第13話

「マーロアお嬢様、そろそろ王都へ戻らねばなりません」


 とうとう私が聞きたくなかった言葉がビオレタから発せられた。ユベールとレコとファルスとレヴァイン先生。みんなが揃っている時だった。私は言葉を絞り出す。


「……そうね。でも、私はずっとここに居たいわ」

「お嬢様、残念ながら無理です。ファルスも一緒に通うのですから心配せずとも大丈夫です」

「……ビオレタは?一緒に王都に来るんでしょう?」


ビオレタは少し寂しそうな顔をしながらも笑った。


「残念ですが、私は乳母としての役割は終えたのでこのままこの村で過ごします」


そしてビオレタはユベールに視線を向ける。


「ビオレタ、もしかしてこのままユベールと暮らしていくのかしら?」

「マーロアお嬢様にはお伝えしておりませんでしたね。先日、ようやくビオレタから良い返事が貰えました」


ユベールがいつになくにこやかに話をする。


「!!おめでとう。嬉しいわ。だって私にとって本当にお父さんとお母さんだもの。ね、ファルス?」


私は嬉しくってファルスに同意を求めると、ファルスはそっぽを向いている。ユベールと結婚するのは反対なのかしら?少し、間を置いてファルスは呟いた。


「……母さん、おめでとう」

「ファルス、ファルスは嬉しくないの?」


ファルスはそっぽを向いたまま答える。


「……嬉しいさ、だってユベールが父さんになるんだろ?嬉しいに決まっている。だけど、俺、折角父さんが出来たのに王都に行かなくちゃいけないんだろ?……寂しいじゃん」


どうやらファルスは嬉しさと恥ずかしさと寂しさで私達に顔を向けてくれないようだった。


「ファルス、いつでも帰ってきなさい。好きなことをしてまた気が向いたら村に帰ってくればいいのよ。私達はここで待っているから」


ビオレタはそっと立ち上がり、優しくファルスを胸に抱く。


「母さん、俺そんなに子供じゃないからっ」


 ファルスは慌てて否定すると皆が笑った。なんて幸せな一時なのかしら。私もファルスと本当の家族だったならどれだけ幸せだったのだろう。出来れば私もこのままここに居たい。


でも、そうはいかないわね。


「俺は王都に帰りますよ?ファルスとマーロアお嬢様に付いていくんで。ここでコツコツ貯めた金で遊ぶ予定です」


レコは飄々と言ってのける。そしてまたふふふと皆で笑った。するとさっきまで黙っていたレヴァイン先生も口を開く。


「俺も十分にファルスとマーロアを育てた。そろそろまた旅に出るよ」

「先生は王都に戻らないの?」

「俺は冒険者をしながら有望な人材を探すのが仕事だからな」

「え?先生の仕事は王都で働いて趣味が冒険者だとずっと思っていましたわ。たまたま私達の教育を興味で引き受けて下さって王都の仕事を休んでいたのかと」

「まぁ、内密にな。普段は将来有望なやつを探して王都に連絡し、迎えを寄こすんだ。王都で専門のやつが育てていく。だが二人の素質を見て俺自身が育ててみたいと思ったから3年間二人を育てた。

俺の予想以上に二人とも成長したぞ?自慢していいくらいだ。王都でもお前達より強い奴は少ない。なぁレコ?」

「そうですねぇ?俺より弱いですが、相当の実力はあると思いますよ」

「本当!?嬉しいわ!」

「王都に行っても鍛錬は怠らないようにな。それに休みを使って王都のギルドで小遣い稼ぎも出来るぞ。ここの町と違って種類も報酬も多いから試すといい。だが、2人で行くように」

「先生、なんで?」

「いくら強いとはいえ経験は少ない、過信するな。レコを呼んで3人で冒険に出ても面白いかもな」


 そうして家族会議を終えて私もファルスも部屋へ戻って王都へ行く準備する。邸から通う事は出来るみたいだけれど、私は寮を使わせて貰うわ。もちろんファルスも同じ。


 親である侯爵様は私を淑女科へ入れる予定だとビオレタは言っていたけど、騎士科に進むわ。前にも少し話をしていたが、先生は学院に伝手があるらしく、私が騎士科へ行けるように手配してくれるって。

 侯爵様は私の事なんて興味もないし、学院の費用も淑女科以外なら出さないかもしれない。貴族は高額な費用を納めて全員入学するけれど、平民は基本的には無料なの。けれど、試験を受けて合格しないといけないみたい。


因みに成績上位10名は食事や寮費など全ての費用がタダになるらしい。ファルスはもちろん試験を受ける予定なの。私も淑女科以外なら公爵様に入学金を払わないと言われる可能性があるので平民として騎士科を受けるつもりでいるわ。


先生が言うには私達なら余裕で大丈夫だって言っていたけどね。心配なのでファルスも私も試験に向けてひたすら勉強している感じかな。


 侯爵様が学費を払ってくれなくて成績上位10名に入らなかった場合は自分で食費等を稼ぐしかないらしい。その場合のギルドなのだとか。王都ってどんな所なのかしら。ずっとこの村で育ってきたし、村には王都の話なんて殆ど入ってこない。今から緊張しているわ。




「ではユベール、ビオレタ、行ってきます。レヴァイン先生、今までどうも有難う御座いました。また卒業したら一緒にPTを組んで下さいね」

「あぁ、マーロア。ほんの4年だ。頑張っておいで」


私とファルスは迎えにきた侯爵家の馬車に乗り込む。レコは御者席に座った。これからの4年間は私にとって厳しいものとなるのね。


侯爵邸に近づく度に私の気持ちは沈んでいった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る