第67話
翌朝は目覚めるとファルスが朝食を作ってくれていたわ。昨日と同じ物だけれど。朝の起きがけに温かい飲み物は助かるわ。そしてテントを仕舞ってからまた探索を始める。今日はウサギ十五匹も狩る事が残っているわ。私達は魔ウサギが居そうな所を探して回る。
普通のウサギは土を掘って地中に住んでいるけれど、魔ウサギは集団で草むらに住んでいる。攻撃的であまり狙われないせいもあるのだと思う。
「いたわ、あそこ」
私はウサギの集団を見つけた。アルノルド先輩もファルスも走り出し、剣で屠っていく。折角集団でいるのだから範囲魔法で良くない?って思うのは私だけかしら。二人が討伐してくれているので私は昨日に引き続き虫を探し始めた。足元をじーっと見つめるが居ない。と、木に立派な蜘蛛の巣が張られている。
糸の太さからしてブラックスパイダーだと思う。巣を揺らしてみるとそれまで隠れていた蜘蛛が出てきた。そこで私は蜘蛛をヒョイと摘まみ上げ、魔力を通してみる。するとどうだろう。今までの虫は魔力に耐えきれず、弾けていたのに魔蜘蛛はシュルシュルと糸を出し始めた。私は魔力を見る事が出来ないのでなんとも言えないけれど、感覚的にこの糸は魔力を帯びてそうな気がするわ。魔力を流す度にシュルシュルと出す糸。
どうやら体に魔力を貯めないように糸を使って放出しているのかもしれない。これは、世紀の発見ではないかしら!?私は早速植物の入っている瓶にブラックスパイダーを入れて先輩に見せに行く。
「アルノルド先輩!これ見て下さい」
ファルスも先輩も斬りかかったもんだからウサギの返り血で凄い事になっていたわ。私は二人に清浄魔法を掛けて綺麗にするとアルノルド先輩は不思議そうに私の持っていた瓶に視線を向けた。
「マーロア、この植物と蜘蛛がどうしたというんだ?」
ファルスは魔ウサギを丁寧に処理しはじめた。アルノルド先輩はよく分からないと首を傾げ聞いてきた。
「アルノルド先輩、植物はただの採取ですが、見てもらいたいのはこのブラックスパイダーです」
私はヒョイッと蜘蛛を摘まみ上げて魔力を流すと先輩の顔に向けて糸が吐き出された。アルノルド先輩は顔に掛けられた糸をパッと払いのけ、その手に付いた糸に目を向けている。
「私は見えないのですが、なんとなくその糸は魔力を帯びているような気がするんですよね。引っ張っても千切れにくく先輩の言っていた弾力とは言わないけれど、何かしらの素材に使えるのではないかと思いましたの」
「どれどれ……」
先輩は剣を鞘に仕舞い、蜘蛛が吐き出した糸をジッと見つめている。
「俺も殆ど見える訳ではないからな。でも不思議な感じはする。そして魔力を通して吐いた糸は切れにくいんだな。これはイェレの分野かもしれん。一応持って帰るか」
「わかりました」
先輩の興味のありそうな感じだったけれど、残念だったわ。でもイェレ先輩が興味を持つ物なら持って帰ってもよさそうね。そして私達はウサギの処理をした後、アルノルド先輩が探しているという素材をまた探し始めた。ファルスはいくつか弾力のある物を探し出していたわ。
そして昔、村はずれにあった木の樹液は固まるとブニブニするという話をしたら先輩も興味を持ったらしく、いくつかの木の樹液を採取していたみたい。樹液という発想は無かったみたいで、手がかりになる情報を得て王都に帰ってから調べると喜んでいたわ。
そして私達は帰途についた。
また一日馬車に揺られて王都に帰る。今回は馬車に乗って即寝落ちしていたわ。流石に野宿は寝ていても気を張るからね。幸いな事に帰り道に魔獣は出ず、寝ながら移動出来て起きた頃にはすっかり元気になったわ。そして思った事を呟いた。
「今回、イェレ先輩にもお土産があるんだから迎えに来てもらえば良かったわ」
「そうだよな。俺もそう思った」
私の呟きを拾ったファルスが同意している。イェレ先輩を足に使おうと考える後輩たち、なんて素晴らしい。そんな無駄話をしながら王都に着いて、ギルドに受注完了させた。
「ロア様、ファルス様、Cランクに昇格です。おめでとうございます。次のBランク昇格には二百ポイントが必要になります」
カードをギルドに渡してランク昇格手続きをする。学生の間にBランクまで昇格出来るかしら。ここからは下位ランクの報酬は無いんだっけ。私達はそのまま王宮のアルノルド先輩の研究室へと向かった。部屋に入ると相変わらず物が散乱しているわ。
学院に居た頃は私とファルスがこまめに片づけていたけれど、今はそうもいかないのよね。とりあえず自分たちが座るスペースは確保したわ。アルノルド先輩はイェレ先輩に鳥を出していたようで私達が座ったと同時に扉を叩く音がした。
「アルノルド、素材探しに行ってきたんだって?俺も呼んでくれれば良かったじゃないか」
「イェレが行くと森が無くなるだろう」
「「……」」
言えています。イェレ先輩は規格外過ぎますからね。そしてギルドに出した素材以外の物をリュックから取り出していく。薬草類は魔術で使用するので助かるらしい。
アルノルド先輩用の素材とイェレ先輩用の素材を分けていく。そして私はあの不思議なキノコを見せた。
「このキノコなんですが、今まで見たことが無かったんで採取してきたんですよね。使えそうですか?」
すると二人ともキノコの入った瓶をジッと穴が開くんじゃないかと思うほど見ている。
「錬金には使えそうにないな」
「……これは見たことが無いから使うのも怖いな。とりあえず王宮の学者に提出だろう。あの人たちなら喜んで鑑定してくれる。新種かもしれないしな」
そして私の持っていたキノコは学者行きとなった。ファルスが持っていた瓶もイェレ先輩は喜んで受け取っていたわ。そして問題のブラックスパイダー。私はアルノルド先輩に瓶を渡すと、おもむろに瓶を開けて蜘蛛を取り出した。
「イェレ、これなんだがな。魔術に使えると思うんだ」
「ただの蜘蛛じゃないか。そこらへんに居る。使えないだろうどう見ても」
するとアルノルド先輩は蜘蛛に魔力を流すと蜘蛛はイェレ先輩の顔に糸を吐いた。あ、絶対嫌がらせだわ。あの時絶対イェレ先輩にもやってやろうと思ったに違いない。
「!!こらっ。顔に掛かったじゃないか」
イェレ先輩は糸を振り払った。
「イェレ、よく見てくれ。俺は漠然としか魔力がみえないからな。この糸、魔力を通していないか?そして切れない」
イェレ先輩はじっと糸の付いた手を見る。
「おぉぉ。本当だ。この糸、魔力を通しているぞ!?ちょっと蜘蛛を貸してくれ」
イェレ先輩は奪い取るように蜘蛛を持って魔力を流し始めた。
「おぉ、これは凄いな」
何度も何度も。いいおもちゃが見つかったようで良かったわ。そしてその被害者は言うまでもなくファルス。糸は全てファルスに向けられている。ファルスはでしょうね、と諦めた表情をしているわ。
「この糸を大量生産すれば使えるんじゃないでしょうか?」
「例えば何に?」
イェレ先輩が興味津々に聞いてきた。
「例えば、魔方陣として魔力を通し易くなるから魔力ロスが減るとか、大量に糸を生産させてローブにするとか。魔力を通せばほらっ、透明人間になっちゃうよ?的な感じですかね」
アルノルド先輩もイェレ先輩も驚き目を丸くしている。
「マーロアの発想は面白いな。次の研究に取り入れてみよう」
「イェレ先輩、では蜘蛛を飼うのですか?」
「んー生態がよくわからないからな。これも学者に渡して増やして貰うことにする」
そうして学者行きの素材として送られていった。イェレ先輩の魔法ですぐに。急に送られてきた学者さん達はびっくりだろう。
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