あの懐かしの音に酔いしれて
息を切らして辿り着いた場所は、とあるアパート。
小さなちょっと古いアパートだ。
タイミング良く、2階から会いたかった人が部屋から出てきた。
「
すると、その人は俺の方を見た。
「
手を振って、階段を駆け下り、俺の所に来てくれた。
「どうしたの?お引っ越しは?」
首を傾げて心配する。
「大丈夫、それよりも話そう」
「良いよ?実はビックリさせようと燎ちゃんの所に行こうとしていたんだ」
「そうだったの?」
「そうだよ!もう驚かされちゃった!」
「ごめんごめん」
大好きな、俺の彼女、灯美。
※
大学3年に、一緒のゼミになってから話すようになった彼女。
身長は俺の胸あたり、髪型は前髪を揃えて肩くらいの長さで、暗めの茶髪。
目鼻立ちは整っていて、笑顔だと向かって右にえくぼが出来る。
話してみると意気投合して、直ぐに恋人になった。
一緒にいて楽しくて癒されて、高校の時に初めて付き合った時とは感覚は違った。
一緒にいたい、離れたくない、という感覚が、高校の時はちょっとしたことで不安になって嫉妬して、執着だったのかもしれない。
でも、大学生になって、彼女と出逢って付き合ってみると、嫉妬と執着はなかった。
愛の中に、信頼感と絆が、2人を強く結んでいる感覚があって、どっしりと構えられた。
だから、遠距離になってしまうという現実を話し合った結果、約束事を決めて遠距離でも付き合う事にした。
彼女には支えられっぱなしだ。
俺がしっかりした大人にならなければ、と思う。
「燎ちゃん」
「ん?」
「ボーッとしてた」
「ああ、ごめん」
2人で静かな落ち着いた場所である図書館に移動した。
その中にある個室にいた。
話しても防音だから問題ない。
「そうだ、これを見せたくてさ」
鞄からオルゴールを取り出した。
「あっ、懐かしい!」
覚えていたようだ。
「私が燎ちゃんの為に考えて考えてこれにしてプレゼントしたんだもん」
「うん」
「でも、なくしたって聞いて、暫く口聞かなかったね」
笑って話す灯美。
本当になくしたって言ったら、3ヶ月は口聞いてくれずプライベートで会ってもくれず。
このまま自然消滅すると思ったら、ゼミ仲間が見かねて仲直りする場を設けてくれて、仲直りしたのだ。
「ところで、どこにあったの?」
「うん、それがさ…」
そう、このオルゴールがあった場所は。
「机の下にあった箱の中でして、奥にありました」
「嘘…身近なとこじゃん!」
「はい」
整理する為にその箱の中を断捨離していたら出てきたのだ。
「どうして?」
「俺にも」
「まあ、あったから良いけど!」
「ごめんな」
本当に俺って奴は。
「さっきから、ごめんしか言ってないから禁止!」
「えっ?」
そんなに言っていたか。知らなかった。
「ねえ、音聞きたい」
「良いよ」
俺はネジを数回巻いて蓋を開けた。
「わあ…綺麗な音だね」
頬が緩み微笑んでいる灯美。
「良かった…見つかって」
「うん、ありがたい」
「だね」
2人で笑い合って、またオルゴールに酔いしれる。
「灯美」
「なに?」
「必ず迎えに行くから」
「燎ちゃん…」
「待たせるけど…早く迎えに行く」
最短5年を目処に必ず。
すると灯美はニコッと笑った。
「待ってるから」
「ありがとう」
「こちらこそ」
少し早いプロポーズ、(仮)が付くけれど。
それから10年の月日が流れた。
※
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
2人の間をすり抜けて行った小さな子供。
「行ってきます、おかあしゃん!」
「行ってらっしゃいって、
妻の灯美は4歳の息子と俺を見送る。
「おとうしゃん、早く早く!」
廊下で待つ息子の駿。
「おお、待て待て!」
俺は息子を幼稚園に送ってから職場に向かった。
あの懐かしの音に酔いしれて 奏流こころ @anmitu725
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