読了後のレビューです。
鹿波あずさが住む街の奇妙な噂。それは、人を喰らう妖魔が生みだす『オモイデサガシ』という亡霊にまつわるものです。
ある日、妖魔への復讐を誓う、霧島愁夜という青年と出会ったことで、梓の運命が大きく変わっていきます。
気になる要素の提示の仕方が絶妙で、物語に自然と引き込まれていきます。そしてジャンルはホラー作品ですが、それだけに留まらない魅力があります。
私が特に魅力を感じた点は『人間ドラマ』です。人の優しさ、悲しみ、憎しみ、怖さ、醜さなど、どの感情も、作者様は丁寧かつ繊細な文体で表現されていらっしゃいます。
悲惨な展開も多くありますが、安心できる要素や人物も上手く織り交ぜていらっしゃるので読み進めやすかったです。読者様への配慮などのバランス感覚にも優れている作者様だと思います。
読後感は爽やかで優しい気持ちになれましたし、特に最終話の主人公の言葉がすごく沁みました……!生きていく上で、難しいけどとても大切な事だと思います。ネタバレになるのでここでは触れないようにさせていただきます。他にも気づきを得られる見所がたくさんありますよ!
少しずつ読み進めて、言葉や心情の一つ一つを噛み締めながら余韻に浸る。あるいは一気読みで、美しさと恐さが同居する世界観や人物達にどっぷり浸る、などなど、どんな読み方でも楽しんでいただけると思います(私も、二十九話まで一気に読み進めてから、残りは少しずつ浸りながら読ませていただきました)。
是非少しでも多くの方に読んでほしい作品です!!
幸せの対極にあるのは恐怖。
月野さんは相反するものを上手に折り混ぜながらオンリーワンの作品を書かれる作者さまです。
物語の糸をつむぐように自分だけの言葉で一つひとつ丁寧に紡いでいくこと、その大切をいつも教えられています。
はっとするような優しさに溢れた文章は心地よく、でもそれなのにどこか恐ろしい。
その不思議な魅力についても考えていたのですが自分なりに思ったことは、作品が食事や和スイーツに込められた家族との時間、他者との時間を何よりも大事にしているから、そこに零れんばかりの幸せがあるからこそ闇が怖いと思っちゃうのかなと思い至りました。
本作は人を喰う妖魔の物語。
そこには恐ろしさも優しさもそしてどうしようもない寂しさも、そしてぎゅっと抱けば壊れてしまうような儚い感情もあります。
美しい黄昏のような感情に支配されてください。
大学生のあずさの住む町には、奇妙な噂がある。
それは人を喰らう妖魔と、妖魔が生み出すオモイデサガシという亡霊がいるという、オカルトめいた噂。
そんな町に住むあずさがある日出会ったのは、霧島さんという青年。
彼はかつて妖魔に家族を奪われていて、復讐のためにこの町にやってきたのでした。
そんな霧島さんの復讐が話の主題なのですが。本作の見所は、復讐劇の中にある人間ドラマ。
霧島さんのことを知るうちに彼に惹かれ、放っておけなくなるあずさ。妖魔や復讐といった事情からは一本引いたところにいる彼女だからこそそれに囚われることなく霧島さんと向き合い、彼の力になりたいと、ピュアな気持ちで接することができ、そんな彼女の存在が霧島さんにとっても救いになる気がしました。
また、読み進めているうちに思ったのが、妖魔だけが悪いというわけではないということ。
妖魔でさえも事情を抱えていて、妖魔が悪者、人間が良い者なんて単純な話ではないのです。
話に関わる人間の醜さや優しさが丁寧に描かれていて、読み進めるうちに物語の世界にどっぷりはまっていました。
復讐の果てに何が待つのか。最後まで見届けたいです。
大学生の主人公、あずさの住む街には、奇妙な噂がありました。
人を喰らう妖魔と、それによって生み出された、オモイデサガシという亡霊の噂が。
とはいえ噂は噂。たとえそれが真実だったとしても、あずさにはかかわり合いのないこと。そのはずでした。
しかし、霧島さんという青年とであったことで、あずさの運命も大きく変わっていきます。
霧島さんは妖魔によって家族を奪われた過去があり、今彼の胸の内にあるものは、妖魔への復讐。
復讐というと、どうしてもネガティブなイメージがつきまといがちです。失ったものは戻ってこない。自分自身が傷つくだけ。そんなことを思う人もいるでしょう。
ですが、これは復讐を誓っても無理はない。大きく賛成はできなくても、彼のしようとしていることを否定なんてできない。そう思わせるだけの迫力と説得力をもって、彼が復讐に走ることとなった事件が描かれます。
元々この作者様は、人の感情や抱えているものといった心の内を書くのが非常にお上手。登場人物の怒りや悲しみ、それにより突き動かされる衝動が、見ていてとても伝わってきます。
そしてそれは、負の感情ばかりではありません。
あずさが霧島さんに惹かれていく様子。彼の目的を知って、それでも近くにいてほしい、一人にはさせたくないという強い思いもまた、読んでいて凄く伝わってきました。
様々な思いの交錯する、切ない復讐劇は、どんな結末をむかえるのか。その先に、少しでも救いや幸せは待っているのでしょうか。