ここは異世界教会クリストファー。
グイ・ネクスト
第1話 異世界教会クリストファー。執筆中
「…どうか夜の女神様、最後の神さま。私にお慈悲を」初老を迎える女性が目をつぶって唱え、手を組み合わせて
「レイ、おはよう。今日は早いのね」と、アンジュは語りかける。
「はい、お姉さまを見習って…その、早起きをしてみました」
「そう、嬉しいわ」と、アンジュは笑う。後ろでくくっている黄土色の髪をほどく。
「え?あのお姉さま?」と、レイは緑の目で驚く。
「レイ、髪型までマネしなくてもいいんじゃない」と、アンジュはレイの金の髪を見つめ、触る。
「後ろでくくったのは、初めてなんです。上手くできてますか、お姉さま」
アンジュの赤い目はしばらくレイを見つめ続けて、前を向いて歩き出す。
「ええ、上手くできているわ。とてもね」と、クリストファー大聖堂の巨大な門をくぐった。前からはシスターたちが慌ただしくロウソクを持って歩いて来ている。それを横目で見ながらアンジュは異形の者たちに目を奪われていく。
自分で両目を抉っている、拒絶の魔王ルキフグス。
顔無しの謀略の魔王メフィストフェレス。
大きな口の狼、暴食の魔王フェンリル。
憤怒の形相で4枚の翼を持つ魔王サタン。
寝そべっていて、あくびをしている怠惰の魔王ベルフェゴール。
海の大蛇にして嫉妬の魔王リヴァイアサン。
男女の絡みを眺めている色欲の魔王アスモデウス。
「いつ見ても心を揺さぶられるわね、レイ」と、アンジュは話しかける。
「もう、姉さんたら。私は畏怖と尊い念が湧き上がって来ますわ。お姉さまと出会えたのもここで石像として祭られている魔王様のおかげですから」
「そうねぇ、ルキフグス様のお導きだったわねぇ」と、アンジュは天井の色とりどりのステンドグラスを見上げて見惚れる。
レイもそれに気づいたのか、一緒に天井を見上げる。
二人が出会ったのは雨吹き荒れる嵐の夜だった。男に捨てられたレイと初めての孫と娘を失ったアンジュの二人は魔王ルキフグスに祈りを捧げていた。
「こんな残酷な世界はいりません。どうか私の命を奪ってください」時間は違ったが、クリストファー大聖堂、ルキフグスの間で二人は祈った。
【明日来るならその命を終わらせよう】
二人は同じ答えを受け取り、次の日、同じ時刻に…まるで約束したかのように二人は出会いを果たした。お互いに失ったモノを話し合っているうちに、どういうわけか意気投合し、二人は一緒に住むことになる。ルキフグスは約束を守ってくれたと、アンジュは今なら分かる。
「過去の私たちの命を奪ってくださったから、レイとの新しい世界を生きているのだわ。きっとね」と、アンジュはほほ笑む。
レイも笑い返し、「ええ、わたしだってそう思います。お姉さまとの新しい世界を生きています」
二人の前をまたシスターたちが通り過ぎていく。今度は聖書を5冊ほど山積みにして、早足で歩いて行く。「今日は何かあるのかしら?」と、アンジュは顎に手を当てて考える。レイはそっとアンジュの右側にきてからつぶやく。
「今日は魔王様降臨の日です。お姉さま」
「まあ。たいへん聖書を忘れてしまっているわ…取りに帰らないと」
「大丈夫です、お姉さま。隣の人の聖書を見てもよいと導師様はおっしゃっていましたから」と、レイは答える。
「じゃあ、見せてもらおうかしら」と、アンジュはレイを見る。
レイもにっこり笑い、首だけで頷いてみせる。
アンジュたちの後ろからバタバタと足音が聞こえる。アンジュは気になって振り向く。泥だらけの青いドレスを着た金髪の女の子が走って来る。靴は履いていない。裸足だ。マメがつぶれたのか、血がにじみ出ている。
アンジュは女の子に近づいた。倒れると分かったから近づいた。小さな体を受け止めてみると、嗚咽と泣き声が入り混じって聞こえてくる。アンジュは自然と抱きしめていた。レイも気になったのか、女の子の背中をさする。女の子が泣き止むと、アンジュは名前を名乗った。「私はアンジュ。あなたのお名前は?」
「チー。お父さん刺されてた。母さんと姉さん捕まった。あちしは小さいからどこへでも行けって……。チーどうしたらいいか分からない。でも、大聖堂。お、覚えていた。だからここに来たの」チーと女の子は名乗った。
「チーちゃん。今日は魔王様が降臨される日…あなたの願いを聞いてくれるかもしれないわ。お祈りを捧げてみて。今日降臨されるのは…えっと誰だったかしら、レイ」
「拒絶の魔王ルキフグス様ですわ」
「魔王様にお祈りすればいいの?」
「お祈りの仕方は知ってる?」
「チー知ってる。夜の女神様、最後の神さま、お慈悲を」と、チーは目をつぶって手と手を組み合わせる。チーの肩まである金髪が揺れる。【チーの頭を誰かがなでる】
【幼き娘、感謝という極上の感情をもらった。連れて来てやる】
チーと同じ金髪で肩まであり、風で揺れている。ただ両目は抉られていて無い。チーは涙を流していた。チーは黒いローブを着ている魔王ルキフグスに抱き着く。
わずか3秒後、虹色の転移魔法陣が発動して魔王ルキフグスは姿を消した。
山の頂上付近にある盗賊団のアジトでは良質の女奴隷が手に入った事、金貨100枚という大金(100万円×100)が手に入って酒盛りはクライマックスに差し掛かっていた。そこへ静かに音も無く、魔王ルキフグスは姿を現す。身長は110センチぐらいだろう。38人いる盗賊の誰も気づかない。檻の中でチーの姉と母親だけが、口を手で抑えている。二人の足元に虹色の転移魔法陣が出現する。二人の姿は消えた。檻を見張っていた盗賊の1人が初めて声を上げる。「き・消えた?消えただとぉ」と、檻の鉄柵をつかみ叫ぶ。波紋は徐々に広がり、盛り上がっていた酒盛りも静かになる。
【遅いよ、ルキはもう仕掛け終わっちゃった…】
38人全員の脳に声が響く。
反射的に逃げ出す者は大きな落雷に体を貫かれる。魔王ルキフグスを見つけて襲い掛かった者は炎で焼かれる。それも灼熱の炎で、わずか一瞬で灰になる。たった1秒という時間だけが過ぎた。38人は断末魔を上げる事さえ叶わず、灰となって地面に落ちた。雨が降り、大地へ流れて行く。
アンジュとレイはチーこと、チェリーを連れてルキフグスの間へ入った。
ルキフグスの間ではチーの姉と母親がチーを見つけて、お互いに抱きしめ合った。
アンジュは母親、ピーチ・スラーからチーの名前を聞いた。
チェリーは姉レメンと母ピーチと一緒の席に座る。座る前に三人はアンジュとレイに頭を下げてくれた。
「お姉さま、聖書のルキフグス様のページを」と、レイが言ってくれる。
アンジュは席に座り、聖書に目をやった。
<世界に絶望し、それでもしあわせを求め、死の先に生きたいと肉体を捨てて生きたいと矛盾した事を望むのも人生。ルキフグスもそうだったのだから。>
導師の声が聞こえる。
正面を見るようにと指示だ。虹色の転移魔法陣が出現する。
魔王ルキフグス様が今再び降臨される。
アンジュは目を閉じて祈りを捧げる。
「夜の女神様、最後の神さま、私にお慈悲を」
肩まである金髪で、両目を抉っている男の子なのか、女の子なのか分からない。
黒いローブを着ている。
ルキフグスの間の中央に現れ、ゆっくりと降りてくる。
目を開いてアンジュは見た。
「ありがとうございます。ルキフグス様」と、アンジュはつぶやく。そっとレイがアンジュの右手を触ってくる。
アンジュは左手を上に重ね、握り返す。
ここは異世界教会クリストファー。 グイ・ネクスト @gui-next
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