第6話 第二界域“ラコクマ”
目を覚ますとそこは花園ではなく白いベッドの上だった。
「いてて……」
一体ここは何処なのかと辺りを見回そうとしたら全身が鈍く痛んだ。見れば僕の上半身は包帯でグルグル巻きにされており、消毒液のような独特な臭いが各所から匂っていた。
「気が付かれましたか」
すると執事と思しき風態の老年男性が話しかけて来た。
「え、ああはい。……え?」
ただ、その男性の姿は少しばかりおかしかった。
その男性には、大層ご立派な、爬虫類のような尻尾が生えていたのに加えて瞳孔が縦に裂けていたのだ。
「どうして“ザビナー”に、“ニュート”が……」
「残念ながらこちらは第三界域“ザビナー”ではございません。こちらは
「なんだって!?」
信じがたい情報に思わず大声が出る。
しかしそれも仕方がないだろう。本国の辺境に居ると思ったらその実他国に居たのだから。
「この反応、やはり主の見立て通り……」
そう呟くや、執事は踵を返した。
「あっ……」
「ご心配ならず。主を呼びに行くだけですので。どうかそれまで心安らかにおくつろぎ下さいませ」
そう言われてしまえば引き留める事は出来ず、僕は執事を見送った。
「……にしても“ラコクマ”。……“ラコクマ”?」
この世界には十の大陸……この世界風に言えば界域が存在しておりそれぞれを十の氏族が統治している。順に、
第一界域“メケテル”。統治する氏族は“
第二界域“ラコクマ”。統治する氏族は“
第三界域“ザビナー”。統治する氏族は“
第四界域“ザケセド”。統治する氏族は“
第五界域“カゲプラー”。統治する氏族は“
第六界域“ミティファレト”。統治する氏族は“
第七界域“ハネツァク”。統治する氏族は“
第八界域“ラホド”。統治する氏族は“
第九界域“ガイェソド”。統治する氏族は“
第十界域“サマルクト”。統治する氏族は“
と、言った具合だ。ばあやに都道府県とその県庁所在地をみたいな感じで丸暗記させられたからしっかり覚えている。その時もばあやに「坊ちゃまは本当にDHAが豊富そうな目をしていらっしゃいますね」なんて言われたっけ。
「……ばあや」
そんな事を考えているとギィとドアが開いた。
執事と共に部屋に入って来たのは……。
「ばあや!?」
実に豊満な、バストだった。
「残念ながら私は貴公のばあやではない。私はこの屋敷の主、ティア―シャ・ベルフォルマだ」
ティア―シャと名乗った女性の肉体は凄まじかった。鍛え抜かれた腹筋や大腿を晒し、隠す部分は最低限。それはまごうことなきドスケベの化身であった。
鍛え抜かれた肢体に思わず生唾を呑み込む。ばあやは包容力のある、ちょっと油断した熟れたボディをしているのに対し、こちらのボディはまるで一本の剣のよう。
髪に関してはばあやが金髪なのに対してこちらは燃え盛るような赤色。目つきもたれ目がちなのと、強い意志を感じさせるような吊り目とで全く違う。
ばあやとの共通点は乳のデカさと長さ位しかなかった。
……何だろう。僕はデカくて長い乳にばあやを見出しかけてる気がする。これは良くない傾向だ。ばあやに申し訳ない。
いや、いやいやいやいやいやいやいや。待て。待ってくれ。僕は貧乳派。貧乳派の筈なのだ。
ああ、壊れる。太極が、バランスが、性癖が……ぁぁぁぁぁぁぁぁ。
「あ、もうしおくれました。ぼくは、ヴラド・ニューボーン。ダリウス・ニューボーンとリリア・ニューボーンのむすこです」
「ご丁寧な挨拶だな。態度も落ち着いている。うむ、大変よろしい」
そう言うとティア―シャは僕の頭をガシガシと雑に撫でた。
そう撫でたのだ。僕に近付いて。すると、どうなる。
豊かでデカいものが。揺れる。つまりはそういう事だ。……駄目だ。頭おっぱい星人になりゅ……。
「にしてもニューボーン家の者か。真祖たる彼らなら自分の子供と血袋を投げて“ザビナー”から逃がす事も出来る、か」
「ちぶくろ? それって……」
「ああ、貴公がグレイウルフから守っていたあのイマリティだ。爺やが見つけた時には虫の息だったが、何とか峠は越えた。貴公が必死に狼から遠ざけようとした結果だ。誇ると良い。……まぁイマリティでなければ尚良かったが」
「そっか」
その言葉を聞いて少しだけ安堵する。僕の怪我し損じゃないだけ良かった。
「さて、目覚めた貴公にいきなりこんなことを聞くのは酷かと思うが、それでも教えて欲しい事がある」
「なんですか?」
「“ザビナー”が一晩にして崩壊した“ザビナーの悲劇”、その原因を貴公は知っているか?」
「ほう、かい?」
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