涙の後の純白に

有理

涙の後の純白に

「涙の後の純白に」



葛西 栞里(かさい しおり)

坂下 樹(さかした いつき)




栞里「私達、どこで間違っちゃったんだろうね。」


樹N「あの日。赤く染まった放課後の教室で、」


栞里「ただ好きってだけじゃ、どうしていけないの?」


樹N「絡めた指と触れるだけの口づけ、何度重ねてもあの日に勝る感触は得られないだろう。」


栞里「いつき。愛してるよ。」


樹N「引き裂かれたウェディングドレス。私達は、ただ恋をした。」


栞里(たいとるこーる)「涙の後の純白に」


_____________


樹「おはよう、しおり。」

栞里「んー、おはよー。いつきー」

樹「もう9時だよー。」

栞里「うわーまじか。」

樹「そろそろ起きて支度しよ?」

栞里「そうだね。今日久しぶりに休み合ったんだし、どっか行こ。」

樹「うん!コーヒー淹れてくるね」


栞里N「1LDKのマンション。一昨年2人で探して借りた。駅までは少し歩くが、広いリビングと遠くに海が見えるベランダが気に入ってここに決めた。」


樹「ねえ、昨日高いハチミツ貰ったんだけど入れる?」

栞里「うん!」

樹「おっけー!」

栞里「ねえねえ、高いハチミツって誰に貰ったの?」

樹「作家の間藤恭平先生!」

栞里「え?!あの、間藤?!」

樹「そう!毎年お歳暮で部署ごとに何かしらくれるの!今年はハチミツでしたー!」

栞里「へー。マメだね。」

樹「実際は編集部の担当が選んで発注してるらしいけど。」

栞里「そうなんだ?」

樹「私、出版社って言っても校閲だから。作家先生には全然会ったりしないんだけどね。」

栞里「でもいいじゃん。夢だったんでしょ?昔から出版社に入るの!」

樹「うん。任されてる仕事はちょっと地味だけど、やりがいあるし。」

栞里「羨ましいなー樹。」

樹「そう?」

栞里「私なんて志望してた会社ぜーんぶ落ちちゃったしさ。」

樹「でも、商社の受付嬢でしょ?十分キラキラしてると思うけど。」

栞里「コネ入社。本当はそんなことしたくなかったのにさ。親がうるさくて。」

樹「あはは、厳しいもんね。栞里のとこ。」

栞里「本当。いつまでも過保護。」

樹「愛されてるってことじゃん。」

栞里「どうだかー。」


樹N「淹れたてのコーヒーにキラキラ反射するハチミツを一掬い入れる。ほんのりと香る甘い匂い。くるくると匙を回すと黒に飲まれて溶けていった。」


栞里「どこ行くー?」

樹「そういえば今美術館であの展示会やってなかったっけ?」

栞里「え?なになに?」

樹「ほら、ちょっと前ニュースになってたフラワーデザイナーの…」

栞里「フラワーデザイナー?」

樹「ほら、あの、事件になってたやつ!」

栞里「あ!巌水燈(いわみず あかり)?」

樹「そうそう!その人の写真展であってると思う。」

栞里「へー!そこ行く?」

樹「そうだね。もうすぐ終わっちゃうみたいだし」

栞里「決まり!美術館デートか!」

樹「栞里は動物園とかの方がよかった?」

栞里「え?どういう意味?」

樹「ふふ、別に」

栞里「あー!子供っぽいって言いたいんでしょ!」

樹「そんなこと、あるけどー」

栞里「もー!」

樹「ほらコーヒーできたよ。ミルク入れる?」

栞里「入れるー」

樹「やっぱり子供だ」

栞里「そんな意地悪ばっかり言ってたら、樹のチョコレート食べ漁っちゃうからね!」

樹「あ、そ、それはダメ!」

栞里「撤回して!子供っぽいって!」

樹「はいはい。撤回します、栞里ちゃんはキラキラの大人です。」

栞里「ふふ、よろしい。」

樹「あはは。」


栞里N「こんな些細であたたかい日常が続けばいいと思っていた。」


_______________


樹N「高校3年の秋。私は2年間片思いしていたこの恋に終止符を打つため、放課後栞里を空き教室に呼び出した。葛西栞里はクラスのどのグループとも仲が良く所謂、カースト上位の生徒だった。ずば抜けて勉強ができるわけでも運動が得意なわけでもないがその類い稀な高いコミュニケーション能力と整った顔つきで青春を謳歌していた。」


栞里N「呼び出された空き教室は埃っぽかった。陽が傾きかけていて窓際の席で待つ彼女がやけに絵になっていたのを覚えている。坂下樹。女子バスケ部の副キャプテンで隣のクラス。容姿はボーイッシュでかっこいいイメージ。その程度の印象しかもってなかった。そんな彼女があまり接点もない私をここに呼び出した。」


樹「葛西さん。ごめん、時間作ってくれてありがとう。」

栞里「ううん。坂下さん、私のこと知ってるんだ。あんまり話したことなかったよね?」

樹「うん。クラスも部活も違ったしね。…でも、1年の時の文化祭で」

栞里「文化祭?」

樹「そう。ほら、裏庭の花壇で。…覚えてない?」

栞里「あ!もしかして段ボールのロボットくん?」

樹「あはは、そう。あの時出し物であれ着たまま客引きしててさ。」

栞里「一緒に迷子の親探したよね?」

樹「うん。あの時風邪引いてて声も出なかったから本当助かった。」

栞里「子供の前だったからキャラ守って喋らないんだと思ってた。」

樹「すぐお礼言いに行くつもりが日が経つにつれて今更感強くなっちゃって。」

栞里「ふふ、それで今?」

樹「うん、それもあるんだけど。」

栞里「なに?」

樹「…その」


栞里N「勢いよく風が吹き抜けてくすんだカーテンが大きく膨らむ。」


樹「…好き、なんだ。」

栞里「…え?」

樹「私、葛西さんのことが。ずっと。」


栞里N「真っ直ぐ見据える彼女の瞳が夕日を反射して、キラキラ喧しかった。頭で理解するよりも先に口が動いていた。」


栞里「わ、たし、あまり坂下さんのこと知らないんだけど」

樹「うん。」

栞里「あ、でも、今すごく嬉しい」

樹「…」

栞里「…まずは友達からとか」

樹「友達にはなれない。」

栞里「え、でも」

樹「私は、」


樹N「引き寄せた彼女の体は私より華奢で。薄いピンク色の唇にキスをした。」


栞里N「柔らかい感触に脳が溶けた。」


樹「っ…。こんなことがしたいんだから。」

栞里「…」

樹「友達には、なれない。」

栞里「…」

樹「どうする?嫌ならフって。」

栞里「…」


栞里N「煩い心臓。じっとしない舌。遠く感じる右足の感覚。痺れた唇は脊髄から返事をする。」


栞里「いいよ。」


樹N「絡めた指は少し震えていた。だから、もう一度。柔らかい感触に目の前が真っ白になる。」


栞里N「赤く染まった教室。私達はここからはじまった。」


_______________


樹N「あの頃に比べて少し大人びた栞里は隣で鼻歌を歌いながら大きく手を振る。振り子になった指先が何度も彼女のスカートを掠っては音を立てる。」


栞里「そこのカフェね、焼き立てパンがあるんだって」

樹「いいね!パン!」

栞里「でしょー?樹が好きなパンあるかな?あの、ほら、名前」

樹「え?」

栞里「カンパニュラ?」

樹「ああ、カンパーニュ?」

栞里「そんなの!あったら買って帰ろ!」

樹「そうだね。」


栞里N「このカフェを選んだのはそれだけじゃなかった。ここは同姓同士で結婚した2人が経営するカフェで少しでも未来の雰囲気を見てみたいというのもあった」


樹「結構人気だね。」

栞里「本当だー。パン美味しいって口コミ良かったし、内装も結構凝ってるって書いてあったんだよね。」

樹「詳しいね。」

栞里「さ、さっき少し見ただけだけどね!」

樹「そっか。あ、メニュー置いてある。借りてくるね。」

栞里「うん!」


樹N「小さいが手入れされたガーデニングスペース。外まで香るパンの匂い。そして、なにより目を引いたのが店内入ってすぐの写真立てだった。そこには白いウエディングドレス姿が2人。仲睦まじく写っていた。」


栞里「樹!」

樹「うん。借りてきたよ。」

栞里「ありがとう!…ランチメニューとかもあるんだって。お腹すいた?」

樹「…うん。朝ごはんコーヒーしか飲んでないからね。」

栞里「だよねー。私もお腹すいたー!どれにしよっかなー。」

樹「うん。」

栞里「…樹?」

樹「ん?」

栞里「どうしたの?」

樹「なんでもない。楽しそうに選ぶなーって思って。」

栞里「ふふ。楽しいもん。」

樹「そっか。」

栞里「ね、このピザ美味しそう」

樹「本当だね。ピザにしようか」

栞里「あ、待って。これも、あー、これも美味しそう」


樹N「きっとわざとここにしたんだ。そうすぐにわかった。最近よく同性の結婚について話題にあげては自分でクスクス笑っていたから。ただ、私が踏み切れないのは違う問題があるからだ。」


栞里「ねー。そろそろ、私の実家来ない?」

樹「まだ早いと思うよ。」

栞里「だって、」

樹「お父さんとお母さん。びっくりしちゃうだろうから。」

栞里「…私説得するから。」

樹「いいじゃん?今のままでも。」

栞里「パートナーシップ。」

樹「ん?」

栞里「この間、盲腸で入院した時。面会できなかったじゃん。」

樹「それ認めてもらったところで絶対じゃないから。」

栞里「あの病院はそれさえあればよかったんだもん。」

樹「たまたまだって。それにすぐ退院してきたじゃん」

栞里「心配してたんだよ?」

樹「はいはい、ごめんごめん。」

栞里「…私、樹と結婚したいの。」

樹「同性婚できる国ならよかったね。」

栞里「またはぐらかして!」

樹「…反対されるって。」

栞里「…」

樹「今の関係、よく思ってないでしょ。」

栞里「関係ないよ。」

樹「関係ある。栞里の大切な家族だよ。」

栞里「…」

樹「そんな焦んなくていいって。」

栞里「じゃあ、じゃあさ。内緒で結婚式あげよ?」

樹「ん?」

栞里「ウェディングフォト!最近はシングルマザーでも撮ったりするんだってよ。それならいいでしょ?」

樹「そこまでする?」

栞里「うん!せめて残したい!写真に!」


樹N「さっきまで落ち込んでいたのに急に満面の笑みを浮かべられる彼女が愛おしくて、何も考えずつい了承した。」


栞里N「その日から私の楽しみが始まった。いろんな雑誌をみてドレス探したり、スタジオを調べたり、式場下見したり。毎日が楽しくて、ドキドキした。」


________________


樹「栞里ー?」

栞里「ん??」

樹「なんか、届いてるけど荷物」

栞里「え!あ!きた!」

樹「何?」

栞里「ふふーん。みてみて?」


樹N「箱から飛び出した純白に思わず体がのけぞった。真っ白で細やかなレース、まさしくそれは」


樹「ウェディングドレス…」


栞里「そう!まずはサイズ確認で送ってくれたの!最近レンタル衣装にもこんなドレスあるんだよ」

樹「なんかこう、現物見るとドキッとするね」

栞里「でしょー??2着入ってるはず!このレースのマーメイドラインのやつが樹ので、もう1着のが私の」

樹「裾なが。これ壁かけとくよ?」

栞里「うん!あ、みてみてこれ!」


樹N「栞里が広げたもう一つのドレスはお姫様のように裾の広がった黄味がかったウェディングドレスだった」


栞里「これね、プリンセスラインっていうの。可愛い?」

樹「うん。」

栞里「樹はスタイルいいからそういうのが似合うかなーって。私はこう、ザ!みたいなドレスがぽいかなーって思ってさ。」

樹「うん。」

栞里「ねね、こーんな感じ!ど?」

樹「うん。」

栞里「樹?ちゃんと聞いてる?」

樹「うん、ちゃんと聞いてない。」

栞里「へ?」

樹「可愛すぎて、ちゃんと聞けない。」

栞里「あはは、何言ってんの」

樹「栞里、」


栞里N「手からドレスは奪い取られそっとソファにかけられた。そのまま腰に手をまわされて優しいキスをする。」


樹「…」

栞里「そんな気分になった?」

樹「うん。」

栞里「樹のえっち。」

樹「うん、知ってる。」

栞里「ね、見て。」

樹「何?」

栞里「新しい下着、とびっきり可愛いから。」

樹「煽ってんの?」

栞里「そう。煽ってる。」

樹「ばか。」


栞里N「繰り返すキスはどんどん深くなって、なだれ込むようにベットへ向かった。樹の手は細くて爪も綺麗な形なのに決して伸ばさない。」


樹「何考えてんの」

栞里「え?」

樹「違うこと考えてたでしょ」

栞里「あ、」

樹「余裕なんだ」

栞里「ん、いつ、」

樹「もっと、」


栞里N「チカチカする視界。快楽と現実の間はひたすらに気持ちよくて。その夜はこのまま、どうかこのまま。死んでしまえたらいいのに。そう思ってしまうほどだった。」


________________


樹N「着々と進められていくウェディングフォトの準備。家に帰れば栞里がデザインやら、ロケーションやら調べ尽くしていた。」


栞里「樹おかえり!」

樹「ただいま。そんな急がなくったって逃げないよ私」

栞里「私、こういうの思い立ったらすぐやりたいからさ!いろいろ決めて日にちまで抑えたいの。」

樹「あんまり無理しないでね。」

栞里「樹も一緒に決めるの!2人の特別な日にするんだから!」

樹「はいはい。」

栞里「結構選択肢しぼったから、ね!これ見てー」


樹N「意気揚々といくつか資料を引っ張り出す栞里が可愛らしくて、こんな日常が続くならパートナーシップ制度考えてみてもいいのかなと思っていた矢先だった。」



樹「ん、栞里?電話鳴ってるよ。」

栞里「えー?誰ー?」

樹「え、っと、お母さんじゃない?」

栞里「えー。何。」

樹「ほら早く出てあげなよ。」

栞里「んもー。…もしもし。」


樹N「私は栞里の家族が苦手だ。」

栞里「久しぶり。いや、忙しかったんだって最近。うん。ちゃんと仕事してる。…うん。」

樹N「1人娘のことをとても大切にしてて、お父さんもお母さんも優しくて。ただ、」

栞里「…一緒に住んでるよ。当たり前じゃん。」

樹N「2人は私のことが嫌いだ。」

栞里「なんなの?急に電話してきて。今忙しいの。」

樹N「高校生の時、放課後手を繋いで帰った日。偶然買い物帰りの栞の母親に会った。」

栞里「な、に。ねえ、お母さんさ、いい加減にしてくれる?」

樹N「すごい血相をした栞里の母は私の腕を栞里から引き剥がしそして私を突き飛ばした。」

栞里「もう社会人なんだよ!私だって自由に」

樹N「“うちの娘を汚さないで”そう怒鳴られた。」

栞里「…へ、」


樹「…どうしたの。栞里?」


栞里「…っ、」


樹N「感情的に返していた彼女が急に黙り込んで、手にしていた電話を床に落とした。顔を見ると青ざめていて小さく震えていた。」


栞里「…」

樹「栞里?」

栞里「…ドレス、」

樹「ドレス?」

栞里「送り先、間違えて、実家に届いたって」

樹「…うん。」

栞里「お母さん、中身見て、」

樹「…うん。」

栞里「…取り返してくる。」

樹「あ、ちょっと、」

栞里「すぐ帰るから!」

樹「しお、…」


樹N「飛び出して行った栞里を止めることができなかった。」


________


栞里N「高校生の時。私の大好きな人を、私の家族は罵った。“あなたは汚い”“あなたは間違っている”“異常だ。うちの子を巻き込むな”」


栞里N「理不尽な言葉達を浴びせられても彼女は涙すら溢さずこう言った。“ごめんなさい”。その言葉がどれほど悲しかったか、苦しかったか。隣にいた私はこのまま涙が枯れるんじゃないかくらい泣き喚いた。」


栞里N「大学卒業と同時に家を出た。もちろん反対された。でも樹と別れるのは両親を裏切るより嫌だったから。漸く今の生活にありつけたのに。私がまた我儘を言ったから。あの日と同じ、我儘を言ったから。“手を繋いで帰りたい”なんてそんな事を言ったから。」


栞里N「アスファルトを蹴るヒール。息切れすら感じない。私は実家まで立ち止まることなく走り続けた。」


_____________


樹N「23時を回った頃、インターフォンがなった。慌てて駆け寄るとそこには白い布を抱きかかえた栞里が立っていた。」


樹「栞里!おかえり。」

栞里「樹…」

樹「ほら、とりあえず中入りなよ」

栞里「樹ぃ」

樹「うん。ほら、おかえり。」


樹N「白いウェディングドレスは2着あった。1着はプリンセスライン。もう1着はびりびりに引き裂かれたマーメイドライン。」


栞里「ごめん、ごめんね、樹」

樹「栞里が謝ることじゃないよ。」

栞里「私のせいだよ」

樹「違うよ。誰も、誰も悪くないんだよ。」


栞里「お母さんがね、もう、やめなさいって言うの」

樹「うん。」

栞里「たくさんたくさん、悪口ばかり言うの」

樹「うん。」

栞里「でも、私、間違ったことしてる?樹のことが好きでただ一緒にいたいっていうことの何が間違ってるの?お父さんもお母さんも、」

樹「うん。」

栞里「樹ばっかり悪者にして…私ばっかり正当化して…そんなの間違ってる」

樹「誰も間違ってないんだよ。栞里の家族も、栞里も間違ってない。」

栞里「っ、」

樹「ごめんね。」

栞里「なん、なんで、謝るの」

樹「こんなに泣かせて。大好きなはずの家族とこんなに揉めさせて。ごめんね、栞里。」

栞里「ちが、」

樹「私達、どこで間違っちゃったんだろうね。」

栞里「間違ってないって、今言ったじゃん」

樹「ただ好きってだけじゃ、どうしていけないんだろうね」

栞里「…逃げよう。」

樹「ううん。」

栞里「…いやだ、樹。」

樹「栞里、大好きだよ。」

栞里「まって、」

樹「私、戻れるならあの日に戻りたい。あの、放課後の教室。」

栞里「いつき」

樹「でも、きっと、止められないんだ。戻ったってまた栞里に恋をする。」

栞里「っ、」

樹「だって、私、栞里が」

栞里「樹、」



樹N「あの日。赤く染まった教室で、」


栞里N「絡めた指と触れるだけの口づけ、何度重ねてもあの日に勝る感触は得られないだろう。」


樹N「ずっとそう思っていた。あの日が私達にとって1番幸せな日だったんだと、そう思っていた。」


栞里N「だけど、あの頃の私達はまだ知らなかった。こんなに反対されても、どんな罵倒を浴びせられたとしても、重ねるだけで許された気になるそんな口づけがあるということを。」


樹N「引き裂かれたウェディングドレス。私達は、この日、また恋をした。」



________



栞里「樹」

樹「ん?」

栞里「似合うね」

樹「栞里も。」

栞里「ねえ、愛してるって言って?」

樹「愛してるよ栞里。」

栞里「私も。あいしてる。」


樹N「高らかに鳴る鐘の音。打たれた左頬が少し痛むけれど」

栞里N「右手に残る母の頬の感触。勘当された私に彼女は今日もキスをくれる。」


栞里「ブーケトスしよ!」

樹「受け取る人誰もいないよ?」

栞里「いいの!あ、カメラマンさん写真!撮ってくださいね!」

樹「参列者ゼロなんだってば!」

栞里「ほら、いくよー!」


樹N「高く上がる白いカーネーション。」

栞里N「私達の恋の続きを始めよう」

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涙の後の純白に 有理 @lily000

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