第66話

 翌朝、朝食後に出発の準備をする。最悪野宿が出来るように食糧もしっかりと持っているわ。今日の昼食は宿のおかみさんがパンとスープを用意してくれたので有難く持っていく事にした。そして森に続く道を歩き始める。


「さて、ここから採取を沢山していかないとな。マーロアとファルスには採取用の瓶を渡したからどんどん入れていってくれ」


「「分かりました」」


 私達は手分けして薬草を中心とした植物や昆虫などの採取に励んだ。ギルドの依頼をした人もきっと錬金術師だと思うわ。採る物がアルノルド先輩の欲しいものと似ているし。ギルドに受注するって事は潤沢な資金があるのね。羨ましいわ。そう思いながら薬草を探して摘んでいく。


 ここの森は手入れされている方で日が入る部分がしっかりと取られている。もっと奥にいけば魔物も強いだろうから手入れも出来ず鬱蒼とした森が続くのだと思うけれど。


 そして私は倒木に不思議なキノコが生えているのに気づいた。見たこともないキノコだわ。素手で触って良いかも分からない。見た目は食用のキノコなのだけれど、ほんのり光っている。多少のキノコ知識しかないから分からないだけかしら。とりあえず採取をしておこう。


「ファルス、何かいいのあった?」


「んーこっちは見たことがない植物を少し採取した位かな。マーロアは?」


「私もキノコを一種類だけ見つけたわ。アルノルド先輩は何処へ行ったのかしら?」


「木の上とかにいそうだな」


「ふふっ、そうね」


 私達は声を掛け合いながら採取を続けていく。お互いの無事を確認するために声を掛け合うのは長年村人として住んでいた経験だと思う。アルノルド先輩には声を掛けないのかって?先輩は私達の声が聞こえる範囲にいつもいるので特に心配はしていない。強いしね。


 私達はまだまだ初心者の域を出ていないひよっこ冒険者だと思っているから安全を一番に考えた行動をしているつもり。そうして先輩から用意された瓶が無くなるほど植物を採取したわ。残りは魔獣の討伐類。


アルノルド先輩も再び合流して三人で魔獣のいそうな場所を探して歩く。暫く歩いていると、ガサガサと枯草を踏む音が聞こえてくる。何が出てくるのか三人は緊張に包まれた。視線の先に見えた魔獣、ワイドスネークと呼ばれる蛇だった。ワイドスネークは一メートル程首を持ち上げてこちらを睨みつけている。私達を餌と認識したみたい。体長は三メートル程だけれど、素早く動き回るので気を付けなければいけない。


私はさっと剣を鞘から抜き、斬りかかった。いつもの感覚で力を込めて袈裟斬りをすると、ワイドスネークはスパリと真っ二つに切れてしまった。


「!?どういう事かしら。切れ味が全然違うわ!」


驚いて剣を見る。いつもの剣だわ。刃こぼれは削って貰ったけれど、切れ味上昇等の魔法は掛かっていないわ。


「マーロアも驚いただろう?俺もさっきクマを斬って驚いたよ。すげーよな!アルノルド先輩の強さの秘訣が分かった気がする」


 ファルスは嬉しそうに話をしている。本当に驚きだわ。マージュさんにお礼を言わないとね。そして私達は依頼書にある魔獣を探してどんどんと討伐していった。そして歩き回る間に川辺までやってきた。


「少しここらで休憩するか」


アルノルド先輩がそう言って大きな石に腰かけた。私達も後に続く。


「後、討伐は何が残っているんですか?」


「ウサギ十五羽だ。それで今回の討伐は終わる。だが、まだ欲しい素材が手に入っていないんだ実は」


珍しい。アルノルド先輩が見つけていない素材。


「どんな素材なのですか?」


「んーまだよくわかっていないが、弾力のある素材が欲しくて探しているんだ」


「スライム系ですか?」


「スライムは弾力が足りなかった。他にないものか」


「じゃぁ、ここらで素材を探しつつ今晩はテントで一泊しますか」


 ファルスはそう言うと、先輩も頷く。日も暮れかけているし、この時間から動くのは得策ではないからね。私達は弾力ある素材を探し始めた。どんな物がいいのかしら。魔獣の肉のような弾力?それとも竹のようなしなる事が出来る弾力?なぞかけのような感じね。ファルスは小動物、私は虫、アルノルド先輩は植物を中心に探す事にした。


やっぱり弾力のあるものっていったら青虫のプニプニ?魔力と反応するかしら?見つけた虫に魔力を流してみるけれど、破裂ばかりして魔力に耐えれる虫はいなさそう。そしてとてもグロイわ。ブラックスパイダーの糸なんてどうかしら。ブラックスパイダーは魔昆虫の中でも小さく人間を害する虫ではないので増えすぎない限りは放置されている弱い魔昆虫なのだ。


 増えすぎた時は火魔法ですぐに対処するので問題になることもない。私は草の裏や石の下など探して見る。普段は見かけるのにいざ探すと居ないものなのね。この日はみんな諦めて野宿の準備をする。今日はパンとスープ。鍋に乾燥野菜とベーコンを入れただけの簡易的なスープ。


 スープを飲むとビオレタの料理を思い出すわ。いつもビオレタは温かい料理を作ってくれていたの。貴族の邸では殆ど冷めてしまっているのよね。そしてファルスやアルノルド先輩と最近の出来事をおしゃべりしながら夜も更けていき、交代で番を取ることになった。

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