パンプキン・パイの日

@chased_dogs

パンプキン・パイの日

 今日はパンプキン・パイの日です(パンプキンとは、かぼちゃのことです)。

 なぜって? それは、隣の奥さんがそれは大きなかぼちゃを持ってきて、そのまた隣の奥さんがかぼちゃを切り分けて、そのまた隣の奥さんがかぼちゃを蒸して、そのまた隣の奥さんがかぼちゃをすり潰し、そのまた隣の奥さんが塩や砂糖で味をつけ、隣の奥さんが持ってきたパイ生地で包んでオーブンで焼いたからです。


 さて焼き上がって取り出しますと、ほらほらかぼちゃの良い匂い。奥さんたちは熱いパンプキン・パイを窓辺に置くと、誰がパイを食べるのか話し合いました。話し合い? とんでもない、言い争い! 誰もが自分がパイを食べるのだと言い譲りません。

「私はかぼちゃとパイ生地も持ってきました」

 隣の奥さんが言いました。

「私は硬いかぼちゃを包丁で切りました」

 そのまた隣の奥さんが言いました。

「私はかぼちゃを辛抱強く蒸しました」

 そのまた隣の奥さんが言いました。

「私はかぼちゃに味をつけパイに包んで焼きました」

 そのまた隣の奥さんが言いました。争うほどにお腹が空いて、誰も分け合おうとは言えない気分。


 そうしてお腹を空かせた奥さん達が言い争っている頃、お腹を空かせた動物たち、ウサギにキツネにフクロウにカササギがやって来ました。


 まずやって来たウサギは、窓辺のパンプキン・パイを見て言いました。

「ああ、なんて美味しそうなパンプキン・パイ。けれどあんなに高いところにあっちゃあ届かないよ」

 それでもウサギは懸命に飛び跳ねます。

 その後ろからキツネがやって来ました。

「ああ、なんて美味しそうなパンプキン・パイでしょう。ねえウサギさん、私が支えになりますから、パイを取るのを手伝って下さらない?」

 キツネがそう言うと、ウサギは飛び上がって喜びました。

「ありがとう、キツネさん! パイを分けてくれるなら手伝うよ!」

「パイをあげますから手伝って下さいな」

 それからキツネが窓際の壁に寄りかかると、その背中をウサギがよじ登りました。ウサギがパンプキン・パイに手を掛けたか否か、キツネは急に身を捩り大口を開けるとそのまま、パクリ! ウサギを食べてしまいました。

「あら、いけませんわ?」

 キツネは首を傾げてパイを見つめましたが、自分だけでは取れないので、そしてお腹も満たされたので、しずしずと森に帰って行きました。


 後からやって来たフクロウは眠い目を擦りながら、

「ああ、何て、美味しそうな、かぼちゃの……。パンプキン・パイ……」

 それだけ言うと眠ってしまいました。


 最後にお腹を空かせたカササギがやって来ると、窓辺にとまってパンプキン・パイを啄もうとしました。そのとき一人の奥さんが、

「カササギ!」

 叫ぶやいなや、奥さん達が雪崩のようにやって来て、カササギの翼や脚や嘴を掴むと、てんでバラバラに毛やら羽根やらを毟り始めました。かわいそうなカササギは、追い剥ぎに遭ったように無垢のまま、奥さん達に囲まれてしまいました。

「さて泥棒カササギどうするね?」

 隣の奥さんが言いました。

「この泥棒カササギどうするね?」

 そのまた隣の奥さんが言いました。

「切って焼いて食べましょう」

 そのまた隣の奥さんが言いました。

「パイに包んで食べましょう」

 そのまた隣の奥さんが言いました。

 それで奥さん達は、カササギ焼いて、カササギ・パイを焼きました。パイはすっかりふっくら焼けまして、こんがり肉のいい匂い。ナイフで切り分け皿に取り分け皆で分けて食べました。


 奥さん達がカササギ・パイを食べている頃、窓のそばにはお腹を空かせた動物たち、ネコとヒグマがやって来ていました。

「なんと美味そうなパンプキン・パイよ。けれど大き過ぎてわしにゃ食べ切れそうにゃない。そこなクマさん、半分わしを手伝ってゃくれんか?」

 ネコが嗄れ声で言いました。

「良いですとも。それでは半分食べましょう」

 ヒグマは手を叩いて喜ぶと、鋭い爪でパイを綺麗に切り分けました。

「はいどうぞ」

 半分はネコに。

「ありがとう」

 半分はヒグマに。美味しいパンプキン・パイはすっかり食べられてしまうのでした。


 ―――


 これでおしまい? いいえ。まだ続きがあるのです。


 夜になって眠りから覚めたフクロウは、パンプキン・パイがなくなっていることに気が付きました。がっかりしたフクロウが歩いていると、その横をまるまる太ったネズミが通り掛かりました。

「そこにあったパンプキン・パイはどこへ行ったかな?」

 フクロウが訊ねました。

「パンプキン・パイ? 知りません」

 まんまるネズミが答えました。

「ところで、――」

「はい、なんでしょう?」

「――夕飯は何を食べたかな?」

「私ですか? ついさっき、肉団子とガレットを山盛り食べたところです」

「よろしい、では私もいただこう」

 言うや否や、フクロウは首を長く伸ばしてあっという間もなくまんまるネズミを丸呑みしてしまいました。

「ンンーン」


 少しお腹の具合の良くなったフクロウが歩いていると、その横をぷくぷくに太ったネズミが走っていきました。

「もし!」

 フクロウが声をかけると、ぷくネズミは振り向いて

「あいや、私でございますか」

 と応じました。

「あの家にあったパンプキン・パイがどうなったか知っているかな?」

「いえ、いえ。知りません?」

「そうか。ところで夕飯は――」

「ええ、長者どのの家でブリオッシュをたらふくご馳走になっておりました」

「――では私もいただこう」

 言うや否や、フクロウは首を長く伸ばしてあっという間もなくぷくネズミを丸呑みしてしまいました。

「ンンーン」


 まずまずお腹の具合の良くなったフクロウが歩いていると、その横をしょぼしょぼのネズミが通り掛かりました。

「おい、君」

「はい、なんでしょう……」

 フクロウが呼び止めるとしょぼネズミは、なんとも弱々しい声で答えました。

「今日の昼、あすこの家でパンプキン・パイを焼いていたのだが、知っているかな?」

 聞くなりしょぼネズミは目を見開いて、身体をブルブル震わせ言いました。

「知ってるも何も! ぼくはあのネコがいなければあのパイを食べられたんだ!」

「おお、可哀想に。私が目を覚ましていればそんなネコなぞ追っ払えたものを。全く同情するよ」

 フクロウは悲しそうな表情で首を回しながらしょぼネズミを慰めます。

「いいんです。過ぎたことですから。ところで――」

「何かな?」

「――今晩の夕飯はもう食べましたか?」

 それを聞くとフクロウはニヤリと笑って答えました。

「ああ、もちろん食べたよ。まるまる太ったまるネズミが一匹、ぷくぷく太ったぷくネズミが一匹、それとしょぼしょぼに痩せぼそったしょぼネズミが一匹、全部でネズミ三匹だ」

「ネズミが三匹? おじさん嘘がとっても上手。ほんとは二匹しか食べていないんでしょう?」

 しょぼネズミが小首を傾げ訊ねると、

「いいや、フクロウは嘘はつかないんだ」

 フクロウは大口を開けてしょぼネズミをゴクリ丸呑み! ところが……

「ンンー?」

 ガサガサと直ぐ側の藪から音がしたかと思うと、続いて大きなヒグマが飛び出した! あわれフクロウはしたたかに踏みしだかれ、その口からはしょぼネズミが飛び出した! その次にはぷくネズミが飛び出した! しまいにまるネズミが飛び出して、フクロウのお腹はすっかり空っぽになってしまいました。

 後には羽根が飛び散り脚や翼の折れたフクロウが。二匹のネズミが肩を叩くと、こうしてしょぼネズミは美味しい夕飯にありつくことができたのでした。


 今度こそおしまい。

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