第69話

 あっという間に舞踏会の日になった。


今回は貴族一般の部ね。上位貴族だけの時とは違った雰囲気のようだわ。私は朝からアンナ達に磨き上げられた。ファルスが私を見た時に「馬子にも衣装だな」って言ったので回し蹴りをしたのは言うまでもない。ドレスもいざという時用の仕様なので本来のドレスよりも軽くて動きやすい。


今日は父も一緒に参加する予定なの。父もファルスと同じような服装をして玄関ホールで待っていた。エフセエ侯爵一族みたいな衣装になっている気がするわ。


「マーロア、よく似合っている」


 父は珍しく微笑んでいるわ。私達はオットーに見送られて馬車に乗り込み、王宮までやってきた。今回、闘技大会優勝で将来騎士団長になったら爵位が欲しいと宣言したファルスは貴族達に十分な話題を提供しただろうから、今から繋がりを持とうとする人も多いわよね。


その辺の対応はファルスも考えているみたい。殿下達もいじわるよね。警護と称して私達を舞踏会へと引っ張り出すのだもの。


 貴族一般の参加者に王宮騎士や魔術師をいくらでも覆面で護衛に付かせているはずで、私達は必要ないんだもの。まぁ、舞踏会やお茶会に出ないと王家も了承してしまったからこういう方法を取っているのだと思うけれどね。


以前より襲撃は減ったのだから私達は必要ないのよっ、って最近思う。


 さて、そんな事はさておき、私達は貴族の仮面を被り会場に入場する。


「エフセエ侯爵家、ガイロン様、マーロア様、ファルス様ご入場!」


 案内係の声で視線が一気に私達へと注がれる。父が前に立ち、その後ろをファルスのエスコートで歩いていく。変じゃないかしら。向けられた視線にドキドキしていると、


「マーロア、見てみろよ。子息達、マーロアに声を掛けたくて仕方がないんじゃないか?」


ファルスが耳元で話す。


「そんなわけないわよ。どちらかと言えばファルスの方が見られているわ。後で令嬢達からグイグイ来られるかもしれないわよ」


ふっと笑い合い緊張も多少ほぐれていく。


「さぁ、お前たち。陛下に挨拶を」


私達は陛下に挨拶をする。


「国王陛下、並びに王妃殿下。本日の舞踏会にお招き有難うございます。娘のデビュタントをも考えて下さり、感謝の念に耐えません」


「エフセエ侯爵、本日の舞踏会楽しんでいってくれ。マーロア嬢、ファルス君デビュタントおめでとう。二人の活躍を期待している」


「「有難うございます」」


 短いやりとりだったけれど、挨拶も終わったわ。私達の後ろには陛下に挨拶するために沢山の人達が並んでいる。


後は舞踏会のファーストダンスを踊って殿下の護衛に付けばいいのね。王太子殿下のファーストダンス後、私は父にダンスをお願いする。


「お父様、今日は曲がりなりにもデビュタントです。お父様、私と踊っていただけませんか?」


「……マーロア、有難う。こんな父と踊ってくれるとは」


父の目は少し赤くなっている。私達家族はこれまで色々とありすぎたものね。父は私をエスコートしてホールの中央まで歩き、ダンスを始める。


「マーロア、ダンスが上手なんだな」


「えぇ。村ではユベールが楽器を弾き、私とファルスはダンスを踊って練習していましたもの。レヴァイン先生にしっかりと指導していただいたから難しい曲でなければ踊れますわ」


私は微笑みながらそう答える。


「そうか、村での生活は楽しかったのか。今は辛いか?」


「辛くはありませんわ。私の周りにはお父様もオットーもみんないますもの。サラは、どうか分かりませんが、テラはきっと跡取りとして立派に成長してくれると思いますわ。今度ファルスとテラの様子を見に行っても宜しいですか?」


「あぁ、テラの様子を見に行っておくれ。マーロア、有難う」


「ふふっ、お父様。色々とありましたが、私達は家族ですわ」


「……そうだな。マーロア、そろそろ曲も終わる。ファルスとダンスを踊った後、殿下の警護に付くのだろう?無理しないように」


「お父様はどうされますか?」


「私は方々に挨拶がある。帰る時には声を掛ける」


「分かりました。ファルスとのダンス見ていて下さいね」


 私はニコリと笑いながら父とのダンスを終え、ファルスの元へ向かう。既にファルスには何人かの令嬢が周りを囲んでいたわ。


ファルスはとてもモテるのね。


ファルスは私と目が合うと、スタスタと令嬢達を無視するように私達の元へとやってきた。


「私と踊っていただけませんか?」


「ええ、もちろん。お父様、踊ってきますわ」


そう言って私達は軽やかにホールの中央へと向かっていく。


「ファルスと踊るのは二年ぶりかしら。踊りをちゃんと覚えているの?」


「何を言っているんだか。マーロアこそいつも俺の足を踏んでいただろう?俺についてこられるのか疑問だな」


「ふふっ。ユベールの音楽じゃないのが残念だけれど、私達も楽しみましょうか」


「そうだな」


 私達は踊り始めた。基本のステップに時々難易度の高いステップを織り交ぜる。私もファルスも幼少からずっと踊ってきたから息はぴったりと合っている。そうして最後にファルスは私をクルクルとターンさせてから抱きとめ、曲が終わりを告げた。


すると、会場から割れんばかりの拍手が響いている。どうやら私達のダンスは会場の人達の目に留まったようだ。お互い笑みを浮かべてホールから父の方へとまた軽やかに移動したわ。

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