第5話
私は部屋でビオレタの説教の後、出された課題を渋々解いていると、レコ達が帰ってきのみたい。だけど、何かいつもと違った感じがしたの。リビングへと向かおうと扉を開けた時、誰かの声が聞こえてきた。
どうやら客人だったみたい。
私が出ても邪魔にしかならないわね。
そっと扉を閉めてまた課題に取り組もうとしていたけれど、ファルスが私を呼びに来た。
「マーロア、お客さんだよ。さっきの兄ちゃんがマーロアに用があるんだってさ」
「ふうん。分かったわ。今行くわ」
私はファルスと共に応接室へと向かった。応接室にはきちんとお客さん用のソファが置かれてある。勿論客室も三部屋ある。私の住んでいる家は貴族の邸宅とはかけ離れているけれど、村では一番大きいのよね。
住んでいるのは5人だけれど。
「アシュル様、先ほどぶりですね」
私は部屋に入ってアシュル様の向かいのソファへと座る。ファルスは普段兄妹のようにしているけれど、区分としては使用人の身分になるのでお客さんがいる時は知り合いであろうとも部屋には入ってこない。その辺はファルスもしっかりと自覚しているらしい。
ビオレタがアシュル様と私にお茶を淹れてくれる。
「マーロア、君はエフセエ侯爵令嬢だったんだね。村の人に聞いてびっくりだったよ」
「……アシュル様はどういったご用件で我が家をお訪ねになったのですか?」
私はお茶を飲みながら単刀直入に聞く事にした。確か、貴族名鑑に書いてあったと思ったわ。アシュル家と言えば、うちと同じ侯爵家だったはず。貴族で冒険者って変わった人なのね。
「あぁ、君の事を知りたくなってしまってね」
「私の事、ですか?」
「単刀直入に聞くけど、君、魔力を持っているのに何故使わないんだい?」
どうしよう。ビオレタに視線を向け、指示を出す。
「ビオレタ、ユベールを呼んで頂戴」
「畏まりました」
「アシュル様、私はまだ子供ですので家令のユベールを同席させますね」
「あぁ、構わない」
そうしてユベールはすぐに応接室へと入ってきた。
「お待たせしました。お嬢様、どういったご用件でしょうか」
「ユベール、アシュル様は私が魔力を持っている事に気づいてしまったの。どうしようかしら?」
「……左様でございましたか。お嬢様のお考え通りで大丈夫だと思います」
ユベールはそう言って微笑む。私は初めて魔力があると見破られてドキドキが止まらなかった。黙っていた事がまるで罪に感じて心がずしりと重くなった気がした。
「アシュル様、この事は誰にも言わないで下さい」
「ええ。勿論です」
「私はエフセエ侯爵の長女として生まれたのですが、神殿で行われた魔力判定で私は魔力無しと判定されましたの。
魔力無しとして親と離れて領地の端のこの村で静かに過ごしておりました。5歳頃だったかしら。村のすぐ傍に魔獣が出没し、魔獣に追いかけられた時に初めて自分に魔力があることに気づきましたの。それだけですわ」
「じゃあ、何故魔力がある事を隠しているんだい?魔力があれば王都の家に帰れるだろう?」
アシュル様は素直に疑問をぶつけてきた。
「何故?私は一歳にもならない頃からこの村で育ちましたわ。父も母も一度もこの村に、私に会いに、来た事はないのです。今更魔力があったからと王都へ戻っても離れて育った家族と上手く過ごせませんわ。
それに王都にある邸には既に妹も弟も居るようですし、私が一人いなくても問題はありませんの。家族にとって私は魔力無しの不用品。それに神父さまから魔力判定時に魔力無しと判定されたのは何か神様の思し召しだろう、皆に黙っているように、と言われておりますの」
「ふぅん、そっか。君の家の事情も絡んでいたんだね。あぁ、それともう一つ。君は身体強化を使えるよね?それに魔力隠ぺいもかなり上手だ。普段から使っているのかな?」
「教会でずっと練習しておりますわ。この村に住むにはやはり魔力があった方が良いですもの。ですが、私は基礎的な身体強化や魔力の隠ぺいのみ。ファルスは初期の攻撃魔法しか使えません」
アシュル様は良い考えが浮かんだとでもいうようなとてもよい顔になっている。私は何を言われるのだろうと身構えた。
「マーロア嬢、君は面白い。一般の貴族令嬢とは違う。君、確か今十一歳だっけ?十四歳で学院に入らなければならないんだろう?あと三年を私にくれないかな?」
「三年をどうするのです?」
「君といい、ファルス君といい普通はその歳でビッグベアを倒す事は出来る事じゃない。とても筋がいい。将来は何になりたいか考えているのかい?」
「ファルスはきっと騎士でしょうね。私は貴族ですが、魔力無しと結婚する貴族はいないと聞きますし、冒険者にでもなって世界を巡り歩いてみたいと考えています」
「ほらっ、やはり私が居ればもっと伸びる。魔法の使い方も教えよう。学院へ行く前に勉強だってしないといけないしな」
「……ですって。ユベール、どうしましょう?」
「アシュル侯爵子息様、お願いできますでしょうか?」
てっきりユベールは断ると思っていたけれど、あっさりと承諾した。
「ユベールは良いと思うの?」
「えぇ。このような片田舎では満足な勉強は出来ないですから。それにマーロアお嬢様がこの先訪れるであろう苦難に対して私達では何もしてあげる事が出来ないのです。お嬢様自身が生き抜く術をより多く身につけて欲しいと思っております」
「じゃあ話は早いな。私は今日からここに家庭教師として住む。明日から勉強を始めよう。もちろん給料はしっかり頂くからな」
トントン拍子で決まった感じ。
というか、アシェル様は高ランクの冒険者だし、貴族だし、色々と忙しいんじゃないのかな?私の疑問は見透かされたようにアシェル様が答える。
「なんで私がマーロアの家庭教師に名乗りを挙げたのかって?まぁ、つまり、君に関わると何か面白い事を起こしてくれそうだからな。
君が学院を卒業した時に一緒に冒険者として色んな地域に出かけるのも楽しそうだ。そうそう、アシェル家は親族を含めて沢山いるから今からレヴァイン先生と呼ぶように」
「分かりましたわ。レヴァイン先生」
そうして翌日から私とファルスはレヴァイン先生の授業を受ける事になった。
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