コンセプトカフェに行ったら、ツンデレに目覚めた話 〜お触りは絶対禁止!〜
米太郎
コンセプトカフェ「夜明けのマーメイド」
「先輩、綺麗な店員さんばかりですね。薄い青色を基調としたメイド服で、可愛い。座っている店員さんは、尾ヒレ着いてたりしますよ。キラキラですよ!」
「今のところは、70点!もっと海の荒さが欲しい!」
「コンカフェに何を求めているんですか…。」
席に着くと、店員さん水を持ってやってきた。
「まずは、溺れた感じで水でも一気に飲んでください。」
どんっ、と水の入ったピッチャーが2つテーブルに置かれた。
「…いいぞ!熱い展開!75点!海へ溺れたからこのカフェに迷い込んだんだもんな!分かってらっしゃる!」
「…先輩のコンセプトカフェの楽しみ方が、分からない…。」
言われた通り、ピッチャーから水を一気に飲む。
「しょっぱ!塩水じゃないですか、これ!!」
「いいこだわりだ!80点!海の水がしょっぱいのを知らないのか、お前は?」
「いやいや、そこまでのコンセプトは求めてない
っす…」
水を一気に飲み終えた先輩は、早速注文をしだした。
「君は、セバスちゃんというのか、可愛らしい。セバスちゃん、まずは握り寿司5貫セットをお願いしたい!」
清々しく注文を頼む先輩。カニ女性はセバスちゃんという名前らしい。たしかに可愛らしい顔をしているが、面と向かって言うなんて、これがコンセプトカフェの楽しみ方なのか…。
「何しれっと、セクハラ紛いのこと言ってるんだ、このハゲ!マーメイドカフェでいきなり寿司頼むとか、鬼畜の極みだろタコ野郎!」
セバスちゃんは、怒涛の怒りをぶつけてきた。
メニューに寿司入れてるのに…理不尽でしょ…。
「思った通りだ!むしろ想像を超えてきているぞ!いわゆるツンデレカフェと同じシステムだな!ハゲている俺のことを躊躇なく”タコ”と呼ぶ勢いと、ワードセンス!90点!」
「…コンカフェ上級者の楽しみ方は理解できない…。」
理解に苦しんでいると、すぐに寿司が届いた。
注文を頼むと、人魚の店員さんも席についてくれるらしい。
青色にオレンジメッシュを入れた髪、耳にはヒレを摸した装飾がつけられており、エルフ耳のように尖っている。足には尾びれをつけているため、台車で運ばれてやってきた。
「よいしょ、おまたせしました。握り寿司です。こちら、私のいとこが材料となっています。」
「うむ。少しグロいな、減点マイナス5点!」
「いいから早く食べろ!ハゲ野郎!」
先輩は罵り言葉をニコニコと浴びながら、満足気に寿司を食べる。
人魚の店員さんはとても綺麗で、僕は見とれてしまう。
「何か気になりますか?」
見つめているのがバレてしまい、僕はあたふたと質問を繰り出す。
「す、すごい綺麗なお店ですね。こだわりも凄いです。人魚の尾ビレなんて、本物のようです。触ってもいいですか?」
「お触りは禁止です。泡にして飛ばしちゃいますよ?ふーってして♡」
人魚店員さんにふーと息を吹きかけられた。
ほんのり涼しくて、心地よい。
なるほど。こういう反応が返ってくるのは楽しい。こういう感じで楽しむんですね。先輩、僕もコンカフェを満喫したいと思います。
先輩は無言で僕に頷いた。笑顔が輝いている。
「耳もキラキラして可愛いアクセサリーが着いていますね、何でできているんですか?触ってもいいですか?」
「おい!お触りは禁止だって言ってんだろ!物理的に海に沈めるぞ!」
ドスの効いた声。グリム童話でも聞かない現実的な残酷さ。…先輩、これを楽しむんですね…。
「あ、間違えちゃった。お寿司注文してない人間様でしたね。あらためて。」
店員さんは咳払いをして、あらためて可愛らしい声色に戻した。
「お触りしたら、海に沈めますよ?アンダー・ザ・シー♡」
「はい、本日一発目のアンダーザシー入りました!」
どこからともなく、声が飛んできた。すぐに照明が消えて、薄暗闇になった。
「本日一発目のアンダーザシー行きますわよ!セバス!準備!」
「セバス使いが荒いですー…。」
そう言うと、セバスちゃんは小道具を配り出した。
「可愛らしいあなたは、エンジェルフィッシュ役。お魚さんの人形を手に持ってご参加ください。」
なるほど、参加型のイベントなのか。
可愛い女子は可愛い魚か。
「髪の毛が少ないあなたは、わかめ役。」
ハゲに恨みでもあるのか、痛烈なツンが来た。そういうコンセプトもあるのか。
「活きのいいあなたはカツオ役、回遊魚らしくずっと走り回ってくださいね♡」
何そのプレイ。
「あら、いけめん。あなたは今日のスターフィッシュ。ヒトデ。」
「アンダー・ザー・シー発生させたあなたは…。」
何が来るんだ。スターのヒトデ以上の特別感を持った何かが来るのか?
「はい、おじさん。」
”おじさん”って魚いるけども、ストレートすぎるし。
陽気なマリンバの音が聞こえ始め、辺りは色鮮やかなクラゲの電球が点滅し始めた。
コンカフェのコツを掴んだ僕は、このあと何度となくアンダー・ザ・シーを発生させて楽しんだ。
そのおかげで、店を出る夜明けには50万円も請求される羽目になった。
コンセプトカフェに行ったら、ツンデレに目覚めた話 〜お触りは絶対禁止!〜 米太郎 @tahoshi
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