。理解したぜ」
「そりゃよかった。じゃぁそろそろ中に入ろうか」
「おう!」
僕達は高価そうな扉をこれでもかと慎重に開けた。
中に入ってみるとそこには不思議な空間が広がっていた。部屋中紫色と黄金色で統一されており、光はカーテンで遮断され、高価なロウソクが数本ほど光っているだけであった。僕達の影がゆらゆらと揺れる。
今にも実体のない何かが出てきそうな雰囲気である。
不思議に思って周りを見ていると、部屋の奥から女性が近づいてきた。その足取りは僅かだがフラついている
「……ようこそお客様。私の名はフェルン。この店の代理店長を勤めているものです。どうぞ掛けてください」
「「よ、よろしくお願いします」」
僕とヴィームはフェルンさんに促されるがままに椅子に腰を掛けた。だがしかし、僕達は心配になっていた。彼女はおそらく高熱だ。高熱の状態で仕事をしているのだ。息が荒く、頬は見るからに真っ赤っ赤になっている。
「あ、あのう……大丈夫ですか?」
僕は水晶玉に手をかけ、占いを始めようとするフェルンさんにおそるおそる聞いてみた。
「え? あ……はい、大丈夫……ですよ」
「そ、そうですか? 先程から息が荒れていますが……」
「大丈夫です。気にしないでください」
「は、はい」
彼女は気迫のない言葉を発した後、背筋をピンと正した。
「それでは始めましょう」
そう言った彼女は仕事をし始める。彼女の手がほんのりと黄金色に光ったように見えたその時、
「「フェルンさん!!」」
彼女は……椅子から崩れ落ちていった。
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