第10話
町のギルドに戻り、受付にさっさと依頼達成報告をしたわ。ボア二頭はそのまま納品し、一番小さな個体は村のお土産にする事にした。ボアは偶に村を襲撃してくるけれど、ボアを飼い始めてから村を襲う魔物はなくなったの。
私達の知らない所で牽制しているのかしら?とはいえ、偶に村の付近は荒らされているので狩るのだけど。
ボアは同じ種類のボアや他の魔獣が倒されて村に運ばれてもあまり気にしてはいない。
むしろ魔獣が視界に入ると猛ダッシュで魔獣にぶつかったり、踏みつけて人を守ろうとさえしている。健気で名前を付けてあげようかと思ってしまうわ。でも、ボアのまま過ごしているので名前もボアでいいのかもしれない。紛らわしいと思うけどね。
馬車に揺られて帰宅後、レコは肉屋に行って持って帰ってきたボアを解体してもらう。村では久々のボア肉なのでみんな喜んでくれると思う。レコは家で食べる分だけ肉を持って帰ってきたのでビオレタが腕を振るってくれた。
夕食はとっても美味しい煮込み料理だったの。ビオレタの料理はいつも美味しいわ。母の味というのはビオレタの料理なのだと思う。翌日は家でダンスや座学の復習をしたわ。
忘れないために必要な事よね。その次の日はボアと追いかけごっこをし、その後は魔法の訓練。
学院へ入学すると騎士科でも私は魔力がないことになっているので魔法学の実技はないらしい。座学があるのは対人戦の時に対処法を学ぶということであるみたい。
「では、ユベールいってきます」
今日はギルドでランク上げ。また馬車に乗って隣町まで出掛けていく。今日の討伐依頼はCランクのフォレストベア一頭のようだ。今日は南側の森に生息する熊。狂暴で体も大きい。
この熊のやっかいな所はキラービーの巣の近くにいる事だろう。単体での狂暴さはキングボアとそう変わらないのだが、キラービーの巣を壊して食べている事が多く、蜂に攻撃されてしまうのだ。
故にランクが他の物より高く設定されているらしい。因みに私とファルスだけではランクが足りずに受ける事の出来ない依頼。
私達は森の中に入ってフォレストベアを探し始める。
「ファルス、フォレストベアってまだ戦った事がないわよね。どんなのか知っているかしら?」
「俺、見たことがあるぞ。遠くからだけど。強そうだったからすぐ逃げ帰ったよ。今なら倒せそうな気がする」
「本当かしら?どちらが先に見つけるか競争よ」
「おう!」
私はそう言って先にキラービーを探すことにした。キラービーが居れば近くにいることが多いしね。
私は木の洞がある所を探していると、ファルスが声を上げた。
「ロア!見つけた!早く来てくれ」
なんだかファルスは焦っているような声だった。私は急いでファルスの元に向かうと、そこには見たことのない大きさのフォレストベアが、
__人を襲っていた。
マズイわ助けなきゃ。
「先生、人が襲われているわ!」
私はそう叫ぶと道具を取り出す。持っていたのは癇癪玉。相手にぶつけると音と共に唐辛子の粉が広がり、相手が怯む。その間に攻撃したり、逃げたりするの。私たちは一人一つ、何かあった時の為に逃走用として持っている。これは冒険者なら装備している物だと先生から習ったわ。
私は癇癪玉をフォレストベアの顔めがけて投げつける。
パンッ!!と弾ける音と共に赤い粉が舞った。フォレストベアはたまらず人を襲うのを止めて目に入った粉を払う仕草をしている。ファルスはその間に襲われた人を引っ張りフォレストベアから距離を取った。
「大丈夫だ。まだ息がある!」
ファルスがそう叫ぶとレコと先生はファルスの前に立つ。
「これは危険だ。ただでさえ狂暴なのに餌を取られた上、癇癪玉を投げられたからね。全員ですぐに対処する」
先生の指示が飛ぶ。私は最大限まで身体強化し、ファルスは剣に炎を纏わせて攻撃準備をする。
次の瞬間、フォレストベアはグォォォッと大声で叫びこちらに向かってきた。先生の目の前に来ると立ち上がり攻撃しようとしている。
ファルスは剣で右腕に切りかかり、私は飛び上がりフォレストベアの背後を取り、背後から心核を狙う。レコは足の腱を切る。先生は袈裟切りをし、フォレストベアは動かなくなった。
「倒した?」
「倒したね」
レコはそう言いながら血をふき取り鞘に剣を収めている。
「怪我人は?」
ファルスの問いに私達は怪我人の元に向かった。瀕死の状態なのだろう。怪我人は血まみれで動いている様子はないが辛うじて息はしている状態だった。
すぐに先生は【ヒール】を唱える。かなりの重症だったようでヒールの光が消えるまでに五分位かかったわ。
「アレン先生どうしましょう?」
「二人で怪我人を運んで。怪我を治したとはいえ失血も酷く、意識はないから気を付けて」
私は【清浄】を唱え、体を綺麗にしたわ。どうやら若い男の人のようだ。冒険者のような身なりをしているからきっとここには依頼できたのかしら。そう考えつつもファルスと二人で意識のない男の人を抱えて町に戻った。
倒したフォレストベアはレコが引きずって歩いてきた。受付の人が私達が背負っていた男の人を見るなりギルド内にある医務室らしき部屋へと案内し、そこのベッドへ運ぶように指示してきた。
「ありがとうございます。彼は依頼で南の森に入っていたんですが、予定時刻になっても戻って来なかったので心配していたんです。おまけに治療まで施してもらって、助かりました」
先生は淡々と男の人が襲われていた状況を説明し終わると、『私たちはこれで』と部屋を出てきた。
あまり他の冒険者の依頼は深く聞いてはいけないのかしら?
「アレン先生私達はもう帰っていいのですか?」
「ああ、大丈夫だ。何かあればギルドで対応するだろう。後日お礼が振り込まれているかもね」
そうして私達は何も言わず今回の討伐依頼の報酬を貰って家に帰った。夕食時に話をしてみる。
「それにしてもあの人大丈夫だったのかしら?村で怪我人が出ることは偶にありましたが、あそこまで酷い怪我では無かったので彼を見た時に心臓が止まりそうになったわ」
「俺も驚いたよ。何かの塊を一生懸命攻撃しているなって思ったんだよね。でも無事で良かったよ。みんながいなかったら俺絶対パニックになっていた自信がある」
「こら、二人とも食事中だ。冒険者になったらいつでも、誰でもああなる可能性があるんだ。それ以上言っては駄目だぞ」
「「はぁい」」
「さあ、スープが冷めますよ」
ビオレタは優しく話を変えてくれる。私はそのまま疲れもあってご飯を食べた後そのままベッドにダイブしていつの間にか眠ってしまった。
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