第58話

 私はというと、結局寮を引き払い邸から学院に通うようになった。ファルスも同じ。

アルベルト先輩とイェレ先輩は魔術大会中、専門分野の人々から引っ張りだこだったらしい。説明が面倒だったと二人から手紙を頂いたわ。


その後、卒業パーティは二人とも仲良く男同士で参加してクラスメイト以外と話すこと無くすぐに帰ったとか。

 

 パーティの翌日、先輩たちは研究室の片づけ、王宮の寮へ引っ越しに慌ただしく日にちが過ぎていった。どうやら王宮の独身寮は学生寮とは違い、しっかりと住めるように設備も広さもあるのだとか。学生と違って縛りも少ないから夜遅くに帰っても文句を言われる事は無いって喜んでいたわ。


 

 そして迎えた新学期。


 変わったのはファルスが騎士クラブに入った事かしら。夢に向かって一歩前進している感じよね。朝から私の従者として働きながら午前の授業受けた後、ファルスはクラブで鍛錬を行って邸に帰り、また従者に戻る感じ。私はというと、午前中の授業の後、王宮のイェレ先輩の元へ向かう毎日。


 先輩が言うには『剣の鍛錬も必要だが、マーロアは魔力量も増えたから魔法の訓練も必要だ。陛下からの命でもある』との事でイェレ先輩による極秘訓練を行っているの。アルノルド先輩が研究で頭が煮え切った時に訪れて一緒に剣と魔法を使って相手してくれている。

もちろん王宮への行き帰りは侯爵家の馬車がちゃんと居てくれるわ。父から私が強いといっても女の子が一人で歩くのは危ないと言われてね。これには先輩達も父の言葉に賛成していたわ。

 そうして平日は忙しく過ごして休日はファルスと一緒にギルドランク上げに精を出す事にしたの。



 毎日が目まぐるしく過ぎていき、前期休暇目前となったある日。


「マーロア、もうすぐ前期休暇前のテストと闘技大会だけど、どうするんだ?」


ファルスは夜にお茶を淹れながら聞いてきた。


「テストの方はいつも通り順調よ。ここ数日はイェレ先輩が『そろそろ試験があるだろう』と勉強も教えてくれているし。闘技大会については本来ならシード権が与えられるそうなんだけど、出ても出なくてもいいみたい。

むしろ出ない方がいいんじゃないかってイェレ先輩から言われたわ。私も出るつもりは無かったし、対人戦にあまり興味も無いのよね。ファルスは勿論出るんでしょう?」


私がソファに座るように促すとファルスは自分にもお茶を入れて向かいのソファに座りお茶を優雅に飲み始めた。


「俺は騎士クラブから騎士団に入りたい奴は絶対に出るようにって言われてるよ。今回は優勝を狙えって。なんで出ない方がいいんだ?」


「多分だけれど、王家は私の実力を隠したいのではないかしら。女だし、魔力無しって油断する人が多いらしいのよ。私が強いって事を忘れさせて殿下達の懐刀にでもしたいんじゃないのかしら。

私が女だから妃殿下やエレノア様達の側にいることができるしね。今度の舞踏会シーズンも護衛を頼まれているでしょう?私達」

「そうだな。平和になってきているとはいえ、学院内でも最近たまに俺達が殿下達の護衛に当たっているしな。でもマーロアは冒険者になるんだろう?」

「もちろんよ。王家に楯突く気はないし、協力出来るところは協力するだけよ。冒険者になったらレヴァイン先生と各地を回るのが夢だもの。卒業したら王都に居ないから手伝えないわ」

「確かにな」


ファルスは笑いながら一気にお茶を飲んで立ちあがった。


「よし、そろそろ勉強の時間だ。じゃぁ、また明日の朝起こしに参りますよ、お嬢様」

「えぇ、いつもの時間にお願いね」


そうして私は勉強した後、ベッドへ入った。





 翌日も授業を終えて王宮に向かうと今日はアルノルド先輩がイェレ先輩と共に部屋で待っていた。


「ごきげんよう。アルノルド先輩、今日はどうされたのですか?」

「私もイェレに呼ばれてきたんだ。イェレ、どうしたんだ?」


イェレ先輩が私とアルノルド先輩にソファへ座るように促した。こんな時は絶対に面倒な話を持ってきたに違いないわ。アルノルド先輩も察したようで既に眉間に皺を寄せている。


「いやー本当ならファルス君もここに呼びたかったんだけどね。俺が呼んだ理由。ちょっと狩りに付いてきて?」


イェレ先輩は満面の笑みを浮かべながら最高級の茶葉を使ったお茶を淹れている。


「……やはりな。で、何を狩るんだ?」

「ブルードラゴン、かなっ!」

「お前一人でいけるだろう」

「ブルードラゴンって魔法耐性が異常に高い事を知っているよな!?」

「イェレならなんとかなるだろ」


アルノルド先輩は香りを楽しむようにお茶を飲んでいる。


「マーロアは付いて来てくれるだろう?」

「私より騎士団長クラスの誰かが行けばすぐ終わるのでは無いですか?」


私はそもそも学生だし。


「それなんだよね。そういう時に限ってさ、南部の国境付近でスタンピードの予兆があるらしくて騎士団が向かっているんだよね。それと王太子殿下も隣国へ視察に出ているから警護に騎士団長も居てね。

陛下の護衛もあって人出が全く足りないんだよ。そこにブルードラゴンが北部の村に現れたってわけさ。運が悪すぎだろう?」

「私よりギルドで冒険者を募った方が良くないですか?」

「みんなスタンピードの方へ出払っているんだ。稼ぎ時だしな。それにドラゴンを倒す程の強さを持つ人間なんてそうそう居ない。

マーロアやファルスは俺もアルノルドも認める程の強さだし大丈夫だ。それにドラゴンを過去にも倒しているしな」

「仕方がないな。報酬はきっちりと頂くからな。マーロアはどうする?」


ブルードラゴンがどんな強さかもよく分からないけれど、先輩達となら一緒に討伐に行っても大丈夫なような気がするわ。


「アルノルド先輩が行くのなら付いて行きますわ。ファルスは闘技大会が控えていますから参加するかどうか……」


イェレ先輩はニヤリと笑った。


「それなら大丈夫だ。行ってすぐ帰ってくるし、三日後の闘技大会は余裕だろう。学院長にも話しておくから」


なんだかファルスは既に強制参加な感じなのね。


「分かりました。帰宅後すぐに用意しますわ。朝、ここに来れば良いのですか?」

「あぁ、早いうちに来てくれ」


私は必要な物を聞いてからすぐに邸に帰った。ファルスも学院から連絡を貰ったようでクラブを途中で切り上げて帰ってきたらしい。


「マーロア、俺、先生からとりあえず帰れって言われたんだけど、何かあった?」

「学院長から聞いていなかったのね。イェレ先輩と一緒に明日の朝一番にブルードラゴンの討伐に行くのよ?」

「えぇぇっ!?」


ファルスは予想していなかったようで驚きを隠せないでいた。


「三日後闘技大会だぞ、俺」

「私もそうは思ったんだけれど、イェレ先輩は大丈夫だって言ってたわ」


ふふっと笑いながら明日の詳細を話す。ファルスは闘技大会を延期してほしいとぼやいている。


まぁそこは仕方がないわよね。


頑張ればきっとアルノルド先輩特製ドリンクをくれるかもしれないわ。ファルスはオットーに明日の事を報告してから明日の準備するって言って部屋に戻って行ったわ。


なんだかんだで討伐が好きなんだと思う。私も嫌いじゃないのよね。私も明日のために入念に装備のチェックをしてからベッドへ入った。

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