第9話
翌日の午前中は変わらず座学、午後から実技だった。そしてレコは朝食後からフラリと何処かへ出掛けていたと思っていたけれど、森で小さなボアを捕まえていたらしい。抱えて帰ってきた。
「さて、実技に入りますよ。ファルスは今から夕食までの間、ボアと追いかけごっこをしてもらいます。マーロアはこの剣で村の外にいるニワトリ型魔獣を退治してもらいます。折ったら晩御飯は無いですよ。では始めましょう」
レヴァイン先生はそう言うと、レコがボアを放す。村には魔獣が入ってこられないように魔物避けの柵で囲われているので外からは多分入ってこないし、内側でボアが逃げることも出来ない。
ファルスは文句を言いながらひたすらボアを追いかける事になった。
そして私はレヴァイン先生からレイピアのようなフェイシングの剣に近い細い剣が渡された。こんなに細い剣で首は切り落とせないわ。
それに切り方を工夫しなければ折れてしまう。仕方がない。心臓や頭を突くか動きを止めるために弱点を探すしかない。
先生はニワトリ型だって言っていたし、そう難しくはないわ。そう思って私は村の外に出る。近くの森の入り口に住処があるので私はそこへ向かった。
……いたわ。
私は早速細い剣を鞘から取り出し、小型の魔獣に向かって剣を向ける。今まで剣の型は体で覚える程しっかり鍛錬してきたけれど、剣については考えていなかった。技術ってやはり大事なのね。魔獣はなかなか倒す事が出来なかった。
一思いに切り殺す事が出来ない。急所を狙い、何度も刺す羽目になってしまったわ。当然魔獣は手負いになり狂暴化して私に攻撃を仕掛けてきていつもより時間の掛かる討伐だった。ボロボロになったニワトリ型魔獣。これでは美味しくは無いわ。がっかりしながらも縄で体を縛り、家に持って帰ってきた。
「レヴァイン先生、倒してきました」
レヴァイン先生はボロボロの魔獣を見てニコリと私に笑顔を向けた。
「剣は折れなかったようだね。まぁ、良しとするか」
私はなんとなくだけれど先生が課題として出した意味が薄っすらと分かった気がした。けれど、それを身につけるのにはかなりの神経が必要だわ。
その日以降の訓練で私は魔獣を切り付けた時に切り方や力の方向、スピードを考えるようになった。
ファルスは最初の間は追いかけられるばかりだったけれど、慣れてきたのか追いかけごっこやボアに飛び乗ってみせる余裕が出てきたと思う。私達二人ともその練習を二週間毎に交換して行うようになった。
最初はレコに抱えられていたボアも日を追うごとに大きな獣になった。ボアも私達に慣れて普段は村の中を駆け回ったり、広場で日向ぼっこをしてのんびり過ごしている。偶に村の人からリボンを付けてもらったり、してオシャレを楽しんだり、果物を貰って喜びの鼻息を荒くしながら頬ずりしてくれるらしい。村のペットとして今ではマスコットのような存在になっているわ。
そうして鍛錬と偶にギルドの討伐依頼をこなす事を続けていく事一年半。半年後に私は王都へ戻らなければならない。
私達はいつものように部屋で勉強している最中に突然レヴァイン先生が改まったように私達に向き直って話を始めた。
「さて、君たちと共に暮らしてはや二年半。座学も学院卒業分までは終えたわけだ。二人とも学院ではどのコースを選択するんだ?」
「俺はもちろん騎士科だよ。やっぱり騎士に憧れているんだ」
ファルスは即答だった。悩む間でもなかったみたい。
「私は、私も騎士科に入ります。将来は冒険者になりたいです。卒業したら貴族籍を抜けようと考えていますわ」
いつもビオレタが淑女らしくと言っていたけれど、性に合わないと思うの。淑女コースを選んだ所で魔力無しの女なんてどこの家からも喜ばれないわ。大体にして今のこの歳で婚約者がいない私は既に訳アリとされているに違いない。
行かず後家になること間違いなし。それか歳の離れた貴族の後妻行き。つまらない人生を迎えたくないの。
「そうか。なら二人とも騎士科に行けるように私から推薦を出しておこう」
「「先生、本当!?やった!」」
「では残りの半年は冒険者のランクを上げるように討伐に出掛ける」
「「はい!!」」
私達はいつものように隣町のギルドへとやってきた。一年半前までは基礎から毛が生えた程度だったと今では思う。私もファルスも頑張ってきたの。これからどんどんランクを上げていくわ。
今日も四人で来たギルド。先生は依頼書を選んで受付に渡す。
「ポイントを稼ぐ為に今日はDランクのビックボアを二頭の討伐だ。今のファルスとロアなら十分倒せるだろう」
……ビックボアか。
村にいるボアよりも数倍大きな魔獣。やや攻撃的で突進してくる。私たちは町の東側の草原を抜け森に入った。ビックボアは大きいので森では見つけやすいはずなんだけど。暫く私達はビックボアを探すことになった。
私はみんなと少し離れた所で地面を見ながら歩いている。足跡やフンなど手がかりを探すために。すると大きな足跡を見つけた。
きっとこれだわ。
早速足跡の向かっている方向に歩いていくとすぐに足跡の主が見つかった。しかも三頭もいるわ。ボアよりは大きいけれど、ビックボアと呼ばれるには少し小さな個体がニ頭。一頭は立派なビックボア。
さぁ、どうしたものかしらと考える。一人で三頭を相手にするのは骨が折れるわ。これは平原におびき寄せて四人で戦う事がベストだと思うわ。
私はその場で大きな声を出し、他の三人に知らせる。そしてビックボア達に【ファイアボール】をぶつけて蛇行しながら草原へ走った。
まっすぐ走るとすぐに追いつかれてしまうからね。
ビックボアは驚くほどのスピードで突進してくる。ボアと追いかけごっこをしていたから避け方もちゃんと覚えている。なんとか平原まで走ってきた。先生もレコもファルスもしっかり声を聞いてくれていたようで彼等も平原へと出てきた。
「これは立派なビックボアだ。倒し甲斐があるね。ファルス、一頭頑張ってみて。ロアは一番大きなやつね」
先生はそう指示を出すと残りの一頭を剣で切り付けあっさりと倒してしまった。私はビックボアが突進してきたので素早く左に避け、足を剣で切り付ける。
流れ出す血と共にドスンと倒れた。腱が切れたようだ。前足を切ったので上手く起き上がる事が出来ずにドタドタと起き上がろうともがいている間に私はビックボアに止めを刺した。ファルスはというと、飛び上がり突進してくるボアの上から剣で刺し倒していた。
「二人ともお見事。よくやった。今日は合格だ」
先生もレコも手を叩いて褒めてくれたわ。ちょっと気恥ずかしい。
「この調子でランク上げをしていくよ」
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