あの懐かしの音に酔いしれて
奏流こころ
思い出の箱
引っ越しの準備をしていた。
段ボールに、部屋に置いていた物を入れていく。
この4年間、お世話になった部屋。
友達を呼んで、ゲームで遊んだり、定期考査の勉強会をしたり、3年から4年はゼミ仲間と一緒に就活を頑張って、卒論を頑張って。
もちろん、好きな人を呼んで、イチャついたなぁ…。
来月からは社会人として、世の中に貢献していくのだ。
襟を正して、ネクタイを結んで。
どんどん部屋の中は空になる。
全部段ボールに入れたら、午後から来る引っ越し業者に運んで貰う。
その後は身の回りの掃除をもう1度。
ピカピカにして、次の人にバトンタッチだな。
窓を見ると、外は晴れていて、射し込む太陽の光は眩しい。
※
「あれー…?」
最後の1つとなった小さな赤い箱。
縁は金色。
脇にはネジがついている。
開けてみると、オルゴールだと気付く。
「試しに巻いてみるか」
一旦蓋を閉めて、ネジを数回巻いた。
ゆっくりと、もう1度開いた。
優しく音楽は流れ始めた。
とても綺麗な音。
そうだ、これは、もらったんだ。
誕生日にプレゼントって。
鼓動が早くなる。
なんとも言えない感情が、沸々と沸く。
今から行かなければ、と思った。
早くしないと、と。
このオルゴールが「早く行け」と、訴えている気がした。
だから、自分はー…。
貴重品とオルゴールを鞄に突っ込んで、置き手紙をしたためて。
靴を履き、玄関を出て、鍵を閉めて、ポストに鍵を入れて、ポストの蓋に手紙を貼って。
急いで駆け出した。
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