第25話 再開

「結局、誰も死ななかったようよ」

「そりゃ良かった」

「……あんなに崩落したのに、すごい」


 数日後。計人達3人繁華街を歩いていた。


 今日も能力都市ではABYを稼ぐために子供達がアルバイトに勤しんでいる。


「結局、崔原もそれなりに仲間には愛情を注いでいたようよ。あの大蛇で幽霊団地を崩した時もちゃんと仲間が傷つかないようにしていたわ」


 さすがの都市7位の手腕に計人は舌を巻いた。


 あの後ファントムは南第8区の自警団のご用となった。


 今頃、彼らは特製の監獄で幽閉されていることだろう。


 当然、計人達が通う第27学園への徴収も終了し、返金が行われた。


 こうして計人達は針のムシロ状態から脱していた。


「あと崔原の目的もふざけたもんだったわ。聞いた?」

「聞いたよそれは」


 崔原の目的はその醜悪さからすでに巷で有名になっていた。


 名付けて『ファントムプロジェクト』。


 彼はこの力が全ての『能力都市』の機構を歓迎していた。


 そして彼は自身を高めるためには強敵との戦いが必要だと考えていて、だからこそ彼は悪事を重ねていたのだ。


 金も手にはいるし、有能な敵対者が現れることで実力も上がる。


 そんな強さを求める彼に惹かれた者たちが彼の周囲に『ファントム』として集まった。


 まさに崔原と『ファントム』は、この能力都市が産み落とした怪物だった。


 だがかくしてその怪物の侵攻も計人により止められた。


「ねぇ、計人。今日も行かないの?」


 そこはまたもモノレールの高架下。


 斡旋所のすぐそばだった。


「やらねーよ」


 結局、計人は依然と変わらない返事をする。

 案の定藤花の顔が曇るが、計人は付け足した。


「でも何か困ったことがあれば声をかけてくれ」


 計人の返事で藤花の顔がパッとタンポポのように華やいだ。


 そうして手をぶんぶん振りながら今日も彼女は斡旋所に去っていく。


『黒の亡霊』に触発されて人を救い出した少女が去っていく。


 藤花を見送ると、計人とメイは再び繁華街の方へ去っていった。


「……」

「……」


 ここ最近メイと二人の空間が若干気まずい。


 二人きりになると必ずと言っていいほどメイが顔を朱に染めてモジモジするからである。


 しかしいつまでもこのような甘酸っぱい時間は続かない。

 程なくしてメイのアルバイト先の喫茶店に着いたからだ。

 メイは再びアルバイトを開始し、メイも子供達もメイの寮で暮らしていた。


 全てが元通りになったのだ。


 正直メイを始め子供達がいなくなり寂しいという気持ちもある。


 しかし計人はわずかではあるが憧れのメイとの距離を詰められたことだけで満足していた。

 顔を真っ赤にしながら去っていくメイに手を振り見送る。


 事件前はメイとこんな風に話すことも出来なかったのだから。

 こうして一緒に下校できているだけで大きすぎる変化であろう。


 と、暢気に手を振っていたら、顔を真っ赤にしたメイが帰ってきた。

 何かと思い目を丸くしていると、決して目を合わせず頬を朱に染めながら言った。


「……今日、私の家で夕飯食べましょう? ……子供達も日比野君に会いたがっているし、その……私も、料理頑張るわ」


 それは望外の相談だった。


「もももも、もちろん絶対行くよ!」

「……良かった」


 メイは頬を緩めると、トタトタとアルバイト先に去っていった。


『黒の亡霊』に憧れ『保護者』を始めた少女が去っていく。


 見送り、計人は一人雑踏の中を歩いていた。


 今日も数え切れない子供たちが日々の生計を立てるためにバイトに徹している。


 そんな中、計人は呟いた。


「また、少しは活動してみるか……」


 こうして、『黒の亡霊』は帰還した。

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能力都市に平和の鐘は響かない。~閉ざされた世界における子供たちの生存競争~ 雨ノ日玖作 @kyuta

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