魔法少女はそんなに万能じゃなかった2



「ヒイロちゃん。僕もクゥちゃんから軽く聞いたくらいで詳しく知らないけど、夢バグよりももーっと強い化け物で凶暴なんだって」

「ほへ……戦ったことがあるん?」

「ほとんど出ないらしくても僕は1度もないよ。クゥちゃんはあるみたいだけどね、その時とても大変だったって聞いたけど……」


 シロさんの説明でふわふわっと異端者について理解した。とりあえず強い人型の化け物ってことね、なるほど理解理解。

 めちゃくちゃ強いアイツが苦戦したってっ言ってたけど私ら3人でやれば余裕なんじゃ?


「3人やったら余裕のよっちゃんどころやないんやない?もう無双のむっちゃんじゃね?」

「いや、それは___」

「そうもいかないよ赤のアリス!!異端者はとっても強くてとっても怖くてとっても異端なの!!!そんな簡単に倒せない!!人を襲うしアリスだって食べちゃう!」


 キーキーと喚き始めるウサギに耳を塞ぐ。

 めんどくさい性格を治す魔法を持つヤツが居たら頼むからかけてほしい、ストレス。

 てか食べるとかマジで異端すぎて恐怖すぎんか。簡単に倒せないってやってみないと分からないでしょ、鬼畜指導を乗り越えた私なら多分異端者とやらもすぐに叩き潰せるはず!


「分かってない分かってない、異端者は舐めてかかってると首なんか簡単に___」

「はいはいわかったわかった、わかったきさっさと異端者のとこ案内しろし。このデブウサギ」

「デブって失礼だな!!分かってないよ!!分かってない!心配だから言って___」

「あーも、じゃかましいな!」


 うるさいので我が使い魔シカチャンを召喚してウサギの腰辺りにタックルをしろと命じる。ボールのようにぶっ飛んでったけど直ぐに可愛らしい音を立てて戻ってきやがった、不死身かコイツ。


「ちょ、痛いよ!!何すんのさ!」

「アンタがちんたらちんたら案内せんからやろ、はよ案内しろって」


 このためだけに現れた忠実な私の使い魔シカチャンをひと撫でしてから消す。使い魔ってマジで便利だから習得できてほんと良かった、持つべきものは使い魔だよ。

 シカチャンの勇姿を見てシロさんはクスクス笑っててアイさんは腹を抱えて膝を着いて笑ってた。ウサギの味方はどこにもいない、ざまぁみろデブウサギ(ガリガリだけど)。


「はぁ、わかったよ。とりあえず今日は“みんな”で戦ってもらうから!バラバラは許さないからね!!」

「え?」


 “みんな”という言葉にピシッと固まる。

 みんなで戦う……みんなで……全員という事は……まさか、まさか___


「黒のアリスにきつーく言っておいたから仲良く戦ってね!」

「嘘やろおおおおおおおおぉぉ⁉」


 女の子とは思えないほどのガサガサな大声が響き、木の上で休んでいた鳥達が一斉に飛んでいった。


「マジで言ゆ?本気?ガチめのやつ?」

「本気のマジのガチめで言ってるよ、赤のアリス!」


 あの性格クズ男と一緒に戦うなんてたまったもんじゃない。頭がいかれてるんじゃないこのウサギ。協調性もかけらもないあんな奴と連携が取れると思ってんのかよコイツは。異端者より先に仲間が死ぬぞ、私が殺されていいのかよ!

 バケモン倒しの前に戦力が消えてもいいから言ってんだろ、間違いない。


「マジで却下!無理!私が死ぬわ!」

「赤のアリスちゃん、これはキミたちの生存率を上げるためだから我慢してよ。人の脳を持つから異端者は知能が高い、だから協力しないとみんな殺される、首をスパァアンだよ!」


 首を切るような動作をしてからうぅと体を震わせるウサギ。


「異端者より先に私が殺される率高いんやけど?私殺されるの嫌なんやけど?ねぇ?」


 私とアイツがどんだけ仲が悪くてどんだけ喧嘩してどんだけ私が死にかけたか知らないのか。シロさんがいなかったら私初日のお茶会で殺されてたんだけど、マジで無理なんだけど、生理的に無理ってやつ?

 昨日アイツに地面に押し倒し(頭を殴って)されたんだけど、マジで首取れかけたんだけど。


「喧嘩しないように話をしたから大丈夫!」

「そんな信じられるかボケ」

「はぁ……今回キミに何かしらの妨害をした場合スコアを3000減らすって言ったよ。もし殺した場合アリスを“やめる”ようになってるからね」

「ちょっと待って!ウサギさん本気で3000も減らすの!?」

「うん。赤のアリスへの妨害、殺害行為を行った場合、問答無用で減らすし辞めさせるよ!」


 酷く驚いた表情をしてシロさんがウサギに掴みかかる。スコアをそんなに減らされるなら普通大人しく共闘するだろうけどアイツネジが外れてるし……。

 アイツが損するなら喧嘩をふっかけらてもいっか、かなり大損するならよしだ。乗ったぞウサギ。


「クゥちゃん大人しくしてられるかな……」

「あの子大丈夫かしらねぇ……」


 不安そうな2人だけど私は楽しみで仕方がない。手を出されれば日頃の報復になるので凄く楽しみだ。手を出していいぞ、今日は殺さなければウェルカムだ、ドンと来い!死にたくはないけどそれ以外ならなんでもやっていいぞ。


「スコアの件、嘘やったら毛皮にして売りさばいたるからなウサギ」

「ちょっと、そんな物騒なこと言うのはやめて!?」


 私のモチベは急降下から急上昇し始めてる、今日はまだ戦えるぞ、むしろもっと戦いたい。戦闘狂になってるって?今日だけだよ、今日はそういう日なんだよ。


「時間が無いからとりあえず説明するけど現実の裏世界に異端者を一時的に切り離してるから一般人の目は気にしなくていいからね、人間がいないから自由に戦って!」

「流石ですウサギさん。人を巻き込んで殺さず戦えるのは良かった……」


 強いと言う異端者をなんかよく分からない裏世界にぶち込んだなんてそんな凄い力あるなウサギだけで倒せるんじゃ……と思ったけどこのウサギ、鶏ぐらいの攻撃しかできないし無理だ。

 全く使えねぇ使い魔だよ、うちのシカチャンの方が優秀だよ。


「んで場所はどこなん?」

「場所はトウキョー。地名はえーと……シブヤって言うのかな?」

「トーキョー⁉え、夢の大都会トーキョーでドンパチすんの⁉」

「そ、そうだよ?」


 狩りの場所を聞いてモチベもテンションもぶち上がり。ずっと行きたかった夢の大都会、東京に行けるなんて最高だ。やっぱアリスになって良かったな、最高。アリス万歳、アリス生活に感謝を!アリスになった自分に盛大なる感謝を!と心の中で狂喜する。

 渋谷ってあのスクランブル交差点ってやつがあるところだよね、あれ、イケブクロ?の方だっけ。田舎民だから分からん。


「ねぇ、クロくんはいつ来るのかしら?もうあの子も戦い終わってるんじゃないの?」


 私は全身全霊で感激していたらアイさんが心配そうに言う。

 そう言えば一緒に倒すというのにまだあの男はここに来ない、何をしてんだかと思った瞬間、ウサギがとんでもない爆弾発言を落とす。


「あの子なら1で先に乗り込んだよ!凄いよ、黒のアリスちゃんって‼」


 ウサギ以外の私達の「はぁ!?」という声が重なる。


「は、早く行こう‼早く行かないとクゥちゃんがこ殺される!殺さちゃう、早くしなきゃ!どこなの!?」

「シロくん、アナタ落ち着きなさい!は、早く行くのよ!あの子、ほんと馬鹿なんだから!早くしねぇとやばいわ!!」


 慌てる2人に「もしかしたらもうやられているかもしれない」とウサギが縁起でもない事を言ってシロさんが無言でウサギを割とガチで殴った。いつもニコニコしてるシロさんなのにめちゃくちゃ怖い、ニコニコしてない……クロみたいに目が怖い。

 地面に転がったウサギは怒っているのが分かっていないのかまだヘラヘラしてる、悪いことは言わないからマジで黙れクソウサギ。


「い、痛いじゃないか白のアリス!」

「縁起でもないこと言わないでくれる?」

「でも___」


 いつものようにニコニコしてるウサギの頭を掴んで持ち上げるシロさん。


「次、言ったら殺すぞ」


 シロさんにとってアイツ、クロは恩師でもあるし親友でもあるから失いたくないんだろうな……でもいつか願いを叶えた後どうするんだろう。願いを叶えた後ってアリスは続けられるのかな……?


「ご、ごめんねぇ……」


 腹を抱えながら謝るウサギは今回ばかりはへらへらしていない、よほどシロさんの攻撃が効いたみたい。痛そうだけどこれは自業自得だ、私は止めろと言ったぞ(心の中で)。ちゃんと言ったからな。


「と、とりあえず移動しようねぇー。目を閉じて、そしたらボクが移動させるから……」


 そう言われて私達3人は目を閉じる。


 ウサギが「頑張ってね!」と言った瞬間、いつものジェットコースターの浮遊感を感じた。

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