あの懐かしの音に酔いしれて

奏流こころ

思い出の箱

 引っ越しの準備をしていた。

 段ボールに、部屋に置いていた物を入れていく。

 この4年間、お世話になった部屋。

 友達を呼んで、ゲームで遊んだり、定期考査の勉強会をしたり、3年から4年はゼミ仲間と一緒に就活を頑張って、卒論を頑張って。

 もちろん、好きな人を呼んで、イチャついたなぁ…。

 来月からは社会人として、世の中に貢献していくのだ。

 襟を正して、ネクタイを結んで。

 どんどん部屋の中は空になる。

 全部段ボールに入れたら、午後から来る引っ越し業者に運んで貰う。

 その後は身の回りの掃除をもう1度。

 ピカピカにして、次の人にバトンタッチだな。

 窓を見ると、外は晴れていて、射し込む太陽の光は眩しい。



「あれー…?」


 最後の1つとなった小さな赤い箱。

 縁は金色。

 脇にはネジがついている。

 開けてみると、オルゴールだと気付く。


「試しに巻いてみるか」


 一旦蓋を閉めて、ネジを数回巻いた。

 ゆっくりと、もう1度開いた。

 優しく音楽は流れ始めた。

 とても綺麗な音。

 そうだ、これは、もらったんだ。

 誕生日にプレゼントって。


 鼓動が早くなる。

 なんとも言えない感情が、沸々と沸く。

 今から行かなければ、と思った。

 早くしないと、と。


 このオルゴールが「早く行け」と、訴えている気がした。


 だから、自分はー…。


 貴重品とオルゴールを鞄に突っ込んで、置き手紙をしたためて。

 靴を履き、玄関を出て、鍵を閉めて、ポストに鍵を入れて、ポストの蓋に手紙を貼って。

 急いで駆け出した。

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