最終話 だって私は、康士郎くんの犬ですから!

「はわぁっ……! 手から……手からご主人様の体温を感じますぅ……! まだまだ感じたい……感じ尽くしたいですぅ……!」

「初めて『お手』をしたときもそうだけど、どうして俺の手に触れただけで興奮できるんだよ……」


 俺が賢一さんの説得に成功し、再び優花が犬プレイできるようになった日の翌日。別荘にやって来た俺は、優花に頼まれ犬プレイに付き合っていた。


 俺自身今でも進んで犬プレイをやろうとは思わない。

 とはいえ、優花は二週間も犬プレイができなかったので鬱憤が溜まってるはず。

下手に我慢させ続けた結果、優花の犬プレイしたい欲が暴走する。なんてことになるくらいなら犬プレイでいろいろ発散させたほうがいい。


 そう思った俺は優花の心情に配慮し、今日は犬プレイに付き合うことを約束していた。現在はかつて優花のお腹を撫でた部屋で、犬耳と犬尻尾を付けた優花に『お手』をされているところだ。


「ご主人様ぁ。命令通り『お手』をしたので、褒めて欲しいですぅ……」

「ちゃんとできて偉かったな。優花はとてもお利口だ」

「次は頭を撫でて欲しいですぅ……」

「こんな感じでいいか?」

「うへへえ……! 久しぶりの撫で撫で……! 堪りません……! もっとです。ご主人様の撫で撫で、もっと欲しいです! くぅーん……!」

「全く、甘えん坊だな」


 呆れつつも俺は優花の頭を撫でていく。その間、優花は気持ちよさそうな笑みを浮かべ続けた。もし身に着けている犬耳と犬尻尾が本物なら、喜びを表すかのように動いたことだろう。


 こうして笑っている優花を見ていると、賢一さんを説得して本当によかったと思う。やっぱり優花は、犬として振る舞うと一段と魅力的になるな。

 やっていることは犬プレイだ。それでも飛びきり可愛い優花を独り占めできているわけだし、恋人冥利に尽きるって感じだな。


「あの、康士郎くん」

「どうした? まだ撫でて欲しいのか?」

「いえ、そうではなくてですね……」


 急に優花はシリアスな表情を作る。突然しおらしくなった優花に、俺は困惑せざるを得なかった。


「本当に、これでよかったんですか?」

「これでよかった、とは?」

「お父さんを説得して、また私が犬として振る舞えるようにしてくれたことは感謝しています。ですがお父さんの言う通りにしていれば、康士郎くんは飼い主の立場で行動せずに済みましたよね?」

「まあ、そうなるな」

「私が見せる犬としての振る舞い。それに付き合うことに、康士郎くんは乗り気じゃないことがほとんどでした。ですから、また犬として振る舞う私の相手をすることになって、後悔しているんじゃないかと……」

「何だ、そんなこと気にしていたのか」


 優花の心配は杞憂もいいところだ。それをわからせるべく、俺は優花に自分の気持ちを伝える。


「俺は、後悔なんてしてないよ」

「本当ですか?」

「優花が賢一さんの言うことに従って、無理して犬プレイを卒業しようとして苦しんでるのを見て。俺はこのままじゃいけないと思った。やっぱり、優花には犬プレイが必要だと思って」


 だからこそ俺は賢一さんを説得し、優花が犬プレイすることを認めさせた。

 それは自分の意思に従って行動しただけだ。

 今になって後悔することなど何もない。


「優花と付き合っていくうちに、俺は犬として振る舞う優花も可愛いと知った。その思いは賢一さんに従って犬プレイを禁止している間に強くなった。だから俺は優花が最も自分らしくいられて、魅力的になれる犬プレイというものを取り戻そうとしたんだよ。優花には、また犬として振る舞いながら笑っていて欲しかったからさ」

「康士郎くん……」

「けどこれだけは言わせてもらう! 俺は犬プレイを好きになったわけじゃない! 犬プレイしているときの優花も可愛いと思っているだけだからな!?」

「ご主人様あああっ!」

「おわっ!」


 俺が喋り終えたあと、優花は『お手』をやめて抱き付いてきた。勢いよく抱き付かれたせいで俺は後方に倒れ込んでしまい、優花に押し倒されたような恰好になる。


「そこまで私のことを思ってくれていたなんて……! すごく嬉しいです! 嬉しくて堪らないので、ご主人様の頬を舐めますね!」

「なんでそうなる!? って、ひゃあっ! おい、本当に舐めるのかよ!」

「じゅる……んうっ……。好きですぅ……ご主人様……大好きですぅ……。ぺろっ……んんっ……」

「ちょっ、やめろって! あふうっ!」

「ご主人様は私のこと……好きですか?」

「すっ、好きに決まってるだろ。俺は優花が好きだ。大好きだ」

「……! 私も好きです! 愛しています! ぺろっ……んんっ……んちゅ……」

「ストップ! 舐めすぎだって!」

「やめません! だって私は、康士郎くんの犬ですから!」


 犬として振る舞うのが好きで、彼氏の俺との犬プレイを楽しもうとする。

 それが俺の彼女の優花だ。


 犬プレイは健全な行為ではない、というのが一般的な常識だ。

 それでも俺は、これからも優花の犬プレイに付き合うことだろう。


 犬になって甘えてくる、優花の可愛い姿を見るために──。



──

 本作はこれにて完結となります。

 最後まで読んで下さった方々、ありがとうございました。


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「恋人になった学校のアイドルが犬になって俺に甘えてくるんだが」 花園カムイ @kuro_cvn

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