第2話
さて、家を出たものの行く宛てがないのだがどうしたものか。もちろん学園には戻れやしないし、どこかの領地で生きていこうにも通行証がなければ入れない。国外は更なり。野宿など経験したことないが仕方ない。じきに慣れるだろう。自慢ではないが我慢とは付き合いが長いからな。
と、一人でいると思考にのめり込んでしまうな。そうするうちに段々と口から言葉が出なくなってしまったりして。できる限り、独り言でもなんでも呟いておこう。
「おや?」
屋敷から北東へと歩いてきたが、王都付近にこんな森があっただろうか? 私は今まで知らなかった。
「ちょうどいい。木の実や野草には困らなそうだ」
その類の知識はない。が、舌に乗せて痺れなければ毒はないだろう、おそらく。
森に入ると、大量の茸が目に入った。残念ながら茸は苦手なので食べられないのだ。しくしく。木の実はないかと探すが近くには生えていない。それっぽい野草を何本か引きちぎり、懐へ入れる。
「む」
足下からなにやら芳しい香りが。
「でかい」
目をやるとそこには巨大な糞があった。この大きさからすると、かなり大きな獣だろう。おそらく、巨熊か大狼とみた。一応、剣は携帯してきているので追っ払うことぐらいはできそうだが.....。
「狼だと群れが厄介だな」
夜は火を絶やさないようにしよう。それか手頃な穴蔵でも見つけて住処を作るか。
食料集めをしているうちに日が暮れた。
「火起こしは確かこのようにして」
木の棒を剣で削り、摩擦を起こしやすいようにしてから板に擦り付ける。
「魔法なんてものが使えたら便利なのだが」
残念ながらそんなものは御伽噺だ。かつて、この国にも存在したという伝説などない。あるのは巷で流行するような大衆小説の中だけだ。
「馬鹿馬鹿しい」
ようやく、煙が出てきた。後もう少しだ。
「ふぅー、ふっ、ふぅー」
初めてにしては上手く火起こしできたんじゃないか? もしかしたら、私は野営の才能があるのかしれない。実に嬉しくない才能だ。
「あとは消えぬように枯れ枝を継ぎ足していけばいいか」
乾燥しているものがよく燃えると聞く。故に、生きている枝より朽ちかけた枝の方がよいと考え、地面に目を凝らしながら探した。まだ時期ではないので苦労したものだ。
「ふう」
なんだか疲れてしまった。日を起こすだけでも一苦労か。今までの生活からは考えられないことだ。
「恵まれていたのだな、私は」
改めて、貴族という身分の立ち位置を知る。貴族に産まれたというだけで平民と従者たちは私に頭を垂れた。食事一つとっても料理人が作って、着替えひとつとっても給仕がこさえてくれた。しかし、今の私にはもう何もない。
「孤独だ」
すでに精神的な孤独には苛まれてはいたが、物理的な孤独も合わさると少々堪える。火の近くだというのに肌寒い。腹も減ってきた。いくつか木の実は採れたので、それを口に放り込む。
「酸っぱい」
まだ熟れていない果実なのか、もともと酸味が強い種類なのか分からないがとにかく酸っぱい。食べられなくはないが、少し辛い。
「どうしたもの、か」
どこか希望的観測を抱いてここまで過ごしてきたが、現実は如何せん厳しいというもの。これからどうするのだ? 森で生きていくか? 長くは持たないだろう。 街に降りて職を探すか? この近辺では叔父が目を光らせている。
「亡命.....」
もうこの国では生きていけない。だからといって、他国で生きていける保証はどこにもないがこの国で過ごすよりはましだ。
「いや、私はもう貴族ではなかったか」
自嘲の溜息が漏れる。私が行おうとしていることは不法入国だ。もし、バレてしまえば忽ち捕えられ、この国へと強制送還されるだろう。
「運命は潰えたか」
限りない諦観に天を仰ぐと、視界の隅で燻っていた炎がフッと消えた。
─此処だ
「ッ!?」
頭の中から声が聞こえる。
─我は此処に在る
無意識の内に身体が動く。その声に導かれるように。
──我を
私はナニカを蹴り倒した。
「よくぞ成し遂げた!!!」
その声は頭上から聞こえた。
「お前の薄っぺらな絶望が我を再び現世へと導いたのだー! 光栄に思うがいい!」
ああ、なんということだ。今、私の頭に乗っているこの物体は──
「我こそ
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