第68話

「そうだ、イェレ先輩。マージュさんを紹介していただいて有難う御座いました。三か月後には剣が出来上がるそうです。持っていた剣も研いでもらいました。凄いですね!」


「だろう?マージュの腕は国一番だ」


 そうして私達は軽く雑談をした後、夜も遅くなったのでイェレ先輩に転移魔法で送って貰った。


「お嬢様、お帰りなさいませ。旦那様が今か今かと待っておりますよ」


「ただいまオットー。このまま執務室へ向かうわ」


私は執務室へとその足で向かった。勿論ファルスは従者モードに切り替わっている。


「お父様、只今戻りました」


「マーロア、お帰り。怪我は無かったか?」


「はい。殆ど植物の採取でしたので怪我はしませんでしたわ」


「そうか、よかった。執務室に呼んだのはこれだ」


父から渡された一通の招待状という名の召喚状。


「これは……断れないですわね」


「あぁ。今シーズンも王家の舞踏会が開かれる。護衛を頼みたいそうだ。そしてマーロアのデビュタントも兼ねている」


「……そうなのですね、分かりました。謁見申請しますわ」


「あぁ、頼んだ。きっと今年も呼ばれると思ってアンナに頼んでドレスは既に手配してある」


「お父様、有難うございます」


「あぁ、無理はするな」


「もちろんです」


 父との話を終えて部屋に戻るとアンナが今か今かと待ち構えていたわ。


「お嬢様、お帰りなさいませ。すぐにお風呂に致しましょう。ファルス、オットーが呼んでおります。すぐに向かいなさい」


 ファルスは一礼して部屋を出ていく。私はというとアンナ率いる侍女隊に風呂に入れられて磨き上げられる。


「お嬢様、デビュタントの話を旦那様から聞きました。今からマッサージをし、磨き上げていけば間に合います。傾国の美女も真っ青になるほどの美しさをテーマに頑張ります」


ヤル気だ。


アンナは既に戦闘モードに入っているわ。三週間前だというのに。


 そんな事はさておき、ベッドでマッサージされていつの間にやら眠っていたみたい。気がついたら朝だったわ。今日は一日鍛錬の日にしようと朝は少しゆっくりめに起きてファルスと走り込み、朝食後にトレーニングを開始したわ。


 午後からは本を読みながらゆったりと過ごす。ファルスにお茶を淹れて貰いながらのんびりしていると、謁見申請が通ったと連絡が来たわ。明日に登城すればいいみたい。



 翌日、制服で城に行こうとするとアンナがとても恐ろしい形相だったわ。そして侍女隊とともにドレスに着替えさせられた。ファルスは従者の制服で登城する事になった。今回も城に着くと謁見室では無く、王太子殿下の執務室へと呼ばれた。


「マーロア・エフセエ、召喚状により登城いたしました」


私とファルスは礼をする。


「待っていたよ、マーロア嬢。呼ばれた理由は薄々分かっているとは思うけれど、今年も舞踏会での護衛を頼む。そしてマーロアはデビュタントがまだなんだろう?王家主催の舞踏会に丁度いいではないか」


「王家主催の舞踏会は二回ほど催される予定ですが、昨年と同様に上位貴族の舞踏会に出席すればよいのでしょうか」


「いや、今回は貴族一般の舞踏会での参加をお願いしたい。あれから治安を乱す者は上位貴族の方は落ち着いてきたのだが貴族一般の方はまだまだ時間がかかりそうなんでな。今回はファルスをパートナーとして連れていくといいだろう。ファルス君、闘技大会優勝おめでとう。将来の活躍によっては伯爵位かなぁと思っているんだ」


「有難き幸せ。今後もご期待に添えるよう精進していきたいと思います」


「承知いたしました」


「では詳しい打ち合わせは宰相と行ってくれ」


 私達は礼をし、執務室を出て宰相の元へと案内された。私達は宰相の執務室へと足を運び、前回同様詳細を聞いて動きの確認をした。前回のファルスはウェイターのような仕事をしていたが、今回は招待客としての参加となるのでまた違った動きになるらしいわ。


まぁ、クラスメイトとして今回も殿下に張り付いていればよさそうな話の内容だったわ。私達は打ち合わせをした後、早々に王宮を出て邸へと戻る。



「お嬢様、お帰りなさいませ。早いお帰りでしたね。いかがされたのですか?」


「オットー、ファルスの舞踏会の衣装をすぐさま手配してちょうだい。私のパートナーとして参加する事になったの」


「左様でございますか。すぐに準備させましょう。色合わせはいかがなさいますか?」


「そうね、私はよく分からないからアンナに相談して欲しいわ。期間までに間に合うかしら?」


「男物はすぐに揃うので明日にでも間に合いますが、色合わせとなると時間がかかります。ファルスは従者ですのでタイや胸元の装飾品でお嬢様に合わせるのが良いと思われます。その辺りはアンナに伝えておきます」


「お願いね。私達は図書室で勉強しているわ」


「畏まりました」


 歩きながらそうオットーに伝えた。自室に入って簡易な服に着替えてから図書室へと向かう。ファルスも先ほどとは違い従者の服装に戻り図書室前で待っていた。


「ファルス、予習しない?」


「……そうですね。前回より順位も落ちたし勉強しなければなりませんね」


「順位が落ちたのは仕方がないわ。勉強時間を削って闘技大会に出たんだもの。闘技大会で優勝したのだから年度終わりの総合成績は良いとおもうわよ?」


「だと良いのですが。勉強は欠かせませんね」


 ファルスは私の向かいに座り、一緒に教科書を開く。そうしてお互い教え合いながら勉強していった。

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