第52話 恥ずかしながら

「用事を済ませたら帰って来るんだろ」

「ん~多分ね」


 冒険者ギルドから出たところで、魔竜馬マジカル・ドレイクホースに群がる子供達や職員のお姉さんをどうしようかなと思っていたら、ギルマスに唐突に話しかけられた恒はそう答える。


「なんだ、ワタルにしちゃ煮え切らないな」

「だって、いつになるか分からないからね」

「でも、必ず戻って来るんだろ。それがドリーの為ならな」

「ん? もしかして知ってるの?」

「ふふふ、さあな。でもソレを言わないのも優しさだろ」

「確かにね。まさか、ギルマスにそんな気遣いが出来ることに驚きだよ」

「お前な……」


 ギルマスがドリーと女将のことに暗に気付いていることを恒に言えば、恒はそんな気遣いが出来たギルマスに驚く。だが、ギルマスが言うには女将の片想いはドリーが消えた十年前から継続中であることは周知の事実だと言う。


「え? そうなの。それなのに……何やってんのドリー……」

「まあ、そう言うな。女将も女将で長命種だからな。特に焦ったりはしないんだろうよ。ドリーもそうなんだろ」

「あ~そういうこと。でも、女将さんも長命種って……のは初耳なんだけど」

「……なんだよ。俺からは言えないぞ」

「え~気になるじゃない」

「そういうのは本人に直接聞くんだな」

「もう、分かったよ。これで俺にもここに帰って来る理由が出来たね」

「随分、薄い理由だな」

「もちろん、それだけじゃないけどさ。ってのがあるだけでも、気持ちは強く持てるよね。『ここに必ず帰って来るんだ』ってね」

「ふふふ、そうだな」

「それまで生きてるよね?」

「……出来れば俺が現役でいる間に戻って来てくれな」

「分かったよ。じゃ、あのお姉さんをどかしてもらえるかな。そろそろ出たいし」

「お! そうだな。お~い、仕事に戻って来い!」


 ギルマスはそういって魔竜馬マジカル・ドレイクホースに頬ずりしている職員のお姉さんに声を掛けるが聞こえないふりしたままモフモフを堪能している。


「仕事だと言っているだろ!」

「あ~そんなぁ~あ、そうだ! このままワタルさんに私も着いて行けば「「ダメ!」」……え~」


 職員のお姉さんは余程魔竜馬マジカル・ドレイクホースが気に入ったのか、このまま恒達に着いて行くと言い出したところで、由香と久美が声を揃えて「ダメ!」と言う。


 そんな不満そうな職員のお姉さんはギルマスの手で上へと持ち上げられ、ギルマスが「今の内に」と恒達にさっさと行けとばかりに片手で払うような仕草をする。


「うん、じゃ行こっか。ホスさん、帰って来た時は馬車のメンテよろしくね」

「おう、任せとけ。ドラゴ達も元気でな!」

『『『じいちゃん、行ってくるね!』』』


「ドリー、やっと会えたと思ったら……」

「女将、そう言うな。それとありがとうな。ミリーの世話助かった」

「……だって、そりゃアンタの子だと……」

「ん? なんだ?」

「なんでもない! さっさと行っちまいな!」

「……お、おう」

「お母さん、行ってきます」

「ミリー、さようならだね」

「違うよ。お母さん、ちょっと旅に出るだけだから、だよ」

「そ、そうか。そうだよね。ミリーは帰ってくるんだよね」

「もう、お母さん。また間違ってる!」

「え?」

「ミリーだけじゃなくて、お父さんもそうだけど、ワタルもアキラも一緒に帰ってくるんだよ。それにもしかしたら、私はおか「ミリー、そろそろいいかな」あ……アキラ」

「ふふふ、アキラ。こんなミリーだけどよろしくね。今度会う時は私は『お婆ちゃん』って呼ばれるのかしら」

「女将、それはワシが許さない!」

「お父さん!」

「ふふふ、やっぱり淋しいわね。ちゃんと笑って送り出そうと決めていたのにさ。今まで何人も送り出して来たってのに……どうしてなんだろうね。ミリーにちゃんと『行ってらっしゃい』って言わなきゃいけないのに……」

「女将!」

「お母さん!」

「「「女将さん!」」」

「「「行ってきます! 絶対に皆で帰って来ますね」」」

「……」


 ドラゴが牽く馬車を由香と久美が操り、その前に明良とミリーが乗ったドラザ、馬車の後ろに恒と小夜を乗せたドラジが続き街を出る。


「で、どうしてここにいるんだい?」

「「「……」」」

「黙ってないでなんとかお言いよ!」

「「「……」」」

「お母さん、そんなに怒らないでよ」

「ミリー、そうは言うけどね。お昼頃にやっと出て行って、こっちはあんた達が出て行った後の喪失感をやっと拭えたと思ったら……いきなりなんだい! 『ただいま~あ~お腹減った』って……はぁ~」

「女将、そうは言うがな。ワシは反対したんだぞ。でもな……」


 ドリーがやっと口を開いたと思えば由香と久美を見ながら弁解を始める。そしてそれに気付いた女将は由香達ではなく恒に質問する。


「あんたならちゃんと説明出来るんだろ」

「あ~うん、そうだね。えっとね……」


 恒は女将に説明した内容は、日が暮れ始めたが、街を出たのが遅かった為に次の街に入るまでに夜になり身動きが取れなくなるから、野営できる場所を探そうとなったところで、由香と久美が「そんな話は聞いてない!」と騒ぎだした。


 恒達男性陣とミリーは別に野営でも問題ないと答えれば「私達はイヤだ」と駄々を捏ね始めた。そして恒が「じゃあ、どうするんだ」と言えば「戻ればいいじゃない」と言われるが、今さら街に戻るにしても途中で真っ暗になり結局は野営になると説明する。


 だが、由香達が言いたいのはそうではなくて、恒ので戻ればいいという話だった。すると、ドリー達も「確かに」とその提案に乗っかるが、ここで一つ問題が残る。


 女将の宿に戻るにしてもドラゴ達を世話する厩舎がないという問題だ。だが、それはミモネの提案で瞬殺された。


「えっと、どういうことなの?」

『だから、ワタルがこの子達の場所を用意してあげればいいの』

「えっと、だから、それが分からないんだけど?」

『もう、なんで分からないの』

「いや、普通分からないでしょ。そんな急に場所を用意しろって言われてもさ」

『もう! だからね。ワタルがを作って、そこにこの子達が入るの! 分かったの?』

「え? なにそれ?」

『もう! ワタルは空間魔法が使えるでしょなの! それでディメンション・ルームを作るの!』

「空間魔法……あ! そういうことね。分かったよ、ミモネやってみる」

『ふぅやっと分かってくれたの』


 恒はミモネの提案通りに空間魔法でディメンション・ルームを作成し、中を確認する。


『出来たの。でも、何も無いのは淋しいの』

「え~そう言われても」

『ワタルはこの空間の中ならなんでも出来るの! やってみるの!』

「……分かったよ。じゃあ、草原が欲しいかな……あ! 出た!」

『その調子なの。他にも川とか山とか作るの!』

「うん、やってみる!」


 いつの間にか恒とミモネはディメンション・ルームの模様替えに夢中になり、完全に足が止まっていたドリー達もそんな恒達の様子に呆れていたが、本格的に夜になり始めたので恒とミリーの暴走を止め、宿へと転移するのだった。


「そう、でももう部屋はないよ」

「「「え~」」」

「ミリーはお母さんと一緒に寝ようね」

「うん!」

「「「あ……裏切り者……」」」

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