5話 仕掛人

 長い沈黙が、どんどん空気を重くさせていた。


「今まで何処に居たんだよ」


『別に隠れてた訳じゃないさ。日本中を観光してたんだ』


「とんでもなく自由人だな」


『そんで、あの町にちょっと寄ってみたら、あんたは居ないし、のぞみちゃんが悪霊に成りかけてるしで驚いたよ』


「……悪かったな」


『まあ、概ね上手くいったようで何よりだ』


「もしかして、何か仕組んでたのか?」


『まあね。といっても、私はあいちゃんにお願いしただけだよ』


「あいちゃんてのは、先輩のことか?」


『ああ。あの子、あんた程じゃ無いけど見えてたからね。見えてたと言うより、感じてたのかな。霊の存在を』


 知らなかった。

 確かに、感の良い人だとは思っていたが。


『話が通じたからお願いしたんだ。センスの良い後輩がいるから、その子にまことのことを教えてやってくれ、ってね』


 そういう事か。

 僕が見える人だと言いふらすのは先輩らしくないと思っていた。


「先輩が、母さんの言う通りにしたのか?」


『まことの為だって言ったら直ぐに引き受けてくれたよ』


 良い先輩を持ったじゃないか、とからかわれた。


「にしても、それだけで事が上手く運ぶもんなのか?」


『実際、上手くいっただろう? のぞみちゃんは成仏して、あんたの代わりにあいつは町の守り主になった。万々歳じゃないか』


 結果だけを見れば、確かにそうだ。

 母のこういうところは凄いが、不気味にも思う。


『なんだか不服そうだね。せっかく手助けしてやったのに』


「……ありがとう」


 この人は本当に、僕の親なんだろうか。


『良いってことよ。これでも、親だからね』


 母と話していると、何でも見透かされているような気がしてならない。


 そうだった、聞かなければならない事があったのだ。


「そういえば、母さんみたいな化け……凄い人が、何であんな事故で死んだんだよ」


『おい、何て言い間違えた? まあ、あればっかりは避けられなかったんだ』


「避けられなかったって?」


『呪いだよ』


「呪い? 母さん、いくらなんでもそんな言い訳はみっともないぞ」


『本当だっての。あんただって人の想いが形になる事を身に染みて分かっているだろ』


「そりゃあそうだけど」


『何処で恨みを買ったのかねえ。まあ、あの人を巻き込んだのは悪いと思っているよ』


「そういえば、父さんはどうしたの?」


『ん? ああ、とっくに成仏したさ。最後まで、真っ直ぐな人だったよ』


「ガードレールを突っ切るような人だからね」


『そういう意味で言ったんじゃない』


 久々の再会をそれなりに楽しんでいた。


『さて、そろそろ行こうかね』


「ああ、御札もあるから楽に成仏出来るぞ」


『おいおい、もうちょっとこの世を楽しませておくれよ。これからアメリカに行くつもりなんだ』


「この自由人め」


『あ、しずくに伝えといてくれるかい? あんまりお兄ちゃんにラブラブしてたら、お兄ちゃんがうっかり法律変えちゃうぞ、って』


「そんなこと言えるか!」


 逃げるように、母は去っていった。



 リュックの中身を取り出し、片付けをしていた。


 すると、一冊の本がひっそりと入っていた。

 持ち帰った覚えのない、母の本だった。



 タイトル「私は仕掛人」

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人工現象 大西ずくも @zukumo

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