10/19 秋 金木犀とチーズケーキ
庭月穂稀
見逃した、思い出した、これからと秋色
金木犀の匂いが広がった街を出た。
秋らしいベージュ基調な色味と軽い長袖の服とオレンジのチーズケーキを引っさげて。
ケーキを注文する時、長時間だとつい遠慮して2時間と嘘ついてしまう私の性格はなんと形容できるのだろうか。
そんなことを考えているとホームについたタイミングで、乗る予定だった電車の扉がしまっていた。
約束の時間には10分ほど遅れてしまうけど、そもそも時間の約束なんて去っていく街の風と似た不確かなものだ。
去りゆく風をわざわざ捕まえて、追いつけないからと謝るのは余程迷惑に違いない。
暮れゆく街並みと優しい日常を鈍行列車から眺めていると何も捗らない。
心に電車の音と同じであって欲しかった摩擦を感じながら、日常と嘘を唄う言葉たちに撫で付けられる。
昨日は良い日だった。
やらなくてはいけないことを嘯いて、嘘ついてきたやりたいことを、誰にでも隠して捧ぐ。
慣れた求められきれないぬるま湯と、期待と不安に塗りつぶされた本心を濁した泥水を啜り。
新しく見えた地図と片翼を無くした小さな旗手と見る、泡沫の夢は心地よい。
悴んだ手と速まる動悸に急かされ、見上げた小指の流星は羨まれる一握だ。
自分を照らして自分を救う奇跡を妄想し、妄想に縋って奇跡に救われるのを願い、自己陶酔する虫は如何だろう。
見逃したものも思い出したものも大きいはずだけど、どこまでも這い回る嫌悪は塗り替えられない。
鋭い槍と後ろの矢と優しい返り血と童話の涙。全てを一身に受けることは幸せだと断罪されているのと違いない。
なんて、信じることも消えていった。
移り変わる秋色はどこまで行くんだろう。
金木犀の香りが終わるまで、定まらぬ道を目を閉ざして全身で感じながら、漂う。
チーズケーキに色を閉じ込めて。
10/19 秋 金木犀とチーズケーキ 庭月穂稀 @Niwa_hotoke
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます