レベル13 スラ母さん



 リリト戦後。


 俺はオークたちの屋形やかたに戻り、戸を叩いた。


 ドンドンドン……


「お、誰か来たぞ?」


「リリト様だろ。開けてさしあげろ」


 そんなふうに中からオークたちの声が聞こえる。



 ギイイ……


 戸が開いた。



「うっす。三年連続、抱かれたいスライムNo.1のスラ様です」


「げげえっ!スライム!?」


「リリト様はどーしたんだ??」


「ああ。アイツなら帰ったよ。コンタクト外れてめっちゃテンション下げてさ」


 ざわ……ざわざわ……


「おい、メントス。いいかげん、さっさとあのスライムを経験値にしてやれ。きさまオークだろう。オークはスライムよりずっと強いんじゃなかったのか?」


「ザハ会長。ここであのスライムに敵う者はいません。リリト様が倒せないものを、どうしてオレたちオークが倒せるというんですか」


「……」



 もっともだ、ということであろう。


 その場のオーク全員が黙りこんでしまった。



 そんな中、俺は意気揚々として口を開く。


「さっ。そういうワケであらためて言うけどな。お前らこの村から出ていけ。さもないとここにいる全員、俺の敵ってことになるぜ」


「ま、まて」


 と、ボス・オークはヘナヘナと膝をつく。


「わかったよ……」


 やった!完全勝利だ!



 ……だが、


「チッ。見損なったぞメントス。しょせんオークはオークだな」


「か、会長……」


「きさまらの代わりはいくらでもいるんだ。結果をだせない者に用はない」


「そんな!」


 白髪は革靴をカツンカツンといわせて屋形やかたを出ていった。


 なんか。ただオークたちをこらしめればそれでよし……というワケでもないのかもしれないな。





 さて、その後。


 俺は集落の方へもどっていった。


 スライ村のスライムたちに、あやまりに行こうと思ったのだ。



 だって、俺がオークたちをこの村から追い出そうと思ったのは、


『もし昔の仲間たちが見たら悲しむだろうな』


 と思ったからで、別に今のスライ村のスライムたちを思ってのことじゃない。



 むしろ、今のスライ村の大多数は『オークたちに守ってもらっていたい』と思っているようだったし、もう自分たちだけではどう暮らしてゆけばイイのかわからない様子でもあった。


 俺のしたことを聞いたら、きっと怒るだろう……



「あ!スラ殿どの!!」


 そう考えながら集落の方へゆくと、あの白ヒゲが外に立っている。


 いや、白ヒゲだけじゃなくて、村のスライムたちの大勢が外に出て、なにやら心配そうにこちらを見ていた。


「うっ……じ、ジイさん。どうしたんだ?こんな夜にみんな集まって」


「いや、スラ殿。先刻あちらでものすごい音がしてのう。みんなで『なにか起こったのでは……』と心配しとったんですじゃ」


 なるほど。


 俺とリリトとの戦いは、そりゃあ近所迷惑だったにちがいないものな。


 あれだけズコン、バキンやってたんだし。


「ちょうどスラ殿どのが帰ってきた方からですじゃ。なにかごぞんじなかろうか?」


「じ、じつは……」


 と、俺は今日起こったことをすべて白ヒゲたちに話した。


「なんと……」


「そういうわけで、オークたちはこのスライ村から出ていくことになったんだ。ごめんなさい」


 そう言って、俺は頭の尖りをペコんと垂れてあやまった。


 そして、たくさん怒られるだろうと思いギュッと目を閉じていたのだが……



 わっ!!



 そのとき。


 スライムたちの歓声がドッとわき起こったのである。


「オークたちが出てゆくぞ!!」


「やったー!」


「スライ村はスライムの村だ!!」


「スラさん、ばんざい!」



 俺はしばらくキョトンとして彼らを眺めていたのだけど……すぐにすべてがわかって、ため息をついた。



 ふう、なぁんだ。


 やっぱりみんな、子分にされてて悔しかったんじゃん。


 むしろ友達……なんてゴマカシだったんだ。


 そりゃそうだよなぁ。



 そう知れて、俺はなんだかすげーホッとしたのであった。




 ◇




 これは夢だ。


 ということを、夢の中で俺はわかっていた。


 そーゆーとき。


 俺は夢をコントロールして、なんとかメス・スライムにエロいことをする内容にしようと頑張る。


 むむむむむ……


 すると、河原に2匹のメスが歩いているのが見えてきた。


 うっしし。


 夢なんだからなにしても怒られることはないよね!


 そう思いながらポヨンポヨン近寄っていったのだが、ふと2匹が振り返ると、俺はビックリして立ち止まってしまった。


「か……母さん」


 そう。


 2匹のメスは、母さんとスラ子だったのである。


「スラや」


「母さん。ご、ごめんよ……」


「なにをあやまることがあるの?」


「だって俺。あのとき母さんとスラ子を残して出ていっちゃって……」


「いいのよ。強くなりたかったんでしょ。男の子なんだから、しょうがないわ」


「母さん……」


「でもね。強いというのはとても重要なことだけれど、ただ強いだけではなんの意味もないのよ」


「?」


「スラ。あなたは本当に強くなったみたいね。これからは、その強さをなんのために使うかをよく考えないといけないわ。自分が欲張るためとか、威張るためとかに使ってはダメよ。強さというのは、なにかを守るために使うの」


「う、うん」


 そう答えると、母さんはニコリとして、


「じゃあ、そろそろ行かないと」


 と言って、川に着いた小舟へぷよん♪っと乗った。


「バイバイ。おにいちゃん」


 と、スラ子もついてゆく。



「ど、どこへ行くの?」


「ふふ。スラ父さんのところへよ。やっと会えて嬉しいわ。ほら、迎えにきてくれてる」


 そう言うので、ハッと川の向こう岸を見ると、立派なオスのスライムが霧の中に立っているのが見えた。


「と、父さん!」


 遠くだけど、父さんはニカッと笑っていた。


 その横にはゴン吉やみんなもいて、ぴょんぴょん跳び跳ねながらこちらに笑いかけている。


「じゃあ。元気でね」


 母さんがそう言うと、小舟は岸をたっていった。




 ◇




 母さん……



 目を覚ますと、俺は天井を見上げていた。


 それは知っている天井だ。


 最長老の白ヒゲの家である。


 そういえば……


 けっきょくあれから、現スライ村のスライムたちと祝勝会の酒盛りをしたので、また白ヒゲの家に泊まらせてもらったのだった。



 ガラ……



 そう思い返していたところで、部屋の障子が開く。


「スラさん。お目覚め?」


「わ、若奥さん……」


 俺は先日の失態をくりかえさないため、布団の中へもぐった。


 やべえ。


 朝なので、やっぱり自分の頭の尖りがムキムキとそそり勃っているのがわかる。


「いや、起きてはいますけど……ちょっとしたら行きますんで。まあ、おかまいなく」


「そうおっしゃられても……もう村のみなさんがいらっしゃってて……」


 と困る若奥さんの声を断ち切るように、さらに障子が全開にされる音がたった。


 ガラガラガラ……


「スラさん!」


「スラさん!!」


 布団から顔だけ出して見ると、そこには昨日畑にいた若いスライムたちと、メスの姉妹と、最長老の白ヒゲの姿があった。


「頼むスラさん!この村にとどまってくれ!」


 そのなかの一匹で、円錐形の頭にねじりはちまきをしたスライムが、そう声をあげる。


「ああ?なに言ってんのお前。俺はさすらいのスライム、スラ……」


「オレたち、ずっと自分たちの力で村をやっていきたいと思ってたんだけどさ!」


 しかし、若衆たちの勢いはやまない。


「でも、どーやってやったらいいかわからねーんだ!」


「スラさんなら、昔みんながどーやって暮らしていたか知ってるはずだろ」


「この村にとどまれば、お姉ちゃんとプニプニできるよ」


 最後のはチカコである。


「ちょっと!チカコ!(照)」


 と顔を赤くするマチコ。



「ワシからもお願いしますじゃ。先祖代々のスライ村を続けてゆくには、今スラ殿どのの力がどうしても必要。スラ殿にはワシの代わりに最長老として村長をつとめていただきたいのですじゃ」


「ジイさん……」



 俺は夢での母さんの言葉を思い返していた。


『強さというのは、なにかを守るために使うの』


 なるほど。


 この強さを、ふるさとのために使うってのは悪くない目的設定かもしれない。


「よし、いっちょやってみっか!」


 俺はそう叫びながら布団からたちあがった。


「キャー!」


「もう!サイテー」


 あれ?


 決意をこめたとたんに、女性陣の評価がだだ下がりに……


 ハッとして鏡を見ると、頭の上の尖りはまだムキムキと勃ったままであった。


「そんな野獣のような目で……」


「だから朝だからしょうがねーんだつーの!!」


 俺は涙目でそう叫んだ。




(おわり)


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