第6話

 どこから取り寄せたのだろうか本を沢山抱えて部屋に入ってきたレヴァイン先生はドンッと本をテーブルの上に置いた。

初日の今日はこれから始める講義の説明を聞いた後、レヴァイン先生の講義が始まったわ。私達の語学力は……悲惨だったのは言うまでもない。昼食を挟んで午後からは実技に入る事になった。


「まず、体力を付ける事からだ。お前達は体力がある方だが、体力はいくらあってもいいくらいだ。まず走れ」


 そうして庭の周りを走ること一時間。流石に疲れたわ。けれどそこから剣の型の練習。本当に基礎の基礎。

ただ、レコがずっと教えてくれていたからなんとか様になっているけれど、ファルスは雑に覚えていたようで先生からみっちりと指導が入る。レコより厳しい指導だわ。


実技については魔法も同じだった。


 まず基礎が一番大事だという事で魔力循環を常に行う練習。これについて私は幼い頃からずっと行っているので勿論クリア。ファルスは殆どやってこなかったのでかなり手こずっているみたい。

魔力量が増えると使える魔法も多くなると言われて頑張っているわ。

 先生に前から思っていた事を聞いてみた。私の魔力量はやはり他の貴族に比べて少ないみたい。幼い頃から増やすために頑張ったけれど、他人から言われるとやはりショックよね。けれど魔力無しと思っていた頃に比べればかなり嬉しい。

ファルスはというと、多い方なのだとか。それとなくは分かっていたんだけれどね。



 そうしてレヴァイン先生指導の下、半年ほど座学や実技の基礎をみっちりとやっていった。


心配していた座学の方はなんとか順調に進んでいる。ただ、覚える事が多くて私もファルスも宿題として寝る前に本を読む事が日課になっているわ。

 ファルスは座学がとても苦手なんだけど、ビオレタに『一使用人でしかないお前が学院へ進むための勉強を出来るのだからしっかりとやりなさい』と常日頃言われていたのだけれど、本人も成長して自覚が出てきたようで今は苦手なりにも頑張っているのよね。


 実技は私よりファルスが圧倒的に成績が良かった。ファルスは剣術や魔法を感覚で覚えていくスタイルのようだ。使用する魔法の種類が大幅に増えたけれど、得意としている魔法は攻撃魔法なのよね。


 私はというと、剣術はそこそこだと思う。魔法はどの属性魔法も満遍なく使えるけれど、魔力量が少ないので大がかりな魔法を使えない代わりに初級魔法の精度を高めていくように変更を余儀なくされたわ。


ファルスがちょっと羨ましい。


 そして実技にダンスが入ってきた。先生に教わりつつ頑張るも二人ともギャーギャー言いながら足の踏み合いね。これには流石の先生も苦笑い。

 実は我が家にはピアノが無いのでダンスをするか困っていたんだけれど、ユベールは倉庫に眠っていた楽器を引っ張り出し、弾いてくれる事になったの。流石家令。


 ダンスの時間になるとビオレタはそっと座ってユベールが曲を弾き、先生が指導して私とファルスが足の踏み合い。よくファルスと喧嘩になるけど、家族で楽しむ時間みたいで私はこの時間が大好きなの。多分ファルスもそう思っているわ。


なんだかんだでみんな笑顔だもの。




 そうしてまた一年が過ぎた頃、レヴァイン先生が『そろそろ実践に入ります!』と宣言したの。

もちろん私もファルスも『え?』っとなり、よくわかっていなかった。



 ユベールとビオレタには事前に話をしていたようで私たちは朝早めに外へ出る準備をして村の乗合い馬車に乗り込んだ。


「先生、馬車に乗ったけれど、何処へ行くのですか?」


目的地を知らないまま馬車に乗り込んだ私達。初めての馬車という事もあって落ち着きなくソワソワとなっているのは仕方がないわよね。あー、王都から村に来た時に乗ったのは数に入れないでね。


「あぁ、二人ともその表情、いいね。隣町のギルドへ向かっているんだよ。君たちも十二歳になったからギルドカードを発行してもらうんだよ」


!!


驚きと興奮で二人とも大きく目を開く。


「本当!?俺、ギルドカード欲しい」

「私もです!欲しいわ」


 そこから私たちのテンションはMax!おしゃべりが止まらなかった。レヴァイン先生はやれやれといいながらも私たちの話を聞いてくれている。


「そうだ、お前達。ギルドに登録する前に話しておくが、お前たちの職業は剣士だぞ、いいか?特にマーロアは分かっているな」


 私もファルスも黙って頷く。因みに剣士は字の如く剣を使って魔獣を討伐する人。魔術師は魔術をメインにする人。魔道士というのが偶にいる。この人達は攻撃魔法のみを使う人だ。治癒士は回復魔法のみを得意とする人の事。魔導士も治癒士も数はとっても少ないらしい。使える魔法は個人差が多くて区分も曖昧になっている。つまり、その辺は自分が名乗りたいように名乗っているのかもしれない。


他にも職業はあるのだがここでは割愛させてもらうわ。


「あと、名前も本名は使わなくてもいい。貴族は別の名を使った人の方が多いだろうな」

「先生、それはなんで?」

「平民は騎士や兵士として王都で働く時に冒険者のランクが高ければ採用されやすいからそのまま名前を使うのが殆どだが、貴族は冒険者であると嫌われるんだ。王都では騎士のような志の高い職業が尊ばれるんだ。

冒険者には平民も多いから同じように扱われるのを嫌うという理由かもしれないけれどね。貴族や騎士の中にも腕試しや私のように趣味で魔獣を狩る場合は別の名でギルドカードを取るんだ。ギルドでは私の事をアレンと呼ぶように」

「はーい。なんだか面倒なんだな、貴族って」




そうして馬車に揺られること三十分。


隣町のギルドへとやってきた。


 レヴァイン先生の後ろで待機していると、先生は受付の人と話をしたあと、ファルスを先に呼んだ。


「君、名前は?」

「ファルスです」

「職業は何にするか決めている?」

「俺は剣士としてやっていきます」

「魔法は使えるの?」

「少しだけ使えますが攻撃魔法で治癒は苦手です」

「分かった。じゃぁこの水晶に手を乗せて。魔力の登録を行うから」

「魔力の登録?」

「あぁ。カードに君の魔力を登録しておけば無くしてもまた発行出来るからね。討伐も自動でカードがカウントしてCランクまでは勝手に上がっていく」

「Cランクまで?」

「ああ、Cランクまでだ。ポイントの低いゴブリンを1万匹倒してポイントを稼いでもビッグボアを1匹も倒せないと冒険者としては初級だからな。Cランクからは倒す敵も変わってくる」

「そうなんですね。わかりました」


 ファルスは受付の人と話し終えると水晶に手を翳す。すると水晶がホワッと光った。受付の人はお待たせしました、と水晶の下に設置してある台からカードが取り出した。


「完了した。無くさないようにいつもネックレスなどにして首に下げておくといいよ。次、お嬢ちゃんおいで」


 受付の人はそう言って私を手招きして呼ぶ。私はドキドキしながら受付の人の質問を待った。もちろん魔力は村に着いてからずっと隠している。


「名前は?」

「ロア」

「職業は何にするの?」

「剣士でお願いします」

「女の子で剣士って珍しいね。魔法は使えるの?」

「魔力は持っていません」

「そうか。じゃぁ、カードを作るから。君は魔力無しだからこっちの石板に手を置いて」


私は言われるがまま石板に手を翳す。すると受付の人が何やら呪文を唱えて始めたわ。石板が一瞬暖かく感じたような気がしたと思っていたらそれで終わったらしい。


「終わりだよ。カードをどうぞ」

「今のは?ファルスと違ったのね」

「あぁ、彼は自分の魔力の形で個人を登録したけど、君にはこちらから魔力を通して君個人の形を登録したんだ。魔力の無い人用の方法さ」


そんなことが出来るなんて凄いわとちょっと感動したわ。


「さぁ、登録も済んだし依頼を受けるよ」

「はーい。アレン先生」


 私たちは先生に連れられて隣にある大きな掲示板を覗いた。様々な依頼が張り出されていて上の方を見るとAランカー求む!みたいな紙が見える。私たちは一番下のランクFという所だった。


「薬草と毒消しの採取、ゴブリン退治でさっさとEランクになるよ」


そう言って先生は3枚の依頼書を受付に渡して依頼を受ける。


どうやら初心者用の一番始めの依頼なので普通ならCランク以上の冒険者かギルド員が付いて説明しながらやっていくらしい。私達の場合は先生が教えてくれるのでギルド員が付くことはない様子。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る