第29話 Destroy ALICE

それは、大会数日前に遡る。


「それでお兄様、大会に出るらしいのですが、このゲームやった事あるんですか?私の知る限り、お兄様はこういったゲームを、今までやってきていなかったと思うのですが」

「ああ、俺はやったことが無いが、知り合いにこう言うゲームをよくやってる奴がいるから、そいつを入れて大会に出ようかと思っているぞ。それに俺は実銃は撃ったことがあるんだ、それに比べたらゲームの銃なんて楽勝だろ」

「流石です。お兄様!」


そう言う訳で、阿久津がその友人に連絡を取ったところ……


「はぁ?その日別の大会で無理?」

「すまん」

「まぁ、元々用事が入ってたのなら仕方ないな。その代わりお前の知り合いで、EPEXが上手いやついないか?居たら紹介してくれ」

「ちょっと待ってくれよ……」


そう言うと電話越しにキーボードをカタカタと叩く音が聞こえた。


「阿久津って、英語できたっけ?」

「ペラペラだな」

「なら、海外の知り合いでめちゃくちゃ上手いやつ居るから紹介するよ」


そうして友人から【ALICE】と書かれた人物の、連絡先を渡された。


「ALICE?アリスってあの不思議の国か?」

「そうそう、海外でDestroy ALICEって呼ばれてる奴で、俺も大会で当たったとき瞬殺されたから、その強さは補償できるぞ」

「破滅のアリスとは、なんとも不穏な……それにこれだと、アリスって子が破滅してるみたいだしな」

「……まぁ何というか、この破滅って言うのは別に相手を倒しまくってるから、恐れから付けられたんじゃなくてな。このアリスって子が強すぎて1人で突っ込んで全員倒すせいで、今まで組んできたチームのことごとく潰れてるから、そこから自分の周りを破滅させるアリスって事で、Destroy ALICEって呼ばれる様になったんだとか」

「…………なるほど、ならそのアリスは俺と同じ感じか」

「ん?…………ああ!そうだったな阿久津って確か完璧超人?だったっけ?」

「なんだ?忘れていたのかこの俺の凄さを」

「あーすまんすまん、最近忙しくてすっかり忘れてたわ」

「そうか、なら体には気をつけろよ」

「おう、サンキュー!」


そう言って阿久津は、友人との通話を切った。


「Destroy ALICEか……」


自分とは違い、その才能を妬む者しか周りにいないアリスを憐れみ、阿久津はこいつしかいないと確信して、件のアリスに連絡を取った。


何度か無視されたが、12回目で通話が繋がった。通話の相手は、アリスという名前がぴったりな少女の様な可愛らしい声の持ち主だった。


(初めまして、君が周りの人間に恵まれない憐れな破滅のアリスかな?)

「Nice to meet you, are you Destroy ALICE who is not blessed with the people around you?」

(何か用かしら?)

「What can I do for you?それとニホンゴでダイジョブです」

「そうか、それは良かった。それで用と言うのは簡単だ、俺と一緒に大会に出ないか?と言うお誘いだよ」

「オマエがか?オマエこのゲームやった事ないって聞いたぞ?」

「ああ、やった事ないよ?でも俺は完璧だから、その辺は気にしなくて大丈夫だ」

「カンペ……ん?ニホンゴやっぱり難しい」

「なら、英語に戻すか?」

「いや、ニホンゴでダイジョブ」


その後も何度か阿久津の言うことが理解できなくて、話が止まったりもしたがようやく本題まで話が進んだ。


「それでデテ欲しい大会ってナニ?」

「ああそれは、確かシキルだったかがやっている小さな大会だな。確かシキル杯とか何とか」

「シラナイ名前」

「まぁ、公式大会でもどっかの企業の大会とかじゃなくて、個人主催の大会だからな」

「何でオマエは、その大会にデタい?」

「それは……俺がvtuberだからだな」

「ブイ?チュバー?」

「virtualYouTuber略してvtuberだな。まぁ簡単に言ってしまえば配信者だな」

「ナマエは?」

「名前?ああ、UPライブ所属のアクトだ」

「わかったシラベルから、少しマテ」


それから1時間後、何の動画を見たのか通話に戻ってきたアリスは一言


「vtuberと言うのは、アタマのオカシイ集まりナンだな」

「まぁ、大体そうだな」

「……オマエがどういうヤツかワカッタ。だから大会にデテやる。けどワタシはこれでもプロ報酬は貰う」

「いくらだ?」

「カネいらない、ワタシいっぱい持ってる」

「奇遇だな、俺もいっぱい持ってるぞ。それで金がいらないんだったら何が欲しいんだ?俺の体か?」

「ソレ」

「それって俺の体っことか?」

「ワタシニホン行きたい。でもマミーに止められてる。1人じゃダメって」

「なるほどな……。なら今そのマミーは居るか?」

「イル」

「なら、少し変わってくれ」

「……ん?ワカッタ少しマテ」


そう言うと、アリスは母親を呼びに席を立った、通話の先から微かにアリスのマミーを呼ぶ声が聞こえた。


それから数分後、アリス母親と思しき人物が、アリスの代わりに通話にやってきた。


そこからは、まさに詐欺師が如く出まかせを並べ、更にはそれと同時に画像を加工し、阿久津とアリスが長年の友人のように見せかけた画像を見せたりして、アリスの母親を騙し始めた。


その結果


(もしかしてなのだけど、アリスの彼氏さん?)

「Maybe Alice's boyfriend?」

(あー……はいそうですね)

「Ah……yes」


いつの間にか阿久津の設定は、アリスの彼氏で出来れば両親にアリスを紹介したくて、アリスを日本に呼びたいらしく。

更にはアリスが日本を好きなのはボーイフレンドが、日本人だったからと言う事になった。


「まぁでも、約束通り日本に来れる事になって良かっ」

「くぁwせdrftgyふじこlp」

「wow!おかしくなっちゃった」


アリスは絶叫した、まさか数時間前に初めて声を聞いたような相手が、自分の初の彼氏(それも自分の知らないところで)になっていて、それも自分の母親が知る事になるとは思っていなかったからだ。


そしてある程度叫ぶと、アリスは自分の背後に視線を感じた。

嫌な予感がしたアリスは、勢いよく振り返るとそこには、ニヤニヤと笑いながらこちらをこっそりと覗いてくる母の姿があった。


それを見たアリスは顔を真っ赤にさせ、自分の部屋の扉を勢いよく閉じた。


「それで、ドユコト?」

「ドユコトとは?」

「何故ワタシとアナタ付き合う事にナッタ?」

「さぁ?俺に聞かれても、アリスが日本に来れるように適当に偽造したら、アリスの母親が勝手に勘違いしただけだろ?」

「ナラ何故そこで、チガウいわなかった!」

「ん?別に否定する必要なくないか?」


と言うかアリスの奴はさっきから何で、こんなに興奮してるんだ?

別に俺らが実際に付き合ったわけでもないくせに


どうしてこの男アクトは、こんなにも冷静でいるの?今さっきのって、もうほとんど告白じゃない!


そうして2人はお互いの思考を読めぬまま、この誤解はアリスが阿久津の家にやってくる時まで、ずっと続いた。


「それじゃあそろそろ俺配信の時間だから、通話落ちるわ」

「そう、ワカッタわ。また明日」

「おう、それとついでだけどいいか?」

「ナニ?」

「俺EPEX出来ないんだけど教えてくんねぇか?」

「それぐらいなら、別にい イイわよ」

「サンキュー!じゃあまた明日な」


そう言うと阿久津は一方的に通話を切った。


そして通話に残ったアリスは、久しぶりに自分に敵意を全く持たずに話しかけてくる男と出会い、その嬉しさと、阿久津の(勘違いだが)告白の事を思い出し、異性から好意を向けられたのも初めてだった為少し顔がニヤけた。


その後、その様子を見ていた母親にまたも茶化されるのであった。

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【祝20000PV突破】99社落ちた俺が酔った勢いで妹の部屋に乱入した結果、自分以外全員美少女なvtuber事務所に所属する事になった件〜頭のおかしい奴らを添えて〜 なべたべたい @nabetabetai

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