第53話 だって……でしょ?

「ふぁ~あ……」

「起きたか」

「ん、おはよ。ドリーは寝れた?」

「ああ、まあな。野営よりは快適だったが……それよりも早く出してくれないか」

「あ、ごめんごめん。はい、どうぞ」

「うむ、すまんな」


 ドリーは恒にディメンション・ルームから出してもらうように頼むと、そのまま小屋の中からディメンション・ルームの外へと出ていく。


 恒はまだ寝惚けたままの自分の瞼を擦りながら、小屋の外に出ると既に準備していた明良達と合流する。


「「「遅い!」」」

「ごめん! でもさ、疲れていたんだからしょうがなくない?」

「まあな、これだけのことをしたんだから、それも仕方がないか」

「それも分かるけど、早く私達も出たいの」

「お願い!」

「いいけど、どうしたの?」

「「いいから、早く!」」

「わ、分かったよ」


 恒は由香達が焦る理由が分からないまま、このままじゃ自分の分が悪いと感じたのか、素直に由香達の要求通りにディメンション・ルームからの出口を用意すると由香達は競うように外へと飛び出す。


 そんな二人の様子に恒と明良は互いに顔を見合わせながら「???」と互いにクエスチョンマークを頭に浮かべながらも、自分達も外に出ると、そこにはミリーと女将さん、それにドリーが立っていた。


「おはよう、アキラ! ワタルも」

「お、おぉおはよう」

「おはよう、ミリー、女将さん」

「はい、おはようさん。昨夜はすまなかったね。今日も帰って来るのかい?」

「ええ、出来ればそのつもりですが……」

「ふぅ、分かったよ。あんたらの部屋はとっておくよ。ほら、さっさとメシ食って来な」

「「はい!」」


 恒達が宿の食堂に入り、テーブルに着いたところでドリーとミリーも一緒の卓に着く。


「ん? ユカ達はどうしたんだ?」

「さあ?」

「ルームから出ると焦った様子でどっか行っちまった」

「どこかって?」

「知らないし、聞いてない」

「その内、帰って来るだろうさ」


 ドリーからの質問に対し、恒も明良も知らないと答え、明良が心配することもない会話を切ったところで、明良の頭が『ポカッ!』と叩かれ「薄情だね」と聞こえる。


「なんだよ! 何も言わずに出て行ったお前達が悪いんだろうが!」

「お、女の子には人に言えないことがあるのよ!」

「そうよ! 明良には一生分からないでしょうけどね」

「はん! そんなこと言って、結局はお漏らしギリギリだったってだけだろうが! 何が『人には言えない!』だよ!」

「「最っ低ぇ!」」

「アキラ、めっ!」

「え?」

「明良、お前が悪い」

「そうだな。それくらいワシでも分かるぞ」

「ドリーにまで言われた……」


 女子二人が焦っていた理由をなんとなく分かっていた明良だったが、それを口にしたことで由香と久美だけでなく、ミリーにも叱られ、恒には窘められ、ドリーにまで言われてしまった明良だった。


「でもよ、小屋の中にだってトイレはあっただろうが! 折角、恒が着けてくれたのにソレは使わなかったのかよ!」

「「……」」

「なんだよ、まさか……」

「「違うわよ!」」

「ほぉ~何が違うんだ?」

「……あんたが言いなさいよ!」

「……由香が言い出したんでしょ!」

「何よ!」

「何さ!」

「ソコまでだよ! さっさと食べな」

「「「は~い」」」


 明良の言葉に由香と久美が言い合いを始めようとしたところで、朝食を持って来た女将に止められ、恒達は大人しく朝食を食べ始める。


「で、なんで使わなかったの?」

「「……」」

「ほら、恒が聞いているんだ。ちゃんと答えなよ。くくく」

「コロス!」

「潰す!」

「……怖いよ、お姉ちゃん」

「ほら、ミリーが怖がっているだろ。それにもし小屋のトイレが使えないのなら、その理由を言わないとワタルも何を対策すればいいのか分からないだろ。観念して正直に言うんだな」

「「……」」


「じゃ、言うわね」

「お願い、由香」


 恒は折角作ったトイレがなんで使われなかったのがが、知りたかったのだが二人はなかなか口を開いてくれない。


 そこを明良が追い討ちを掛けるように揶揄うものだから二人は明良を睨み付け、汚い言葉が口から出てしまう。


 それを聞いた明良は、自分の股間を守るようにギュッと握りしめる。そしてドリーがそんな二人に対して、ちゃんと使わない理由を言わないと恒が対策しようがないだろうと窘めると由香は嘆息してからゆっくりと話し出す。


「不安なの」

「「「はい?」」」

「だから、不安なの!」

「えっと、何が?」

「だから、ディメンション・ルームって要は閉鎖空間でしょ。そんなところで用を足したら、その……出たモノがどこに行くのか分からないし、閉鎖空間だから臭いも気になるの!」

「やっぱり、で「「違うから!」」……お、おう」

「アキラ、だまってて!」

「……ごめん」


 恒は二人が気にしていたことに対し「分かったよ」と答える。


「要はどんなに大きい音がしても臭くても問題ない様にすればいいってことなんだね!」

「「「……」

「恒……それは俺でもフォロー出来ねぇよ」

『ごめん、僕でもドン引きだよ』

「くくく。アキラのことは言えないな」

「え? なんで? だって、そういうことなんでしょ?」

「恒、あのなモノには言い方ってもんがあるんだ」

「明良に言われた……」


 恒は二人が悩んでいることの解決策を話したつもりだったが、なんでも正直に言えばいいってものではないということを今さらながら実感したのだった。


「でも、消臭消音は必要なんでしょ?」

「それはそうだけどさ、言い方ってものがあるでしょ!」

「でも、私は恒にならいいかな……」

「ん?」

「久美、それはズルくない?」

「そうかな? 私は正直に言ったつもりだけど?」

「……じゃあいい! 恒が聞きたいのなら、何もしなくてもいい! 嗅ぎたいのなら、袋に詰める!」

「え?」

「由香、それは流石に……引くわ」

「何よ! 裏切るの!」

「裏切るも何も、袋に詰めるって何を詰めるつもりなの?」

「何をって……あ!」


 久美の言葉に自分が何を口走ってしまったのかが分かり、顔が赤く染まっていくのを感じながら「見ないで!」とテーブルに突っ伏す由香だった。


「相変わらずのポンコツだな。ワタル、やっぱり考え直した方がいいと思うぞ?」

「ハハハ……」


 ドリーの言葉に対し乾いた笑いで返すしかなかった恒だった。

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