魔法少女はそんなに万能じゃなかった3



 目を開ければテレビでよく見る渋谷スクランブル交差点のど真ん中に移動していた。

 不思議世界という現実の裏世界?とやらは人が居ないだけで何も変わらない。電気も広告も流れていて音も聞こえる。禍々しい黒い気と殺気がなければいいんだけど……。


「す、すっげぇ……トーキョーやん」


 初めて生で見るこの光景にうおお!っと熱くなったけどそれは一瞬で覚めてしまう。


「うゲェっ……なんやこの臭いッ!」


 異常なほど血生臭い臭いに一瞬吐きかけた。


「やられてないでね……」


 そう小さく呟いた瞬間、


――ドォオォンンッッ‼


 轟音と共に足元が大きく揺れ、頭上にビルの一部が落下してきた。小さいものならまだしもめちゃくちゃでかい塊か私の上に向かってきやがる。


「マジかいな!!」


 いきなりビルが落下してくるなんて海外のドッキリか何かかよ……と思いながら刀を出現させて落下してくる残骸をぶった切った、これくらい朝飯前。

 見たか私の素晴らしい身のこなし方!とかちょっとドヤりながらスタッと地面に着地したけどこれはきっと100点満点だな。


「ヒイロちゃん怪我はない⁉」

「はは、平気やあれぐらい!あのバカどこにおるんですかねー」

「あの子、魔力の気配消して戦ってんじゃないのかしら、全く居場所が分かんないわ!」


 この辺りから全くクロの魔力を感じない。

 あの男は生きているのか、はたまた死んでいるのか……頑固野郎がそう簡単に死ぬとは思えないが少し不安だ。


「2人共!上から何か来る!」


 シロさんが叫んだと同時に何かが勢いよく地面に落ちてきた。

 土煙で舞って視界が悪い、一体何が落ちてきたんだ?クロが早速私に嫌がらせを開始させたとかだったらいいんだけどさ。


「けほっ、ヒイロちゃんアイさん大丈夫?」

「大丈夫や、シロさんの方こそ大丈夫なんか」

「僕は大丈夫だよ!」

「アナタ達、ちょっと待ちなさい。今すぐこのウザったい視界を何とかするから!」


 アイさんから魔力を感じ、すぐに土煙が消えていく。視界が開けたことで落ちてきた何かが分かった。これが異端者の死体とかだったら私達の仕事はこれで終わりになるのかなぁと思ったけど___


「クゥちゃん!!」


 落ちてきたのは忌まわしきクロだった。


「クゥちゃん、生きてるよね!?生きてるよねッ!?」


 クロの体は手足があらぬ方向に曲がっていて片腕とがない。

 白いチャイナ服は真っ赤に染まってて生きているのか死んでいるのか分からないほどボロボロな状態。心配して近づこうとしたらクロがムクリと起き上がった。


「くるな‼」


 起き上がるなりクロがそう叫び、私達を止める。なに言ってやがるんだと言い返そうとしたと瞬間___締め付けられるほど強い魔力を感じ取った。

 こんなに気分が悪くなる魔力なんて初めてで足が竦む。怖い、気持ち悪い、逃げたい、アリスになって初めて敵に怖気づいてしまう。初日に感じたクロの時とは違う恐怖が身体全体を蝕む。


《あだぢぃおおおひどりぃぃいいにぃいぢなぃぃでえええええ‼‼》


 ノイズ交じり不気味な叫び声が響く。

 空が赤黒く変色し、陰を纏わりつけたような小さな少女らしき人物が空に突如出現した。アレが、あの少女らしきモノが今日の狩りの最終目標――異端者なのだと一瞬で理解する。


《あだぢぃいいのぉおおおにぃいぢゃああんんん‼》


 酷い声で叫びながら異端者は、自身の体に似つかない異常なほど大きな鋏を投げつけてくる。コイツ、容赦なく人に鋏投げるとかあぶねぇんだけど、やばすぎだろ。


「はっ、人に物投げんなカス!!」


 一応クロは仲間なので重症のクロを守るようにジャンプし、どデカいその鋏を弾き返して追加で短刀を数本お見舞してやった。自分も投げてるって?知らん。地味にかっけぇ挟みしてるから腹いせだ、私もそれ欲しい。


《きぃあああっつつつ!!!キライ!!!キラィイイ!!》


 私の担当が1本少女の髪を切ると少女が激おこモードになってしまう。あんなデカい鋏に突き刺されてしまったらいとも簡単に体はミンチになる、3人仲良くあの世へゴーなんてことは勘弁したい。

 あの鋏ごと叩ききってやるかと刀を構えると薄透明な氷のドームが私達を覆う。


「ヒイロちゃん、無暗に行くのはだめだよ」

「す、すんません」


 シロさんに怒られてしまった、突っ込んでるつもりは無いけど下手をしたら体がミンチになっていたから怒られてもしょうがないか。

 氷のドームはシロさんが出したもので超絶硬くて丈夫だから暫くは大丈夫だと思う。


「大丈夫だよ。あの子……予想以上に攻撃力が高いね」


 シロさん制作の氷の壁を鋏で何度も壊そうとする異端者。一撃一撃当たる度に氷がパラパラと崩れ落ちている、あまり長く持ちそうにない。

 こんなに威力が強い相手は初めて見た……どんだけ強いんだコイツ!っと思いながらクロの回復を待つこと数分後、


「んん゛、ん。あ、あー……よし、やっと作れた」


 グロッキーな体から完全回復したクロ。


「アナタ、無茶して戦うんじゃないわよ。見栄を張るのはやめてちょうだい、もっと仲間を頼りなさい!!」

「そうだよ、今回は1人じゃ無理なんだからちゃんと協力して!」


 2人に怒られているのにクロはじっと壁の外にいる異端者を見つめる。コイツの頭は人の話をしっかり聞くという機能が破損しているようだな。ななめ45°でぶっ叩けば治るんじゃないか?


「ちょっと聞いてるのクゥちゃん!異端者ばっか見てないでちゃんと人が___」

「あの子を生きたまま捕まえたいです……だから手出ししないでくれませんか」


 起き上がったかと思えばクロは意味の分からないことを言い出す。無茶すぎる言葉に思わず「はぁ?」と言葉を漏らしてしまったがクロは珍しく私に突っかかって来なかった。

 コイツ、異端者に頭をいじられて頭がイカれたのでは?マジで頭大丈夫そ?


「この子を捕まえるのは無理だよクゥちゃん……アレは人じゃない、保護したところでどうするの?」

「俺が面倒をみます。だから、だからお願いです……お願いします」


 そう言って頭を下げるクロに私とシロさんは顔を見合わせる。


「コイツ気が狂ったんか?頭おかしゅうなっとるで」


 小さな声でそう呟くとクロが鋭い眼で睨んできた、今にも殴ってきそうな顔のクロだったけど今回はちゃんとウサギが言ってくれたおかげか何もされない……多分。


「ごめんね、クゥちゃんの頼みでも聞けない。あの子は倒す、理由はなんであれ異端者を生かしておいたらアリスに被害が沢山出る、もちろん人間にも。引き留めるなら悪いけどここで眠らせるよ」

「でも……」

「でもじゃない、僕らは倒すのが専門。保護は専門外」

「っ……」


 しばらく沈黙が流れ、クロは大人しく「倒します」と悲し気に言う。


「よし、じゃ。行こう……ヒイロちゃんは気を引き締めてヤバいと思ったら下がってね」

「おう!」


 私達ならきっとコイツをぶちのめして完全なる圧勝を収める事ができる___そう私は思っていた。

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