第12話

 ここ数日、狩りはしばらくお休みをして今日は道具作りに励んでいる。


 道具といっても農機具のような道具ではなく、魔石を使った道具作り。今まで私達が捨てずに取っておいた屑魔石を使うらしい。

 私もファルスも魔道具を作ったことがなかったので興味津々だ。魔石は道具屋に持っていけば大きさや種類によって買い取って貰えるので私やファルスにはいい小遣い稼ぎになっている。けれど、魔物の中でもゴブリンやスライムなどの小さな魔石は屑魔石と言われ、魔力を注ぎ込める量も殆どないし、数も多いことから道具屋に持って行っても買い取りを拒否されている。


なんで私達がそんな物をずっと持っているのかといえばレコから捨てずに取っておいて下さいと言われたから。私達は庭の角にある倉庫にポイポイと屑魔石を放り込んでいた。

 どうやらレコはこっそり屑魔石から魔道具を作って依頼をこなす時に使っていたようだ。


なんともセコイ!


もちろん道具屋でも屑魔石から作る魔道具も置いてあるが自分で作る人も多いようで村では売れないらしい。


「さて、二人にはまだ魔道具の作り方を教えていなかったね。簡単な物から作ってみようか」


 レヴァイン先生はそう言うと、倉庫から持ってきた数個の屑魔石と黒粉、おろし器と小袋をいくつか用意していた。黒粉と呼ばれる黒い粉は何が入っているのかよくわからない。

聞いた話では剣を作る時に出てくる粉を使っているらしい。もしかしたら複数の鉱物が入っているのかもしれない。小袋は先日ファルスと一緒にビオレタに指導を受けながらチクチクと縫った物。


 私は裁縫をビオレタに習っていたけれど、あまり得意ではないの。意外にもファルスの方が器用になんでもこなせるらしく私より上手に作っていたわ。なんだか悔しい気もするけれど、こればかりは負けを認めるわ。


「レヴァイン先生、この屑魔石を粉にするのですか?」

「うん。正解」

「魔石の種類は関係ないのですか?」


先生はよく聞いてくれたと言わんばかりの笑顔だわ。


「そうだね。村で使っている魔道具の殆どは魔石の色に合わせた使い道があるけれど、これは粉にして魔力の触媒に使うだけだから気にしなくていいんだ」

「魔力の触媒?」

「粉にして魔力を込める事で使うんだよ。まぁ、物は試しだ。1個作ってみよう」


私達は先生の言う通りに魔石をおろし器でゴリゴリと粉状にしていく。そして器に1個分の魔石の粉と少量の黒粉を入れて棒で丁寧に混ぜていく。どうやらムラが出てはいけないらしい。そして小袋に入れていく。


私は上手に出来たと思う。けれど、ファルスは違ったみたい。粉を混ぜ合わせた時にパンッっと何かが弾ける音がして眩しい光と共に粉が無くなっていた。


「ファルス、大丈夫?」


私はびっくりしてファルスに聞くが、ファルスも突然の事で驚いた様子。


「せ、先生。俺の粉が無くなった!」


器を見てファルスは焦ったように言っている。


「ファルス君、これは魔力の触媒と言ったよね?魔力を込めてしまうと今のように暴発してしまうんだ。常に魔力を洩れさせないようにコントロールする。ファルスにはいい勉強になっただろう?」


確かにファルスは魔力の扱いは格段に良くなったけど、それでも私がずっと行っていたような鍛錬はしていないので無意識の間に魔力は漏れ出ているみたい。私は自分の魔力の事はわかるけれど、他の人の魔力はやはり分からない。

 ファルスはこういう所が雑なのは知っているので驚きはしないかな。ファルスは口を尖らせているけれど、理解はしているようでぶーぶー言いながらもまたテーブルの上に置かれている魔石を手にする。


「先生、出来ましたわ」


私は小袋を先生に見せる。先生はフムフムと小袋の中身を確認しながら言った。


「マーロア、上手に出来ている。魔力のコントロールを昔から行っていただけあるな。錬金術師に向いているかもな」


 レコも普段から作っているらしい初級の魔道具なのでお世辞なのは分かるけれど、褒められると嬉しい。それに錬金術なんて考えた事もなかったし、会ったこともなかったのでちょっと目指してみたくなったわ。


ちなみに道具屋のおじさんは道具屋のおじさんなの。魔石を利用した生活用具を主に売っていて私の中では錬金術師という括りでは無かったのでノーカンね。


「じゃぁ、マーロアはあと10個程小袋を作って」

「わかりましたわ」


 私は先生に言われるまま先ほどと同じ手順で小袋に詰めていく。難なく作ることができたわ。ファルスはというと、かなり下手なようで2つに1つは爆発させている。本人曰くかなり集中しないと魔力が伝わってしまうらしい。


 そうして20個ほど作った。私達は作った小袋を持って先生の指示で庭に出た。


「ファルス、マーロア。さっき作った小袋の使い方は分かっているよね?投げる時に魔力を通し、相手にぶつかる衝撃で軽い爆発音と共に光を出す。目くらましに使える」


「先生、ライト魔法じゃ駄目なの?」


「普段ならそれで十分だ。だが、いざとなった時に使うんだ。君たちはまだ魔力が少ないファイアボールをよく使うよね?使用する魔力は2ぐらいだとするとこの小袋は魔力の使用は1だ。

魔法が使えなくなった時の逃走用に使う事が多いんだ。音と光で怯んだ隙に逃げる。まぁ、ローンダイルのように光に弱い敵にぶつけて混乱させた後、攻撃するという方法もある。それにライト魔法は遠距離では使えないが、この小袋は遠くまで投げる事が出来るから気を逸らせるのに丁度いい。

あと、今回は一般的な黒粉を使ったが、これは爆発音を出すためだ。植物の粉や魔物の素材を使うと爆発音の代わりに匂いや植物成分を撒く事が出来る。

臭覚を効かなくさせたり、視覚をなくさせたりとまぁ使い方は色々ある。とりあえず今日は逃げるための方法だ。しっかりと使い方も覚えておくように」

「「はい!」」


 私とファルスは用意した小袋を1つずつ持つ。投げる瞬間に魔力を込めて遠くへ投げる。袋は地面に当たった時にパンッと音と共に光が弾けたわ。ファルスが作っている時に魔力だけで爆発していると思っていたけれど、少し衝撃も加える必要があるようだ。


「先生、上手くいきました」

「うんうん。しっかりと目標物に向かって投げられるように普段も練習する事だ。それと1つは身に付けておくといい。マーロアはそのままで大丈夫だろうが、ファルスは袋を2重にして持っておくように」


 そうして今日の錬金術の勉強は終わった。先生は部屋に戻ってから私達に錬金術の本を用意してくれたわ。ファルスは興味無さそうに見ていたけれど、私は何度も読み返す程面白かった。


 私の夢は冒険者になる事だけれど、錬金で自分の身の回りの物を揃えてみたいと思ったわ。剣の強化だって面白そう。でも、本を読んで思ったけれど、錬金をするには様々な素材が必要なのね。

 村周辺にはいない魔物の素材だったり、植物だったりとお金が掛かりそう。先生は学院の勉強を終えた頃に錬金術の入門を教えたのは騎士科には錬金術の授業は無いし、魔力の扱いが難しいかららしい。


 貴族は魔法を使えるので何でも魔法優先になる。平民や私のように魔力が無いとされる人は魔道具を利用するので自然に庶民の生活にあった道具にターゲットを絞る事になるので儲からない。だから人気がないという感じ。

でも、冒険者にとっては切っても切れない錬金だそうで最低限の知識は付けておくのに越したことはないらしい。


 先生から頂いた本は初心者のための錬金本のようなので学院内にある図書館という本が沢山あるところで読めるといいな。

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