魔法少女少年の個性バグりすぎてハゲそうなんだけど、死ぬ3



「お前、どこ行てたんや」


 部屋から出て1階に降りると丁度兄貴が廊下に居た。鬼の形相をしたクソ兄貴は私を見るなり顔を真っ赤にさせて怒鳴りつけてくる。

 聞きなれた低い不機嫌な声に気持ち悪さと寒気がしてきたけどいるだけで体調不良を起こす存在ってヤバすぎると思う、疫病神ってあだ名がピッタリだわ。


「上におっただけなんやけど。なんや、私がどこ行こうが私の勝手やろ」


 いつもだったらさっさと会話を終わらせるためにコイツが満足するような言葉を言うけど魔法少女とやらになった今、少し強めでいく。今までの私とは違うからな、かかってこいクソ野郎。

 今まではチビでなかなか対抗できなかったが今の私は強い、強いから覚悟しな。


「あ?なんやその態度。それが兄に対しての態度か、ああぁ?テメェ舐めてんじゃねぇぞこら」


 いつの時代の不良だコイツは……こんな言葉滅多に聞かないぞ、ダサイって気が付かないのかコイツ。あまり煽りすぎたら何をするか分からないので黙って私は兄貴を睨む。まぁ私のおめめは何をしてなくても睨んでるように見えるおめめなんですけど。

 睨む私にクソ兄貴はノロノロと近づいてきて私の胸ぐらを掴む。身長が低いせいで簡単に地面から足がさよならグッバイしてプラーンと宙ぶらりん状態に。コイツはガタイが良くてタッパも力もあるから私はされるがまま。


「おい、なんか言えやチビッ!」

「なんよ、クソ兄貴」


 お望み通りになんか言ってやった。

 なんか言ったからいいだろ、希望通りに喋りましたけど……まって、これどっかの黒い治安の悪いヤツと同じようなことしてる気がする。ま、いっか。


「テメェ兄に向かって舐めてんのかコラッッ!」


 言われた通りになんか喋ったら怒鳴られた、これはぴえんだ。お前が喋れよって言ったから言葉を発したのに……理不尽だ!

 舐めるなんて汚いからするわけないじゃん、きゃはとか言ってやりたいけど心の中でキープした。あんまりやりすぎると警察が来ちまう、迷惑な住民が通報するんだよね。

 警察が来ても何も変わらないっていい加減気づいて欲しいんだけどさ。


「気持ち悪いし邪魔くさいしお前みたいなクソガキ早く死ねやウザったい」

「アンタもおなじやろ」

「あぁ!?何が同じや!馬鹿でクソみたいなお前がおって何になるんやし!」


 小学生レベルの罵詈雑言、コイツも不登校族だったから学力はほとんどない……言葉の暴力は弱いからまだ大丈夫。

 何を言われても無言で睨みつけてたら体を壁へ放り投げられた、壁に当たる衝撃に備えて目をギュッと閉じたけど痛みを感じることなく、ただ壁に当たった軽い感触だけを感じた。いつも壁に投げつけられたら息ができないほど痛い。痛いはずなのに、息が詰まるはずなのに何故か痛みや苦しさを

 おぉ……という事はやっぱり魔法少女というものになったおかげか!!

 ここにクソ兄貴がいなかったら全力で勝利の雄叫びを上げたいところだけど兄貴がいるからそれはできない。さっさと自分の部屋に戻ってくれればいいんだけど兄貴が怒り散らしている時はなかなか部屋に戻らないから厄介だ。

 まぁとりあえず昨日魔法少女になって良かった、これで兄貴からの痛みから開放されるし嫌なことが少しだけ軽くなった。魔法少女バンザイ!魔法少女バンザイ!


「なにヘラヘラしてんやクソガキがよ」

「別にヘラヘラしとらんし……」

「ヘラヘラしとるわ!どうせお前も俺のことキモイとかキチガイとか低脳だとか思ってんだろ、そうだ、思ってんだろ!?」


 はい、思ってますと率直に教えたらやばい事になるので「思ってない」という言葉を言って首を振る。


「嘘つくんじゃねぇよ!!思ってんだろ、言えや!!」

「思ってな___いたッ!!」


 腹を蹴られて思わず痛いと口にしてしまったけど体に蹴られた時の痛みはなく、ただ腹に軽い何かが衝突してきたぐらいの感触。

 あまりにも不思議な感覚に少し気持ち悪さを感じたけど素晴らしい体質を手に入れてしまったと全身が喜びに震える。震えてる私を見て兄貴は痛がっていると思ってケラケラと笑って暴言を吐きながボールのように私を蹴り始めた。

 私の役は今現在ボール……いや、サンドバッグ。私よ、何も考えずにサンドバッグになれ、無に帰るんだ私。母なる大地に生まれしサンドバッグだ、いいか、無に帰すんだ。


「まじで気持ち悪い、なんでお前が産まれたんやし……意味わからんわ」


 その言葉、そっくりそのままお返しいたしますわ害虫が。


「早く死ねや、目障りなんよ。生きる価値あるか?あぁ?」


 足が容赦なく私の頬に直撃する、けど痛みはやって来ない。本当に魔法少女特典があるとは思わなかったな、こんなに綺麗に痛みが消えるとは。


「テメェさっきから無視しやがって、どこおったかさっさ言えやゴミッ!!」


 急に話が戻るやん、と思わずツッコミそうになったけどグッと耐える。


「アンタに関係ないやろ。いちいちうっさい、彼氏かよ。あ、メンヘラ彼氏ってやつ?マジキモイきやめてもろて、しつこい男は嫌われるでー?」


 痛みを感じることはない私は最強だ、魔法少女特典できっと傷も治ってるだろう……知らんけど。高血圧でそのまま死ねば万々歳だから早くクソ兄貴の頭の血管とか首の血管とかどこでもいいからプチンと逝ってくれないだろうか?


「クソガキ!殺ろしちゃる、絶対お前殺すわ!」

「おーおやれるもんならどーぞ?私がアンタ殺しても文句なしやで?」


 殺す発言しててもまだ殺されたことがないから多分……多分大丈夫。一応クソ兄貴は成人してる、マジでこんな人格異常者が平気で野放しされてるなんて考えたら恐怖でしかないでしょ。ご本人様は中学生相手に喚き散らして暴力振って自分をおかしいと思ってない……父親は私たち兄妹を放って女のとこかパチンコで遊んでる。


「なんでババアのとこついて行かんかったんよ、てめぇのせいで俺の人生台無しなんやわ!!」


 おうおうお前が言うか、お前が。

 アンタのせいで周りから変な目で見られて変なウワサ流されて避けられて陰口叩かれて学校行きずらくなったんやけど??と心の中の指を立てる。

 神はなんて不平等なんだ……というか面倒見ないなら、責任もって最後まで育てる気がないなら産むなって感じだわ。母親は兄貴が欲しいって言ったからクリスマスプレゼント感覚で作ったって離婚する前に言われた、ゴミ人間乙、髪の毛ハゲて苦しんで死ね。

 伸びきったギシギシの髪の毛を掴まれてリビングに引きずられる。皮から剥がれそうなんだけどマジで禿げたらどうすんだコラ。


「ゴミ!マジで死ね!お前なんか産まれてこんこんかったら良かったわ!!」


 親のセリフを代弁してくれる兄様なんて優しいのかしらぁ♡と手を叩きたい。兄様の鏡だよ、お前……ぶっ殺してやるはこっちのセリフだわ。

 更に小言を言われながら私はズルズルと引きずられ、外に投げ飛ばされる。


「家入ってくんなよゴミ」


 そう言ってカーテンをシャ!と閉めて姿が見えなくなり、平穏と平和が取り戻された___かと思えばまたシャ!っとカーテンが開いて兄貴が再びリングに登場した。

 再戦ですか、再戦始めるんですかコノヤロウと思った時には既に腹に太い足が命中して倉庫に体が吹っ飛んだ。

 確実に警察に普通突き出されるはずの状況だけど生憎警察はなにも動かない。一応何回かお世話(原因は兄だけど)になったけど今まで一度もコイツは少年院や刑務所にお世話になっていないから意味不明。この現状を知っているくせにアイツらみーんな何もしないからほんと仕事しろ!って感じだわ。

 面倒事が嫌いな人間たちの集まりですもんね!仕方ない!!


「いつもすぐ泣いてんのになんで泣かんのやし、気味悪。バケモンかよ」

「は、はぁ?普通に痛いわクソが。明日、用事あるき部屋戻りたいんやけど……」


 いつもと違う私に流石に気がついた様で兄貴は不振な顔をして私を睨む。

 怪我とか治ってるのか、と思って兄貴に蹴られた腹を見るため服をめくって確認したら綺麗な痣がこんにちはぁと顔を出した。

 痛みは無くても体は普通に怪我をするみたいで結構あちらこちらから血がチビチビ出ている、痛みは感じないけど体にダメージは入るのか……動かなくなったら大変だし私の逆襲を開始しよう。


「てめ、ヘラヘラしやがって、マジで死ねよ‼」


 兄貴の力任せな攻撃が飛んでくる。

 もう次殴られたら腹でも殴り返してやろう、そう思った矢先___


「いッ‼」


 全身が何度も殴られているような感覚が突如私を襲った。


「いだい、いてぇっ、なんや、なんやこれっ!!!」


 先ほどまで痛くなかったのに痛覚が戻った、それも今まで感じなかった分が全て。全て感じる。

 1発が入るとすぐにもう1発が顔に振り下ろされて痛みは更に増す。


「やめてっ、やめて!悪かった、悪かったき殴らんといてっ」


 痛みで頭がどうにかなりそう。

 昔から癖だった「ごめんなさい」や「すみませんでした」という謝罪の言葉を何度も何度も出る。もちろん兄は止まることなくて私を何度も何度も殴っては蹴って、蹴っては殴ってを繰り返す。


「ごめんなさぃ、ごめん…さい」


 体を丸めてなるべく内側を守るようにする、頭を殴られないように腕でガードして足は胴体に引っ付くようにたたみこんで殴られる部位を減らす。

 ごめんなさい、ごめんなさいと微塵も思ってもないけど早く終わりたいから何度も言葉を吐いた。

 殴りに殴られ数十分――


「このゴミ、殺人犯が処分してくれたらええのにな。ほんま邪魔くさいわ」


 そう言って兄貴は家の中に入っていった、何とか死なずに済んだけど痛みで動けない。産まれたての子鹿のようにプルプルしながら何とか立ったけど足を踏み出せない……。


「絶対殺しちゃる……絶対っ」


 負け犬の遠吠えの如く言葉を吐く。

 早くウサギの手伝いを終わらせて願いを叶えてやる。この頭のイかれたクソ野郎をこの手で何度も何度も残虐なやり方で殺す。

 命乞いしても謝罪をしてもぜってぇ許さない、アイツだって許しを乞うても聞かずに殴ってくるし。


「あ、そうや魔法少女って武器とかあるんよな……」


 シオン君の見ていた魔法少女のモノは剣と魔法で戦ってた、それらが使えるならその武器でかち割ってまた魔法で治してって繰り返したら実質無限に殺せるのでは……。


 いいことを思いついてしまった、これならっ!!

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