第2話 始まりの日


 それから一年後のこと。


「え~西暦2020年、アメリカで一人の青年の存在が公表されました。彼はなんと超能力が使えました。彼こそが言わずとも知れた最初の超能力者です」


 『黒の亡霊』こと『日比野計人ひびのけいと』は高校生に成り、能力都市にある第二十七学園に通っていた。


 時は六月。

 制服も夏服に切り替わり、これから何かが始まりそうな季節であった。


(突然だが天使の実在についての話をしよう)


 西日の差し込む教室。


 6限目の退屈な授業を聞きながら計人は自身と対話していた。


「彼が切っ掛けだったのでしょうか、彼以降、能力者が生まれ始めました。それにより世界は新たな問題を抱えることになりました。圧倒的少数である能力者を世界となったのです。しかし数十年の時を経て、その差別も解決されました」


 教師が一拍おいて強調する。


「ここ日本を


(で、天使についてだが、先に結論を述べておこう。実在する)


「日本では愚かにも能力者達がクーデターを敢行。許しがたいことに彼らは何十万人という人間を殺害し遂には時の総理を殺害しました。しかしながら最後は、正義が勝つ。クーデターは失敗。大罪人共は皆処刑台に送られました。これが切っ掛けで日本は能力者から『人権』が剥奪されました。そして能力を保有する『ヒト』ではない子供達はこのクーデターの舞台となった南房総半島に復興とともに作られた通称『能力都市』に送られ、二十歳となり『脱能力』を果たし『ヒト』に戻るまで暮らすことになりました。これにて授業終了!」


 白い髪を生やした老人が教科書をパタンと閉じると同時に終業のベルが鳴った。


 授業が終わると生徒たちはガタガタと席を引き部活やバイトに向かいだした。


「今日どうする~? カラオケ行く?」「いや今日はバイトだわ。生活費やばいんだよ」


 一方で騒がしい教室で計人はいまだ難しい顔をして手を組んでいた。


(そう、天使はいる……! なぜならいま目の前に見える絶世の美女こそが天使だからだ! QED! 証明終了ぅ!!)


 アホな証明をした計人は前方にいる少女に熱い視線を注いだ。


そこにいるのは紛れもない美少年である。


 『雛櫛ひなぐしメイ』。

 肩に掛かる程度の長さの銀色の髪をもつ絶世の美少女である。高校にあがり絶世の美少女を目の当たりにし計人は度肝を抜かれたのだ。


「ねえ雛櫛ひなぐしさん。今日もバイト? そうでないなら私とカフェ行かない?」

「……無理。……今日も、子供達がいるから……」

「そう、じゃあまた今度ね」


 無口で無表情で知られる美少女は委員長(♀)の誘いをにべもなく断っていた。


 そんなクールなところも素敵だ!!


『競争進捗』の発見で挫折。

 

 死んだような状態で高校に入学して得た計人の新たな願い。


 それは彼女と親密になり、『付き合うこと』であった。


 計人は銀髪の少女が誰とも話さずスタスタと教室を後にするのを密かに眺めていた。


「なぁにニヤニヤしてんのよ……。アンタ傍から見ていて相当キモイわよ」


 しかし幸せな時間はそう長く続かない。


 計人が厭らしい目でメイを見ていると心底呆れた声がかけられた。


 顔を上げると金髪の美少女がジト目で計人を見下ろしていた。


「まったく……」


 少女はメイを見つめていたことが立腹なようでプイっと顔を背けた。


「計人、あなたは自分の隣に誰がいるのかよぉーく考え直したほうがいいわ?」


 蜂蜜のような金色の柔らかい髪を胸元まで伸ばしている雛櫛メイと並び立つこの第二十七高校の美少女。


柊藤花ひいらぎとうか』。


 とある事情で計人に目をかけてくれている美少女である。


「はぁ? よく考える? 何をですか?」


 しかしそのようなこと、計人には関係ない。計人が言い返すと藤花は顔を近づけ囁いた。


「(どぉせメイのこと見てたんでしょ……!? あんな可愛い子とあなたが付き合えるわけがないから諦めなさい! それとあの子に負けない美少女が今ここにいるでしょう……!?)」


 言い切ると藤花は胸に手を置く。セーラー服の胸を押し上げる双丘がそれにより強調された。


 どうやら藤花は自分もメイに負けないくらいの美少女だと主張したいらしい。


 確かに客観的に見ればそうだが主観的に見ればメイに軍配が上がる。


 しかし周囲の評価は藤花の言う通りのようでそりあがる藤花の胸に熱っぽい眼差しを向けながらクラスの男子達は囁いていた。


「おいおいあれ見ろよ……」「やっぱでっけーな」「クソー日比野の奴……!」


 丸聞こえの嫉妬に計人は大きくため息をついた。


 こんなことだから自分は生徒に襲撃されるのだ。


「ホ、ホラ……! やっぱりでしょ! そんな私に目を掛けられているアンタはもう少し自分の幸運を噛みしめるべきなのよ!」


 同じ呟きを聞いた藤花は頬を赤らめると、にゅっとその白い腕を伸ばし計人の手を取った。


「ホラホラ、もう帰り支度は済んだでしょ! さっさと帰りましょうよ!」


 こうして計人は藤花に手を引かれ、今日も第二十七高校を後にした。


 ――わけだが……


「待てぇぇぇ! 日比野! おい日比野の奴はどこに行った!?」

「分かりません! おそらく『隠蔽ハイド』を使ったものかと!」

「クソ! 『隠蔽ハイド』! この上なく厄介な『心理』能力だ!」


 能力都市に平和はない。

 それから数時間後、計人は藤花のファン達に追われ能力都市の路地裏を駆け回っていた。


「だから藤花と絡むのは嫌なんだ……!」


 夕日を遮るビルの陰に隠れながら息を上げる計人は呟いた。


 時は数時間前に遡る。


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