第59話

 翌日、早朝にファルスは私を起こしに来た。


「お嬢様、お時間でございます」

「今日は軽く体を温める位がいいわね。リストバンドも取るわ」

「俺も取ってきたよ。久々に取ると体が軽い。そうそう、サンドイッチを料理長に無理言って作って貰ったんだ。王宮に着いたら食べようぜ」

「きっと二人は食べていないでしょうね」


 私達は軽く体を動かした後、王宮へとフル装備で向かった。村に出るブルードラゴンってどれくらいの大きさなのかしら。アルノルド先輩の口ぶりではイェレ先輩一人で倒せるような感じだったわよね。私もファルスも補助として参加するのかしら。


「先輩方、おはようございます」

「マーロア、ファルスおはよう。早速だけど飛ぶよ」


 イェレ先輩とアルノルド先輩は前もって準備をしていたようで魔法陣と魔石の中に立っている。今回は遠い距離ということもあって魔石の魔力を利用して転移をするらしい。魔法陣の線に魔石が置かれていつでも発動出来る状態になっている。


 私達は素早く陣の中に入ると、イェレ先輩は詠唱を始め、陣が淡く光り始めた。そして景色が歪んだかと思うと、次の瞬間見たこともない村の中に居た。



村は人気が無い様子で静まり返っている。


「イェレ先輩この村は?」

「あぁ、この村はドラゴンが出たと言われている村だ。住民達は今頃一番近い村に避難しているだろうからこの村には誰も居ないだろう」


イェレ先輩はそう言いながら消えた魔法陣の上に置かれてあった魔石を丁寧に拾い上げていく。


「先輩、一応朝食を持ってきたのですが食べますか?」

「気が利くね。腹が減っては戦は出来ぬ。腹が減っていたんだ」


 私達は村の中央部まで歩いて行くと、広場のようになっていて椅子が設置されてあった。私達が住んでいた村とは赴きが違うのね。

 自分が住んでいた村やギルドがあった街しか知らない私にはちょっと新鮮に映ったけれど、村の端の方では建物が壊されていて被害が大きかった事を実感する。


私達は素早くサンドイッチを食べて戦闘の準備を始める。


「ファルス、剣を貸せ」

「アルノルド先輩!いいんですか!?」


 ファルスは目を輝かせているわ。そして剣を渡すと、アルノルド先輩は指で剣の腹を撫でながら詠唱を始める。私も先輩を真似てダガーに魔法を付与してみる。私が付与したものは麻痺と毒と腐食の三つ。それぞれのダガーに一つずつ付与してみた。


「マーロア、上手いじゃないか。アルノルドを超えるのも時間の問題じゃないか?」


イェレ先輩は面白そうにダガーを眺めている。その間にアルノルド先輩の魔法付与は終わったようだ。


「身体強化と威力増加、魔法強化だ」


ファルスは今にも踊りだしそうな程喜んでいるわ。


二日後の闘技大会には反則になるのでブルードラゴンを倒した後、魔法を解かれるのは黙っておこう。それにしても流石アルノルド先輩。三つも重ね掛けできるのは凄いわ。


私は1つがやっとなの。


 そして錬金術師の腕によって効果に大きな差が出るの。気持ち程度の効果から数倍になるのよね。私も自分の武器や防具は魔法効果の高い物にしたいわ。お金が貯まったらまたダンジオンさんの所に行こうと密かに決めた。


 そして今アルノルド先輩が付与した魔法はあくまで簡易な物であり、使っていくうちに効果は薄れていくの。しっかりと長期間効果を持続させたいならダンジオンさんが行うような武器や防具に直接刻印していく事になるわ。


 刻印すれば長期間効果が消えないけれど、種類は固定される。魔法で簡易的に付与するのはその場で出来るし、敵によって魔法を選べるので最適な魔法を付与出来る。が、魔力を消費するので魔力を温存したい時には向かない。


一長一短だわ。ただ、それは錬金に覚えのある人が居てこそ出来るのであって普通は付与された武器や防具を買う事になる。

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